先日行われたG20大阪サミットにおいて、学生通訳ボランティアを務めた塩川健斗さん。

航空工学の研究を続けながら、航空部や進学をサポートする学生団体「シェアキャンパス」の部長・代表を務め、またエンブリー・リドル航空大学の学生の来訪時には生活や履修をサポートする日本人学生チーム「バディ」の初代リーダー、そしてトビタテ!留学JAPANに合格してアメリカの大学に留学するなど、実に多彩な経験を積み重ねてきました。

そんな塩川さんがこれまでを振り返って感じたこと、これからのこと、受験生・高校生に伝えたいことなど、たくさんのお話を聞かせていただきました。

■プロフィール
工学研究科 航空宇宙海洋系専攻
航空宇宙工学分野 博士前期課程2年
塩川 健斗

塩川さん

 

<塩川さんが伝えたい4つのキーワード>

・自分の心(直感)に従う勇気を持とう。
・まずは経験しよう。
・自分のことを一歩引いて見る余裕を持とう。

・自分が思うよりも、未来はきっと開けている。

 

ー自分の心(直感)に従う勇気を持とう。ー

オレゴンへの留学について

1年生の時からいつか留学したいとは思っていたものの、学域生の時は周りから遅れる、周りと方向がずれるのが嫌だという感覚があり、なかなか踏み出せずにいました。

大学院進学時、留学するには院生期間が最後のチャンスだと気づき、想いを強くして留学先を探し始めました。日本を含む世界196カ国に何万という高等教育機関がある中で、
最終的にはアメリカのオレゴン州立大学で半年間学ぶことになりました。

オレゴン州立大学留学中の塩川さん

父親がアメリカ好きでしたので、その影響で漠然とアメリカで学ぼうという思いがありました。そのアメリカでも何千という機関がある中で、まず自分は留学先で何をしたいのか?を考え、自分は語学の習得だけが目的ではなく、その大学の講義を向こうの学生に混じって受講したいんだ、学びを得たいんだと気づきました。

その気持ちを留学エージェントに相談したところ、南フロリダ大学とオレゴン州立大学に希望に合うプログラムがあると知りとても悩みましたが、ちょうどその頃アイルランドに留学していた同級生が「留学は、旅行では絶対行かないようなところに行く。」と言っていたことをふと思い出し、フロリダに比べて正確な場所も分かっていなかったオレゴンを選びました。また、オレゴン州立大学は自専攻の工学分野が強いこと、治安が良いということ、あとはなぜだかオレゴンに惹かれる気持ちがあり、オレゴンに行く事に決めました。

「トビタテ!留学JAPAN」に応募したタイミング

全国から研究目的などで多くの応募がある制度ですので、はじめは自分が受かるとも思っていませんでした。申込書を書くのに2ヶ月もかかり、さらに院試の勉強も重なり、ずいぶん弱気になりました。

トビタテ!の結果がどうであれ留学するつもりでしたので、一時期応募もやめようかと悩みましたが、前年にこの制度で海外に渡った先輩に書類内容を相談し、励まされ、だめ元でも応募してみようと踏み出すことができました。

面接後や採択後に催された懇親会では全国から優秀な学生が集っており、この凄いコミュニティの中に自分が居られること、今後つながっていけることが嬉しく、あきらめずに応募してよかったと思っています。

留学中に経験した、つまずきと切り替え

父親や友達からのアメリカ像を聞いて出発前までは期待と楽しみでいっぱいでしたが、最初の3ヶ月間住んだルームシェア形式の大学寮では同室2人が中国人。彼らが中国語でのみコミュニケーションを取るのでなかなか馴染めず、少しつらい思いをしました。

留学経験のある友人に相談したところ“焦るな”と言われ、まあ先は長いし「外に目を向けて」のんびり楽しもうかと気持ちを切り替えたのが良かったのだと思います。そうしているうちに自然に話す友人・知人は増え、集う仲間も増えていきました。

現地での交流で心掛けたこと、「I care you

出発前にトビタテ!留学JAPANの事前研修があり、出資している企業の役員の方がお互いにどんなときでも相手を思いやる「I care you」という精神を紹介され、強く心に響きました。

インタビュー中の塩川さん

留学中、文化や生活習慣の違いで中々自分の思うようにいかない、伝わらないことは多々ありましたが、常に心に留めていたのは「I care you」。嫌になるのではなく、それでもあなたのことを受け入れますよという気持ちでいることに努めました。そういう気持ちが相手にも伝わり、振り返ってみれば本当にたくさんの人と繋がることができたと思っています。

例えば、図書館で勉強しているとき、同じテーブルの学生がもの凄くきれいな犬の絵を描いていたので思わず見入っていると、興味があると思ってくれたようでとても丁寧に絵の説明をしてくれました。何かお礼の気持ちを表現できればと思い、日本の紹介とコミュニケーションツールを兼ねて持っていた折り鶴をプレゼントしました。

それがきっかけでランチを共にし、大学のこと、授業のこと、文化のことなど色々と教えてもらい、留学期間を通じて支えてもらいました。今回の取材で伝えたかった、自分の心(直感)に従う勇気を持つという生き方についてもその方から学んだもので、僕の人生観を変える大切な出会いでした。「I care you」の精神が多くの事を僕に与えてくれたと感謝しています。

留学を終えて得たこと

色々な観点で、人生が豊かになりました。

さきほどの犬の絵を描いていた学生が、自分の心に素直に従って生きていると感じ、僕自身も帰国後、それができるように自分の生活スタイルを変えました。朝は自分の時間を作るようにし、絵を描いたり航空工学以外に関心がある様々なことを勉強し、それから大学に行って研究するようにしています。

今やっておきたいと思うことを抑えることなく生きてみようと工夫し始めました。すると、あれもこれもやろう、やらねばとなって、やる気も増しますし、すべての効率が良くなったように思います。

自分の心に素直に従う、そのための工夫や努力を行うことで、自分の人生がより意味のあるものになったと実感しています。出会った人達から得た価値観のお陰で、自分の人生はより豊かになったと思います。これも「I care you」の精神のお陰です。

オレゴン州立大学の様子

まずは経験しよう。ー

留学中、踏み出してよかったと思うこと

アメリカはキリスト教を信仰する方が多いので、時々教会に誘ってくれます。宗教が違う(どちらかというと無宗教)自分に取って最初はそういう所に行くのは怖かったのですが、「まずは経験してから判断しよう」と思い、勇気を出して行ってみました。とても歓迎してもらえ、そのコミュニティでの友人も沢山できましたし、いろいろな勉強にもなりました。

また友人たちは、それぞれのコミュニティのちょっとした旅行にもよく誘ってくれました。僕から見たら知らない人が多いので、これもなかなか踏み出しにくかったのですが、同様にまずは経験と思い参加してみました。参加してみると、新たな人との出会いがとても楽しく、最終的には僕も誘う側になっていました。交流したいと思うことが新たな出会いを生み、性格の壁を越えるにも語学力向上にもつながると実感しました。

まずは踏み出し、経験してほしいです。

航空工学を学びたいと思ったきっかけ

航空工学を学ぼうと決めたのは、大学入試を控えた高3の頃でした。それまでは漠然と工学分野に進もうと思っていたのですが、小さいときから家族旅行で飛行機に乗る機会が多かった影響なのか、よくよく内省してみると旅客機が好きな自分がそこに居た、と気づいたことがきっかけです。

大学に入ってからは航空部にも

航空を学べる大学を選んでいたので前期では東北大学も受験しました。結果、中期合格の府大に入学して、2年生から課程選択できるので航空宇宙工学課程を専攻します。

グライダーに搭乗する塩川君の写真課程での学び以外でも航空に関する経験を増やしたいと思い、2年(1年生のとき?)の時に航空部に入部しました。航空部は、本物の航空機(グライダー)を自ら操縦して自由に空を飛ぶ部活で、僕が学びたかった「飛行機を作る」こととは少し外れますが、学んだ航空工学の知識は操縦する上でも役に立つことを実感できました。

航空部では2年生、3年生の2年間にわたり部長を務めました。正直、つらい事もたくさんあり、辞めて楽になろうと思ったこともありましたが、「ここで、途中で辞めるのは何か違う」という自分がいたのと、先々の後輩に同じ思いをさせたくないという気持ちで、どうにか2年間を務め切ることができました。今は頼りになる後輩が引き継いでくれ、みなで部を盛り上げてくれています。

航空部部長の経験から思うこと

4年生のとき、航空関連の分野を学ぶ全国の大学生を対象とした文部科学省主催の実機飛行実習があると部顧問の先生から教えていただくチャンスがありました。幸い選考にも通過し、数名の学生とともに、自衛隊出身のテストパイロットが操縦する小型ジェット機に搭乗できました。

実習では、参加学生にそれぞれ役割が与えられるのですが、自分は「どうせなら自ら動いてみよう!」と手を上げ、自チームのリーダーを務めさせてもらいました。
飛行実習中は操縦士と唯一コミュニケーションを取るとともに各学生に指示を伝えました。部を率いていた経験があったからこそ、抵抗なく出来たことだと思います。

「G20大阪サミット」通訳ボランティア

留学中、たまたま大阪府立大学の学内ポータルを見たとき、G20大阪サミットの学生通訳ボランティアの募集投稿がちょうどUPされていました。留学中にポータルを見ることはほとんど無かったのに、その時なぜ見る気になったのかが本当に不思議です。これも留学中の良い出会いからの派生で、誰かが日本から呼んでくれたのかもしれませんね。

通訳ボランティア中の塩川さん

 

学生の立場で、国際的なイベントに関われる。しかも大阪で。「これや!」と心が響き、すぐに応募しました。留学中だったので面接等の選考に不安はありましたが、大学の担当職員の方々が後述するエンブリー・リドル航空大学プログラムでお世話になった方ばかりだったので、ずいぶんと助けて頂いたと思います。

G20の会場では村田製作所の企業PRブースで翻訳ボランティアをしていました。ブースでは自転車に乗るロボットをPRしていましたが、体験型ではなく展示閲覧型のブースなので動員が難しく、翻訳ボランティアでありながら積極的に色々な国の方にお声がけもしてブースへの誘導もお手伝いしました。

また、より良くしたいという思いから、留学先でもそうしていたように各ブースに来られた方に折り鶴を渡せないかと事務局の方に提案しました。採用には至りませんでしたが、事務局の方はその提案をなんと外務省まで持っていってくれました。そこで感じたことは、学生のいち提案であっても伝えること、発信することで物事は変えることができるということです。

事務局の方の選定で、吉村知事との決起大会や現地において新聞社やテレビ局などの取材対象学生に幸いにも選んで頂きました。こういった幸運も、積極的に交流や発信をしていたからかもしれません。すべての方に感謝したいと思います。

ー自分のことを一歩引いて見る余裕を持とう。ー

エンブリー・リドル航空大学来訪時の「バディ」結成

国際交流グループの職員のみなさんに留学相談に乗っていただいておりましたので、トビタテ!の合格報告に伺ったところ、ちょうどアメリカにあるエンブリー・リドル航空大学の学生が10数人の規模で、なんと1ヶ月間も府大に滞在する話がまとまったことを聞き、学生側で何かお手伝いできることがあれば、是非やらせて欲しいとその場でお願いしました。

バディの初代リーダーを務めていた塩川さん

 

そういった偶然もあり、ほどなく府大生有志サポーター「バディ」の募集が始まり、依頼があって僕と先輩との2人でバディの初代リーダーを務めさせていただきました。エンブリーの学生たちが来たのはちょうど自身の留学1ヶ月前でしたので、そこでの経験がそのまま留学先での良い流れにつながりました。

2年めとなる今年は僕もバディメンバーには入っていますが、リーダーは頼れる後輩に任せています。とても楽しそうで、盛り上がっている様子です。ただ、エンブリーの学生も今年はまたひとつテイストが違い、次回も前回通りにすれば成功するということは無く、常に相手に合わせる気持ちが大切だと痛感しました。これも「I care you」ですね。

後輩に引き継いだ時は、自分は一歩引いて後ろから見ます。「何かあったときに助けられるよう、常に後ろに僕が立っているから好きなようにやっていいよ」と伝えています。その方が思い切ったことができて、その可能性は広がると思っています。

バディメンバーと塩川さん

高校生に対して伝えたいこと

今はプレッシャーがどんどん押し寄せて、そして勉強は大変だと思いますが、常に一歩引いて自分を見る余裕を持って欲しいと思います。

例えば、凄く忙しくても1日30分はコーヒーを飲む時間を意識して作るとか、少し時間をおいて「なぜ出来なかったのか、何をすべきか」をゆっくり考える時間を取るとか、必要以上に焦らず一歩引く余裕を持つことが今後においても大切だと思います。

また、いまやっている勉強は将来、何の役に立つのかと疑問を持つこともあると思いますが、自分の引き出しが多ければ多いほど応用が効きます。“Connecting the dots”、学んだことはどこかに繋がっていくんだということを知っておいて欲しいです。ぜひ今より未来の自分のために、ポジティブに勉強してください。

 

ー自分が思うよりも、未来はきっと開けている。ー

アメリカでは、高校生にして大学の講義を受けている人がいました。その後3年生として大学に入学し、たった2年間、20歳で大学の学位を取って卒業していきます。そこには大学入試とかそういったものではない、スケールの大きな高い知力と学びの仕組みがありました。

そんな、自分の感覚ではかれない世界が日本を飛び出せば存在していて、そして日本の中にも少しずつ広がっていることを、若い時から意識しておくべきだと思います。

みなさんの時代は、またさらに変わる。テストや受験など、目の前にとらわれすぎず、世界の学びや知識の引き出しの多さが先の自分を作るんだという広い視野を持って進んでいってください。自分自身が思うよりも、未来はきっと大きく開けていると思います。「I care you」と、まずは踏み出し経験すること。これできっと大丈夫です。

塩川さん

 

いま研究していること、そしてこれから

「空を飛ぶことが、もっと身近になるシステム」の研究をしています。

GPSを応用した空飛ぶ車の「空路」の研究など、空という空間をもっと身近に使ってストレス無く、人の移動が活発になって、みんながキラキラと自分の心に素直に従える社会を作ることが目標です。

 

帰国後、新しい研究室に移ったので、そこでの研究が楽しければ博士課程(博士後期課程)に進むことも選択の一つですし、空飛ぶ車の研究を進めているアメリカの会社で働くなどの選択肢もあります。

僕の未来もまた、自分が思うよりも開けていると信じています。

 

【取材日:2019年7月17日】