2019年8月23日(金)、I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは大阪府立大学 大学院理学系研究科教授 地域防災センター所長の伊藤康人教授。テーマは「活断層と私たちのくらし―その調べ方とつきあい方」です。今回のアカデミックカフェは、伊藤先生が書き下ろした本の出版を記念して版元である大阪公立大学協同出版会との共催。同出版会の八木理事長による挨拶の後、先生による講演が始まりました。
阪神淡路大震災から20余年、日本列島は地殻変動活発期に入り、次々と被害地震が発生しています。2011年には東日本大震災が発生し、深い傷跡を残しました。そのような状況を反映して、災害と防災に対する私たちの関心は高まっています。
まず活断層の調査方法について。従来の手法は空中写真の判読、過去の活動歴を明らかにするトレンチ調査法、地震考古学からの情報を元にした考察など。しかし地下構造、変形の累積性など調査することが困難な問題もあります。そこで新しい調査法として注目されているのが、人工衛星から地殻活動を捉えるリモートセンシング技術や地盤を掘り進めるボーリング調査、重力・地磁気異常。また地震波を使って地中を探査する人工地震探査、地質構造の剥ぎ取りなど、目的に応じた手法により活断層を調査して、防災に役立てています。
次に、私たちが日常で得ている災害の情報について。例えば西の端から断層が割れるか、東の端から割れるかによって震度は変わり、災害情報などで発信される揺れの仮説(情報)は異なってきます。私たちが目にする災害情報は参考になりますが、実際に地震が起こったらどのように行動するかを考えるべきと先生は提唱します。
続いて、災害に対する社会の取り組み方と課題について。先生がクローズアップしたのは地区防災計画。内閣府が運営する防災関係のホームページには、災害への対策として地区防災計画作成を促す内容が書かれていますが、実行できるほど世の親御さんに時間的な余裕はありません。災害が起こると早く逃げた方が良い。行政はそのための正確な情報を迅速に伝えて欲しいと先生は訴えます。
一方で、地区防災に力を入れているのは、阪南市舞地区の自主防災会。こちらでは災害時の逃げ道が記載されている避難マップを独自に作成しました。費用は行政の基金制度を活用し、足りない分は自分たちで捻出。全て手製のマップです。また地区にあるデイサービスセンターに災害時の避難先になって欲しいと依頼し、避難場所まで自分たちの力で確保しました。
最後に、先生が所長を務める「地域防災センター」について。府大ホームページ内「学術情報リポジトリOPERA」へ防災情報のアップロードや、廃油をディーゼル燃料に還元できるプラントを利用した電力供給など、あらゆるプロジェクトが進行しています。また学外実習で先生が学生たちと一緒に作成した避難マップは、授業だからできる社会貢献・防災対策の好例。今後は誰でも閲覧できるようなシステム化をめざしたいと先生は意気込みます。
「私のルーツは地質学だから、そこを真摯に取り組まないとプロとして正確なお話ができません。だから質問された時、正確に答えることができるよう、備えをしっかりしたいと考えます。このようなお話は無理に聞かせてはいけないですが、興味のある方にはちゃんとお伝えする。そういうスタンスが大切です。私のように調査する側の人間はもっと頑張るべき。でも住民の皆さんも災害への対策・対応は、常に真剣に考えておいて欲しいと思います」と先生は最後にお話くださいました。
将来発生が予想される南海トラフ地震は、関西圏に住む人々にとって意識しておくべき問題です。地震に対して私たちにできるのは、日頃から防災への意識を高め、それぞれができることを考えてしっかり備えを準備すること。災害・防災について改めて考えるきっかけとなった、この日の伊藤先生の講演でした。
<先生のおすすめ本>
『活断層と私たちのくらし――その調べ方とつきあい方』(大阪公立大学協同出版会/伊藤康人 著)
【取材日:2019年8月23日】※所属は取材当時