校友懇話会の様子、写真

大阪府立大学を卒業し、第一線で活躍されている先輩方のお話を聞くことができる校友懇話会。今回は、株式会社エヌ・ピー・シー代表取締役社長の伊藤 雅文さん(工学部機械工学科卒業)が登壇されました。

90年代半ばにパネル製造装置で太陽電池市場に参入された伊藤さんですが、参入に至るまで、そして参入後も続いた波瀾万丈の、でもへこたれない人生やビジネス展開、これからの太陽電池市場動向と社会、その中での同社の役割など語って頂きました。

◆伊藤雅文さん プロフィール

伊藤 雅文さん、写真1986 年4月 伊藤萬株式会社入社。東京勤務となり機械セールスを担当
1992年4月 イトマン事件を経験し、同社退社
1992年7月 日本ポリセロ工業株式会社入社
1992年12月 株式会社エヌ・ピー・シー設立
1993年9月 同社 取締役就任。太陽電池関連を担当
2011年11月 代表取締役社長就任。2011年度から3期連続での赤字計上だったが、大英断で新規事業に乗り出し、2014年度から5期連続黒字計上を実現

 

――工学部から商社へ、さらに、メーカーを起業し取締役に

私が就活をしていた1986年頃はバブルの絶頂期で、就職先の選択肢はたくさんありました。幼い頃からの機械好きが高じて、府大工学部機械工学科で学んでいたのですが、在学中に世界を飛び回って仕事をする商社マンに憧れを抱き、工学分野とは畑違いの伊藤萬株式会社に入社しました。入社後は、機械を扱う部署で営業担当として仕事に取り組んでいたのですが、伊藤萬は繊維分野には強いのですが機械分野には弱く、そもそも商社ですから自社でものづくりができず、メーカーに製造を依頼して商売をするしか方法がありませんでした。しかも大手商社とは違い、看板で商売をすることもできず限界を感じていました。

そんな折り、過去最大の経済事件といわれるイトマン事件(1990年)が起きました。組織の整理や改革が始まる中、子会社に出向して、アメリカの最先端超音波装置の輸入販売を手がけていましたが、退職を決意。取引先の一つで、食品用真空包装機メーカーの日本ポリセロ工業株式会社に転職しました。

同社は、下町の小さな会社でしたが、商社時代に「ものづくりができなければ勝てない」と実感した私でしたから、願ったり叶ったりの転職先でした。しかも顧客は食品業界ですから手堅いと考えたのです。ところが半年後、なんと倒産してしまいました。当時、私は29歳で家庭もあったため、同志を募り同社の負債1.5億円と事業を引き継いで1992年に起業して取締役に就任しました。それが株式会社エヌ・ピー・シーです。

――真空包装機の技術を活かして太陽電池市場へ

株式会社エヌ・ピー・シーの紹介、写真設立当初、株式会社エヌ・ピー・シーは、日本ポリセロ工業の技術を受け継ぎ、真空包装機製造と販売を行っていました。太陽電池製造に、太陽電池とガラスを貼り合わせる「ラミネーション」工程があるのですが、真空包装機の圧を掛ける技術が活かせることがわかり、1994年、太陽電池向け装置メーカーとして市場に参入しました。

参入当初は、シャープや京セラなど大手メーカーの研究開発用に活用され、売り上げとしては小さな規模でした。そのような状況から、弊社が太陽電池市場で急成長を遂げることができたのは、1996年、太陽電池市場世界一のアメリカに進出し、1999年にドイツを中心にヨーロッパ市場に進出したことが大きな要因です。ドイツは、2000年に電力買取り制度がスタートし、太陽電池市場が一気に拡大したのですが、その商機に乗ることができたのです。この流れに乗って、愛媛県松山市に自社工場を開設し、世界各国のメーカーに太陽電池製造機を提供するようになり、設立15年目の2007年には東証マザーズに上場。これを機に、アジア進出も果たしました。

ところが2010年を機に太陽電池市場が急落、約160億の売上げと、数十億の黒字から一転し2011年から3期連続赤字計上となってしまいました。中小企業が上場すると、株価を維持するためにシェア獲得戦略に力を入れてしまい、足をすくわれることになりがちですが、弊社も例外ではなかったのです。私が代表取締役に就任したのは2011年のことで、新しい視点での経営戦略で組織に息吹を吹き込み、黒字転換を図るという大きな使命を担っていました。

――新事業で黒字転換を実現

代表に就任した私は、まずは人員整理などの自社の構造改革に取り組み、2013年からは新規事業として「OEM生産」と、国内の発電所に設置されているメガソーラーを対象とした「太陽光パネル検査サービス」をスタートさせました。これを機に2014年に黒字計上となり、その翌年、さらなる新規事業として2015年からは「パネルリユース」「パネルリサイクル」を始動させ、5期連続黒字計上を実現させることができました。

現在、弊社の事業内容は、アメリカの太陽電池メーカーである「First SolarⓇ」を主要顧客とした「太陽電池製造装置の製造、販売」をメインに、「パネル検査サービス、パネルのリユース・リサイクル」、自動車業界、ディスプレイ業界、食品・医療業界を対象とした「自動化、省力化装置の製造」の3領域で構成しています。太陽電池業界での売り上げが90%を占めており、「太陽電池の製造からリサイクルまでをトータルにコーディネート」と銘打って事業を展開しています。

――太陽電池市場の現状と今後

太陽電池市場の成長は、固定買取価格制度(FIT)に左右されるとされていますが、最近は、環境への意識の高まりを背景に、環境への配慮、社会のあり方を考えている企業であることを表明する方策として太陽電池を導入する企業の需要が増えています。さらに、アメリカのある州では、2035年から2045年までに再生可能エネルギー100%という目標を設定するなどの政策が打ち出されるなどしています。このことから、世界的な視野で見ると、太陽電池市場は固定買取制度に影響されないステージになっているといえます。

また、日本の事情ですが、現在、買取価格が約14円で、当初の40円に比べると低いのですが、約14円というのは、実は世界的には評価される価格です。

校友懇話会の様子、写真買取価格だけでなく、発電コストも注目すべきで、2017年は約18円、現在は約15円と下がっています。資源エネルギー庁は、発電コストに関して2030年は5.1円、2040年に3.7円の見通しを立てており、2030年に事業用発電所のコスト目標を達成する見込みとしています(出典・「再生可能エネルギーの主力電源化に向けた今後の論点(2018試算)」。

また世界的に見ても、パネルの価格低下、環境意識の向上などにより、さまざま地域での太陽電池設置が広がっており、現在も約120GW(注1)の太陽電池が設置され、今後もこの傾向は続くと予想されています。
(注1:1GWは標準的な家庭用太陽光発電システムの25万件分に相当)

――社会課題が新事業のテーマ。企業活動で課題を解決

その一方で、何らかの理由で使用されなくなったパネルのリユース、そして発電できなくなった太陽電池パネルのリサイクルが、大きな社会課題となりつつあります。寿命を迎えるパネルですが、日本だけでも2015年の0.3万トンが、2030年には2.2万トン、2036年には約17~28万トンと予測されています。またパネルには有害物質が使われており、適切に処理しなければ環境破壊につながります。当社では既にこの課題に取り組んでいます。

先ず、パネルのリユースですが、太陽電池業界のネットワークを活用して、未使用品や中古パネルを対象として、パネルメーカー、商社、開発事業者などの売り手と国内発電事業者、商社、海外発電事業者をマッチングし、約7万枚の実績があります(2019年7月末時点)。

また、買取価格40円の時代に、さまざまな業者が参入して寿命が短い粗悪な太陽光パネルを販売したことで、近い将来、廃棄パネルが大量に発生すると予測されています。パネルは本来の寿命だけでなく、災害で壊れてしまうこともあり、例えば先の西日本豪雨の際には、約1万枚のパネル引き取り依頼がありました。

次に、パネルリサイクルという社会的課題に対して弊社は、装置技術を活用して取り組んでいます。具体的には、NEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)と共同で、当社の独自技術(約300℃に熱したでガラスを割らずに分解する『ホットナイフ分離法』)を搭載したパネルの自動解体ラインを開発しました。これらの技術は災害などで表面のガラスが割れたパネルにも適用可能で、既に目標コストを達成しています。これによりパネルのガラスを粉砕することなくパネルを効率よく分解することで素材の価値をできるだけ落とさないようにし、ガラスメーカー、製錬会社などでリサイクルしています。同時に、産業廃棄物を扱う企業に、弊社の「リサイクル用パネル解体装置」の販売を行っており、すでに岡山県の企業に販売し、東北地方の企業への販売を予定しています。

以上お話しましたように弊社は、健全な太陽電池市場の成長のため、(1)太陽電池製造装置で、世界的な太陽光パネルの普及拡⼤に貢献、(2)太陽光パネルの検査サービスで、太陽光発電所の健全性や安全性に貢献、(3)太陽光パネルのリユース・リサイクルで、環境負荷の低減、埋⽴処理場の逼迫問題に貢献しており、これからも貢献し続けたいと考えております。

 

<参加した方の感想/工学研究科 坂野 文香さん>

坂野 文香さん、写真今回のご講演では、大変貴重なお話を伺うことができました。特に太陽電池パネル解体装置の動画では、お話では想像することができなかった機械の動きなどを見ることができ、とても印象に残っています。また日本では今後FIT制度がなくなるという予想や、太陽光発電のコストは低下してきており、今は蓄電池の普及が求められているというお話は、将来再生可能エネルギーなどの電力関係の分野で働きたいと考えている私にとって、大変興味深いお話でした。

ご講演の後は、OB・OGの方々とお話しさせていただき、普段聞くことのできないようなお話も伺うことができました。今回のお話を踏まえて、残りの学生生活を有意義に過ごしていきたいと思います。

******************

質疑応答の様子、写真講演の冒頭で、自己紹介として、在学中の思い出や商社入社の頃のエピソードを語りながら、柔和な笑顔を見せてくださった伊藤さん。3期連続赤字計上から黒字転換を図るために市場の課題解決を果たす新規事業を立ち上げ、黒字計上を実現させた伊藤さんですが座右の銘は「不言実行」とのこと。まさに「不言実行の人」と感じました。

質疑応答では、興味深い内容、そして同窓生ということもあり遠慮することなく、「工場が松山市にある理由」、「買取制度の今後の展開」、「災害が多発する日本で太陽光電池の果たす役割は」などなど、たくさんの質問がありました。

また、講演後の懇談会では、辰巳砂学長は全個体電池の第一人者でもあることから、技術談義などで話が弾んでいました。

辰巳砂学長(左)、津戸校友会会長(右)との懇談、写真

辰巳砂学長(左)、津戸校友会会長(右)との懇談

【取材日:2019年9月11日】※所属は取材当時
【取材:広報課 卒業生室】