現在の産業は、物質からデバイス、システムまで、高度に階層化された無数の技術の上に成り立っています。しかし近年、こうした階層が技術の硬直化を生み出し競争力の低下を招いていると指摘されるようになりました。この問題を克服するため、産業界では「ものづくり」中心から「ことづくり」中心の産業構造シフトが始まっています。
大阪府立大学では、「ことづくり」の発想によって次世代の産業界を牽引する人材育成を目的としたリーディングプログラム「システム発想型物質科学リーダー養成学位プログラム(以下、SiMS)」を平成25年度に開設しました。工学研究科物質・化学系専攻博士3年の乙山美紗恵さんも同プログラムに参加する一人です。博士課程修了を目前に控えた乙山さんに、これまでの自身の研究とSiMSで得たさまざまな経験を振り返り、また将来の展望についても語っていただきました。

◎システム発想型物質科学リーダー養成学位プログラム/ SiMS
大阪府立大学と大阪市立大学が共同実施している5年一貫性の博士学位プログラム。「ことづくり」の発想から深い物質科学の素養を活かし階層融合的な研究戦略を想起することができる人材を育成する。
http://sims-program.osakafu-u.ac.jp/

■専門は全固体電池

――最初にご自身の研究について教えてください。

全固体電池というものを研究しています。普通の電池は電解質に液体が使われているんですが、それを固体にすることで安全性やエネルギーが向上するなど、いろいろなメリットが生まれます。具体的には電気自動車への搭載が期待されていて、大学と企業、公的研究機関が連携して開発プロジェクトが進められたりもしています。

――技術としてはまだ研究段階なんですか。

そうですね。でもかなり実用化に近づいていて、数年のうちに全固体電池を搭載した電気自動車が実用化されると言われています。

■SiMSで得られた「異分野融合」の視点

――今日は乙山さんも参加されているSiMSについてお話をお伺いします。まずはどういったプログラムか簡単に説明していただけますか。

一言で言えば、これからの産業界でリーダー人材に必要とされる力を養成するプログラムです。ひとつの領域だけにとどまるのではなく、さまざまな領域を横断することで、全体的な研究戦略が立てられるようになる、研究をどうやってビジネスに繋げていくかを考えられる、そういった能力を伸ばすことができます。自分でコースワークがデザインできる設計なので、それぞれの将来像に合わせて必要な知識や経験を得ることができるのも特徴です。

――ご自身はどんなコースワークをデザインされましたか。

私の場合は異分野融合に重点を置いていて、特に材料分野の研究をするため、学内で研究室ローテーションを行ったり、海外の研究室に留学したりしました。普段の研究は解析が中心なんですが、材料のことも知っておいた方がより深くまで突き止められるかなと。

――それは貴重な経験ですね。自分の研究に没頭していたら、他の領域を見てみようという発想にはなかなかならない。

そうですね。おかげで研究者としての視野が広がったと感じています。他分野の研究者と繋がりが作れたことも良かったですね。コラボレーションが展開しやすくなったし、今もいろんな他分野の研究者に助けてもらうことが多いです。

■「ビジネス」の観点から見つめ直す研究

――「異分野融合」以外にSiMSで印象的だったことは?

ビジネスの観点から自分の研究を見つめ直すというプログラムがあって、それが非常に新鮮でした。先生や企業の方の指導を受けながら、研究が社会にどう役に立つのかをシステム的に考えるという内容です。希望者はアメリカでの研修にも参加できて、私も行ってきました。現地でビジネスアイディアを発表する機会にも恵まれました。

――実際に行っている研究をビジネスのアイディアに展開するということですか。

そうです。そもそもなぜこの研究をやっているのかといったことをあらためて見つめ直す機会になりました。

――どのような指導を受けましたか。

企業の方からは「ただ説明するだけじゃなく、熱意を伝えないとダメ」ってことを強く言われました。あとは英語(笑)。

――英語での発表だったんですね。

SiMSはグローバル人材の育成がひとつの柱なので、修士1年から英語の授業があるんですが、私自身ずっと苦手意識がありました。でも、おかげで随分鍛えられました。

■将来の見通しが立つから、研究に没頭できる

――SiMSのことを知ったのはいつですか。

4年生の時、当時指導教官だった先生から教えていただきました。

――すでに大学院への進学は決めていた?

はい。でもドクターまで行くかについては迷っていました。そもそも研究室に配属になったばかりで、ようやく研究の楽しさに目覚めた段階。研究は続けたいけど、それを将来にどうやって繋げるかまではイメージできていなかったです。

――決め手は何だったんですか。

やはり企業や産業界から必要とされる能力が身につくという点です。大学での研究を将来に活かすことができる、だったら安心して研究できるなと。SiMSは5年一貫なので、参加することさえ決めてしまえば、あとは5年という時間の中でどのようにいい成果を残せるか逆算して計画を立てることができました。あと、早い段階で進路を決めておいた方が両親を説得しやすいというのも大きかったです。母からは「女の子なんだからドクターなんてならなくてもいいでしょ」とか言われたりもしたので。

――率直にお伺いしますが、いわゆる「リケジョ」への風当たりの厳しさを感じることはありますか。

さすがにもうほとんど感じることはないですが、たまに親の世代から「リケジョってどうなの?」みたいなことを聞かれたりはします。ただ個人的には、研究職こそ女性が活躍しやすい職種のではないかと感じていて、リケジョを選択するメリットは大きいし、これからの時代もっとそうなっていくと思います。

■やりたいことがチャレンジできるサポート体制

――今は博士3年生、そろそろ次の進路に向けて動き出す時期ですね。

ちょうど就職活動を始めたタイミングなんですが、企業ではなく公的な研究機関への就職を考えています。もともとは企業でものづくりをしたいと考えていましたが、大学と企業の研究のギャップを埋めていけるような研究をした方が、私自身はより社会に貢献できるかなと考えています。

――進むべき道がはっきり見えているんですね。

やっぱりSiMSを通じて、広い視点を持てたからだと思います。いい選択をしたなと。


――最後に、この質問はまだ少し早いですが、9年間を振り返って、どんなところが大阪府大の魅力だと思いますか。

いろいろありますけど、やりたいと思ったことにチャレンジするためのサポート体制が整っている点は本当に心強いです。主体的に動きたいと思う学生にとってはいい大学だと思いますよ。

――サポートとは具体的にどういう部分ですか。

例えば、ビジネスのことを学んでみたいと思ったら、ビジネスの演習がある。グローバルに活躍する能力を身に着けたいと思えば、海外研修の制度が結構ある。制度だけじゃなく、理系の研究に関して言えば実験の設備も揃っている。もちろん、助言をくれる優秀な先生もたくさんいる。いろんな面でサポート体制が充実しているなと思います。

【取材日:2019年7月】※所属は取材当時。