2015年、国連サミットにおいて「持続可能な開発目標(SDGs)」が採択されました。SDGsは、持続可能な世界を実現するための「エネルギーをみんなに。そしてクリーンに」「飢餓をゼロに」といった17のゴールと169のターゲットで構成されています。このような中、大阪府立大学は2011年3月、気候変動に左右されず、最小限のエネルギーで最大限の収穫を得る〃持続可能な農業技術開発〃の研究拠点として「植物工場研究センター」と「植物工場」をいち早く立ち上げ、注目を集めています。

植物生産管理研究室代表の大山 克己先生に、同センターでの研究内容や成果をはじめ今後の展開などについてうかがいました。

● 教員プロフィール

大山 克己特認准教授(おおやま かつみ)
植物生産管理研究室代表
専門領域・環境調節工学
研究室の目的・植物工場における労働力・エネルギー・水などの資源の利用の最小化を図り、植物の生産量を最大化、最適化するための生産管理手法の開発と実証。

 

 

――「植物工場」とは、どのようなものですか?

一般的に野菜や果物は、屋外で太陽の光を利用して、土を耕し、種と肥料とをまき、水を与えて生産しています。植物工場は、屋内で光、温度、二酸化炭素濃度、養分、水分などを高度に制御した環境のもと植物を生育し、モニタリングや診断を行いながら計画的、安定的な生産を可能にする栽培施設で、「人工光型」と「太陽光型」に大別されます。大阪府立大学の植物工場は、経済産業省の「先進的植物工場施設整備事業」によって建設された「人工光型植物工場」で、研究施設としては国内最大級です。

――大山先生は、「植物工場研究センター」では、どのような研究に取り組んでおられますか?

植物工場研究センターにおいては、最小限の資源で最大限の生産物を得るための研究に取り組んでいます。私の専門領域は、光や温度、二酸化炭素といった環境や投入する資源であるエネルギーを調節して、植物の成育を最適化する「環境調節工学」です。最近では、植物生産にかかわるヒトも資源の一つととらえ、その最適化も目指しています。

ちなみに、「植物工場研究センター」の「植物工場」の建物面積は、バスケットボールのコート3枚分ぐらいの1,300平方メートルです。その面積にもかかわらず、四季を問わず毎日6,000株のレタスを生産できる能力があります。単純な比較は難しいところがありますが、畑で作る場合の数十倍の生産能力ととらえることができます。

――植物工場で働く人をエネルギーとしてとらえ、最小限の資源で最大限の成果を挙げるために、どのような実験を行うのですか?

例えば、機械から出て来た収穫物を、人が天秤にまで持って行き、重量を計測するという作業があるとします。収穫物を天秤に持って行き、重量を計る作業をすべて人が行った場合と、自動で行った場合とで、どのような作業工程の違いがあるのかを把握するとともに、どれだけ時間の差があるのかを計測します。その結果にもとづいて、最も効率の良い方法を探します。省略できることや機械化できること、人でなくてはできない作業を整理して、効率化を図ります。

作業工程と一言で言ってしまうととても簡単に聞こえるのですが、種をまくためには、種を冷蔵庫から取り出し、一粒ずつウレタンにまく、その前にウレタンを準備するなど、分解するといくつもの工程があります。すべての工程を洗い出して改善策を探るという地道な作業を積み重ねていきます。

――工程の中で、人でなければできない作業には、どのようなものがありますか?

例えば、葉先が茶色になってしまったチップバーンと呼ばれる部分や外葉を取り除くトリミングという作業があるのですが、現在、この作業は機械ではなかなか難しい状況です。

――大阪府立大学の植物工場の強みは何だと思われますか?

大阪府立大学には、植物栽培や植物生理を専門としている先生方がおられますし、また、工学系の先生方もかかわっています。環境調節や工場の運営に関する分野は私の専門です。さらに、生産物は、地元のスーパーマーケットや無印良品の一部の店舗の野菜売り場で販売したり、リーガロイヤルホテルのレストランで活用されたりして、実際に生産したレタスを流通しています。商業生産を行う植物工場は、栽培、運営、流通の3つの内のどれか一つが欠けても思うように進みません。これに対応できるよう3つの研究や実施体制が揃っていることが、大阪府立大学の植物工場の強みだと感じます。

――学外の植物工場の生産管理にも携わっておられるとうかがっています。

大分県に、約3ヘクタールのパプリカを栽培している太陽光型植物工場があり、そこで生産性を高めるための実証研究を行っています。現在、私が代表として農林水産省「スマート農業技術の開発・実証プロジェクト」を推進しています。4メートルの高さにもなる木に、赤色、黄色の鮮やかなパプリカがゴロゴロと実っており、学生などにその写真を見せると、皆、驚きます。この写真を見て、植物工場の可能性を感じる人も多いのではないでしょうか。

 

この植物工場において、ICTやAIを活用したスマート農業に取り組んでいて、簡単にデータを収集し、管理に役立てることのできるアプリケーションを開発しました。これまで生産管理は、管理者の経験や勘に頼っていましたが、このアプリケーションがあれば、管理者がかわっても、誰もが経験を活かした生産管理ができるために、大分県の生産者から好評を得ています。データ入力は、スマートフォンでその場でできるため手軽で、他の農業従事者からのニーズもあるとわかりました。このアプリケーションを国内はもちろん、世界にも向けて広げたいと思っています。

――従来型の露地栽培と植物工場、それぞれのメリットとデメリットを教えてください。

露地栽培は、コストは低いですが、収穫量が天候に左右されるばかりか、台風などで全滅する可能性があるというデメリットがあります。

植物工場の「人工光型」は、天候に左右されないというメリットがある反面、コストが高くなります。一方、「太陽光型」は、天候に左右される可能性がありますが、「人工光型」よりもコストは低いというメリットがあります。

――植物工場が果たす役割には、どのようなことが挙げられますか?

日本の人口は減少傾向にありますが、世界的には人口は増えています。増え続ける人に対して食糧を供給する必要があります。天候に左右される露地栽培のみに頼っていては、今後、限界があると考えられており、そこで最小限のエネルギーで最大限の収穫物を得られる植物工場が注目されるようになってきました。太陽光型、人工光型いずれの植物工場にもメリットとデメリットがありますが、国、地域、気候などさまざまな条件に応じて、最適化を考え選択して活用することが大切になってくると思います。

さらに、温暖化の影響で、台風による被害が多発しています。これから、これまで以上の頻度で大型台風がやって来る可能性が高いといわれています。そうなると天候に左右される露地栽培のみでは、安定的な食糧供給が難しくなってきてしまうかもしれません。それゆえ、植物工場の研究は、将来に備えるための必要不可欠な研究といえます。

また、日本は人口減少が進み、少子高齢社会となっています。このような中にあり、農業従事者の減少も著しく深刻な課題になっています。植物工場やICT、AIを使ったスマート農業では、これまでよりも少人数で生産性の高い農業を実現できると考えています。また、特に若い世代の人たちに農業の魅力をアピールできると感じています。今後も研究に取り組み、次世代農業の醸成に貢献したいと思います。

 

【取材日:2019年7月30日】※所属は取材当時