大学で数学と深く関わり、学んだ経験を活かして仕事の現場で活躍をされているお二人にお話をお伺いしました。
―まずは簡単に自己紹介をお願いします。
尾林:2013年に数理工学の修士を修了し、株式会社りそな銀行にアクチュアリー(※1)採用で入りました。現在は法人のお客様相手に退職金や企業年金に関するコンサルティング業務を行う部署で働いています。
岩浅:2017年、数理工学修士修了です。現在はNTT西日本(西日本電信電話株式会社)にシステムエンジニアとして勤務しています。
―お二人は在学中に面識はあったのですか?
岩浅:直接はないですね。でも私は以前から尾林さんのお名前は知っていて、授業でお話を伺ったこともあります。
尾林:ああ、OB授業ですね。卒業後に何度かやらせてもらいました。私も岩浅さんの名前は、TA(※2)だった時に小テストを採点したので覚えています。私の学年は女性が少なかったんだけど、岩浅さんの学年は多かったでしょ。それでいいなぁと羨んでいました。
岩浅:そうなんですね! 改めましてよろしくお願いします。
尾林:よろしくお願いします(笑)。
■「数学がどこに使われているのか?」という興味
―進学時に府大の数理工学科(※3)を選んだ理由をそれぞれ教えてください。
尾林:私は高校時代の得意科目が数学と物理で、両方とも学べるということで府大を選びました。
岩浅:私も同じような理由です。昔から数学が好きだったんですが、それがどこに使われているのか興味を持つようになり、物理なども組み合わせて学べたら面白いだろうなと。
尾林:めっちゃわかる! 数学っていうと理学部の数学科でやってるような純粋数学を想像しがち。でも数理工学で学ぶ数学は、世の中のどこに数学が使われているのかを考えたり、逆に数学をどうやれば活かせるのかを考えたりします。もちろん高校の頃はそんなにはっきりイメージできていたわけでもないですが。
岩浅:私はむしろイメージできなかったから入学をした感じです。知りたかったので。
―「どこに数学が使われているんだろう?」という興味のきっかけは何ですか。
岩浅:やっぱり物理の授業じゃないですか。例えば、y=x^2という二次関数でも、数学だったら単に式を読み解いて答えを出してってことですが、物理だったら物が落下するとかそういうところで使われる。物理と数学は繋がっていることが何となく分かってきて、「じゃあ他にどんな使われ方をするんだろう」って感じました。
―入学後、実際に大学での学びはどうでしたか。
岩浅:高校での数学の問題には必ず答えがあって、数少ないパターンでその答えを導き出します。でも大学では一つの問いに多様な考え方があり、必ずしも明確な答えがあるとは限らない。さまざまな手法を使い、試行錯誤しながら、その答えの形を少しずつ確かなものにしていくのが面白かったです。
尾林:私は物理が想像以上に難しくて苦労しましたね。高校で物理が好きだと感じていたのは、実験が好きだったからだと気づきました。それに比べて数学は期待どおりで、難しい計算や証明が理解できた時は楽しかったです。あと、これは学びとは関係ないですけど、中学高校と女子校だったので、入学当初は男女比に驚きました。数理工学の同期の女性は私一人だったんで(笑)。
■その後を決める研究室の選び方
―大学での専攻と研究テーマについて教えてください。
尾林:専攻は数理統計学で、主に推定量の許容性について研究をしていました。
岩浅:解析学の微分方程式論を専攻していました。研究テーマは微分方程式や数列の解の安定性や振動性における時間遅れの影響についてです。
―具体的に何を研究テーマとするかは、4年次に配属される研究室によって決まるかと思いますが、お二人はどのような理由で研究室を選ばれましたか。
尾林:私は卒業後の進路ですね。研究室配属のために説明会みたいな授業があって、そこでアクチュアリーという仕事があるということを知りました。私は大学院に進むことは決めていたんですが、同期には学部で卒業して就職する人もいたので、卒業後にどんな職種につくかということも考えて統計学の研究室を選びました。
―では結果的に予定どおりというか希望通どおりに。
尾林:そうですね。ただ、中には大学を選ぶ段階から「将来はアクチュアリーになるぞ」っていう人もいて、早くから準備してたりもするので、私ももうちょっと早くからチャレンジできていたらよかったなとは思います。
岩浅:私は純粋に数学がやりたいという理由で研究室を希望しました。入学時には工学も数学も両方やるつもりだったんですけど、研究室を選ぶ頃には一周回ってやっぱりちゃんと数学がやりたいと思うようになって。あとは先生が好きだったから(笑)。
尾林:あはは。そこちゃんと書いてあげてください。
岩浅:でも真面目な話、相性が合う先生とか人柄的にどの先生が好きかというのも、研究室を選ぶ上で重要だと思いますよ。大学院に進むなら最低3年は一緒に研究するわけだし。
■研究から学んだ、自分から取りに行く姿勢
―勉強から研究というフェーズに入ると学びの有り様も大きく変化したと思います。大学院も含め研究室にいた3年間で得た、特に大きな学びは何ですか?
尾林:自分の研究が始まって研究室に入り浸るようになると、先生や同期の研究に向き合う姿勢や態度が見えてきて、研究以前に自分の仕事にどう取り組むべきかという部分でたくさんの刺激を受けました。学生はもちろんのこと先生も夜遅くまで研究されていて、同時に指導学生のゼミのこともやりながら、論文の査読の仕事が来たり、共同研究の依頼が来たり……。それまでは授業が先生の仕事だと思っていたけれど、いろんなことを同時進行でやりながら、自分の研究も積極的に進めていく。そういう受け身ではなく自分から取りに行く姿勢からは本当に多くのことを学んだと思います。
岩浅:私は自分の研究と向き合った中で得た学びが大きかったです。研究を進めていく上で、自分の知識だけでは超えられない壁にぶち当たった時、本当に今の解析手法でいいのか、他に違うアプローチはないのかを冷静になって考える。それでもうまくいかなければ新しいことを積極的に学び、取り入れる。どんなことでも同じかもしれないけど、学ぶことに対する自主性が学べたのはとても大きいことでした。
―数学の研究は机に向き合って一人黙々とやるイメーがありますが、実際一人でやるものなんですか?
岩浅:もちろん一人でやらなければいけない部分もありますけど、どちらかと言えば周りの人と話し合いながらやっていく感じですね。いろんな研究集会に参加して、他大学の先生や学生と交流したり意見交換したりすることで研究の重要なヒントを得ることもよくあります。少なくとも私はスタンドアローンでやってる感覚はなかったですよ。むしろそういう状態は視野が狭くなって研究にとってもあまりいい状態ではないと思います。
■知識を超えて活かされる大学での学び
―現在はお二人とも就職されてご活躍ですが、大学での勉強や研究はどのように活かされていますか。
尾林:私の場合は数学の専門職として会社に入っているので、日常的に数理統計学の専門的な知識を使って仕事をしています。専門性以外の部分で言えば、求められている成果を出すため論理的に道筋を立てて考えていく数理的思考は、府大での勉強や研究が活かされていると感じますね。
岩浅:私は仕事の中で数学らしい数学を使うことはほとんどないんですが、考え方や答えの導き出し方などは、大学でやっていた研究と全く同じだと感じます。私が研究でやっていたのは一言で言えば「新しい定理を予想して証明する」ということなんですが、もちろん一筋縄ではいかない。知識を総動員しながらいろんな証明方法を試し、それでもうまく行かなくて、「ここのパラメータの範囲ってもうちょっと広げられないかな」みたいなことも精査しながら、場合によっては予想している定理そのものを修正した上で証明を完成させていくんですね。これはお客様の抱える問題に対して、さまざまな知識と技術を駆使して試行錯誤しながら可能な限りベストな解決策を探っていくシステムエンジニアの仕事と同じです。だから直接的ではないかもしれないけど、大学で鍛えられた数理的思考はすごく活かされていると思います。
―今後のお仕事での目標や夢はありますか?
尾林:まずは試験に合格して年金数理人になることですね。そしてゴールは、これは会社の人に聞かれたら少し恥ずかしいんですが、日本の年金制度を間違いのない方向へと持っていく仕事がしたいです。会社には国の年金制度に携わっているような人もいるので、私もいつか会社の枠を飛び出て広く活躍できたらいいなと思います。
岩浅:私はもっと幅広い知識を身に着けて、これからの世の中に求められる新しいサービスを開発したいです。世の中に求められているサービスというのは、すでにあるものだったり、他と似たものだったりすると意味がないんです。まだこの世に存在しない、でも実は多くの人に求められていて、ビジネスとしても成立する。そんなサービスを自分で作って、自分で営業して売ってみたいです。
■大阪府立大学を目指す受験生へ
―最後に、府大をめざしている受験生にメッセージをお願いします。
岩浅:府大、楽しいですよ。私は本当に充実した6年間でした。やりたいことをやれる環境が整っているし、悩んだり困っている時にちゃんと手を差し伸べてくれる先生もたくさんいます。大学生活はこれからの人生の基礎を培う期間で、充実した時間を過ごせばその後の人生も充実すると思います。受験生のみなさんもいろいろ悩んで、苦しんで、そして実りある期間になるように頑張ってください。
尾林:私も大学生活は楽しかったなぁ。こうやって振り返って話していても、「とてもいい時間だったな」と思います。そして社会人になってからも、仕事や友達を通じて、社会で活躍されている府大出身の方にたくさん出会うことがあります。私の隣席の上司も、府大の卒業生です。みなさんもぜひ、府大でたくさんのことを学び、社会で大いに活躍してください。
――――――――――――注釈――――――――――――
※1 アクチュアリー
確率論や統計学などの数学的手法を駆使し、不確定な事象を予測・推測する専門職。日本語では「保険数理士」もしくは「保険数理人」。日本では公益社団法人日本アクチュアリー会の資格試験に合格し、所属している者がアクチュアリーとみなされる。
※2 TA
Teaching Assistantの略。大学院生が、セミナーの指導、実験・実習の指導、試験の実施、学部学生の講義等を担当し、その対価として、一定額の給付金が支給されるもの。
※3 数理工学科
大阪府立大学が学域制に移行する前の学科名。工学部で専門の数学と物理学の両方学べるカリキュラム編成が魅力の1つ。数理工学科数学は、現在の生命環境科学域理学類数理科学課程に改組されている。
―――――――――――参考リンク―――――――――――
生命環境科学域理学類数理科学課程/理学系研究科数理科学専攻のWebサイト
【取材:2019年10月11日】※所属は取材当時。