大阪府立大学は、社会の中の急激な変化に対応し、さまざまな現代社会の問題を解決できる人材の育成をめざし、2012年4月に「4学域13学類体制」をスタートしました。今回は学域1期生であり、現在は大学院で研究を続けているアイエドゥン・エマヌエルさんにお話を伺いました。アフリカの西側にあるベナン共和国出身で留学10年目。府大入学までの経緯から、現在取り組んでいる研究、母国への思いなど、熱く語ってくれました。

【プロフィール】

人間社会システム科学研究科
現代システム科学専攻 知識情報システム学分野

博士後期課程2年
エマヌエル・アイエドゥンさん

ベナン共和国出身。
2012年、現代システム科学域 知識情報システム学類入学。
卒業後、大学院人間社会システム科学研究科へ進学。

 

――エマヌエルさんは大学に入る前に日本に来られたのですか?

高校まで故郷のベナン共和国で生活していまして、大学からは日本への留学を考えていました。来日後は日本語学校に2年通いましたが、日本の良い大学に入学できるレベルに至らなかったので、もう1年間の予備校での受験勉強を経て、府大に入学しました。

――日本を留学先に選んだ理由を教えてください。

高校の世界史の授業で、地下資源にあまり恵まれていない日本が戦後約20年で高度経済成長を遂げて復興したことを知りました。昔から日本は教育を大切にしてきたことで、良い人材がたくさん育ち、復興できたこと。地下資源が豊富なのに発展できていないアフリカの国々は、人材育成が素晴らしい日本に学ぶべきだ、と先生から教えていただきました。その時から、日本の教育制度を学び、自国の発展を支えるような人材になりたいという思いが湧いてきました。

私はある程度恵まれていて良い学校で勉強できたんですが、ベナンでは学校に行けない子どもたちはまだまだたくさんいるし、学校自体がない地域も少なくありません。あっても1つのクラス50~60人に先生が1人の体制が普通です。そういう人材育成の問題を解決しないと、国はいつまでも発展しないと考えたので、些細なことでもいいから母国の教育制度の改善に貢献したいという強い思いを抱くようになりました。

――日本に来た時は、府立大の事はまだ知らなかったのですか?

府大を知ったのは、2011年でした。東京の予備校に通っていた頃、友だちが府大のパンフレットを持っていて、そこには「現代システム科学域」と書いてました。熟読すると、理系文系を問わず、学際的に勉強できる所が2012年から導入されるというのを見て、「これだな」と思いました。私は人の教育に貢献したかったんですけど、せっかく日本に来たのだから、コンピュータの勉強もしたい。現代システム科学域なら、情報技術を学びながら人間に関する知識に関連するような認知科学や心理学などの分野に接する機会があるとわかり、府大に魅力を感じました。「情報技術を生かして人間の指導をする」というクリアな目標ができあがった瞬間でした。

――留学生枠での受験ですか?

はい。まずいわゆる留学生向けのセンター試験「日本留学試験」を受験し、府大に出願できるスコア基準をクリアしました。そして二次試験は府大で小論文と面接試験を受験しました。緊張していましたが、面接では「将来やりたいことは府大でしかできない」という思いを先生方にお伝えしました。

府大は学びの内容も素晴らしいですが、教員と学生の距離が近いと感じます。私が所属している分野は、1人の先生に約20人の学生が受講する授業スタイルです。そんな中で先生は学生ひとりひとりの名前も覚えてくれます。私は顔で覚えていただいていますが(笑)。対話型の授業スタイルは、私は特に助かりました。大阪に友だちがいなかったので、協力的な大学の教員に恵まれたのは心強かったです。当初は言葉の壁に苦しみ、授業のペースについていくのは大変でしたが、日本人のチューターをしばらくの間つけてくれて、少しずつ慣れてきて、自力で何でもできるようになりました。

――特に印象に残っている授業はありますか?

私は計算機を使った人間の学習支援について興味があったので、現在研究室でお世話になっている瀬田先生の「知識モデリング」という授業が非常に面白かったです。この授業は人間が持っている知識構造をどのようにすれば計算機に同じように持たすことができるかについて考えます。人間が頭の中に持っている概念、例えば大学という概念を計算機にわからせようとすると、どのようにそれを教えるのか。計算機に学習の支援をさせようと思った時に、計算機が人間のように概念の理解まで能力をもたなければいけない。この授業においては、その手法を理解するにつれて、人間が持っている知識の形式化およびそれに基づいた知的コンピュータシステムの実現に魅力を感じるようになりました。個人的に非常に楽しかったですね。

――興味にぴったりですね。まさに情報と教育とがあわさった、間をつなぐ技術ですね。

そうですね。知的な計算機、コンピュータ開発を実現するための手法を中心とした授業なんですけど、それを修得することにより、人間をさらに理解するきっかけにもなりました。人間は普段どのように物事を学習していくのか、どのように物事を捉え、理解していくのかというプロセスを、自分でも改めて意識的に考えるきっかけを与えてくれました。

――大学院に行くことはいつ決めましたか?

ドクターまで行こうと留学する際に決めていました。府大かどうかまでは入学前には決めていませんでしたが、学部2年生の初めくらいには、府大でドクターまで行きたいと決意しました。人間社会システム科学研究というのが私にとってまさにぴったりでした。

府大では学部3年生の後期から研究室配属というのがあります。初めてそこで研究という世界に触れます。「学習支援システム」といって、情報技術、人工知能を用いた人間の学習を支援できるようなシステムを開発する研究室があり、私にぴったりだと感じました。

――情報技術で学習支援すると、どんないいことがあるんですか?

まず先ほど私が言ったような、人間の学習活動を計算機を用いて支援しようとした時に、人間の学びを理解した上で計算機にわからせないといけない。そのプロセスを通して人間自身のさらなる理解にもつながります。

あと、計算機の良いところは、学習者と1対1の構図で学習できます。学習者に関する情報をたくさん捉えて、その学習者にあった学習支援スタイルを提供できます。従来の学校では1人の先生に3、40人の学習者がいるのが一般的な授業形態ですが、授業の内容についていけない学習者が出てきます。でも計算機を用いることによって、そういった問題もある程度、解決できると思います。ただ、計算機が、情報システムが先生の代わりになるわけではなく、例えば先生の手が届かない細かいところは情報システムに任せて、共通でやる部分は先生が担当するということが可能になると思います。

また計算機、情報システムを用いることによって、システムが学習者についての様々な情報を蓄積することができます。学習といえば、ほとんどの人は認知的側面をイメージしがちですが、情動的側面も関わってきます。学習者が良い情動的な状態で学習に挑めば、学習効果が上がります。でも不安などいろんな悩みを抱えていると、どれだけ良い先生が、良い教育スタイルを実装したとしても、学習者の学習効率は上がりにくくなります。ですから、情動的な側面をどのように支援するかは大きい課題です。

1人の先生が全ての学習者の情動的側面に立ち入ったケアを実現するのはものすごく困難だと思います。学習における情動要因の支援において計算機が大きな役割を担えるのではないかと私は考えています。計算機なら、特に1対1という学習形態において、学習者の認知および情動側面を動的に考慮した包括的支援を実現できる可能性があると考えます。

――コンピュータって情動的とは関係ない部分を担うのかなと思っていたら、今のお話は面白いですね。

私は会話支援を対象にしており、特に第二言語を用いた会話支援システムが私の専門領域です。なぜ日本の高校生は、ずっと英語を勉強しているのに、実際の会話場面で使えないのかという事実を考えた時に、やはり情動的な側面が大きいことが原因だと思います。「恥ずかしい」「緊張している」「不安」「自分は相手にどのように評価されるのか?」と感じて、逆に喋れなくなってしまう。

私が開発しているのは、擬似的な会話場面のシミュレーションができる会話エージェントシステムです。学習者に会話をしてもらうために、安心させたり、応援してあげたりするようなシステムを実装しています。どのくらいたくさん話しているか、あるいは沈黙しているかなど、というような会話情報から、システムが情動的な状態を推定し、「大丈夫だよ」とか「もしかしてこういう言葉を探している? この単語はこういうことだよ」などというフィードバックを返してあげることで、学習者に何とか話してもらえるような効果を狙いとしています。

――フィードバックがあれば、うれしいですね。コミュニケーションが取れて、学習も続けられそうです。

私が一番大事だと思っているのは、第二言語を用いた会話の成功体験です。だからコンピュータとの迫真性・人情味のある会話を通して、たくさん成功体験を学習者に味わせ、自己効力感を高めていきます。そうすると、実際に人間対人間で会話する場面になった時でも、「私ならできる!」というような、情動的な側面の余裕がついてくる。手応えを実感させることによって自信・やる気の向上を狙います。

――今は博士課程までその研究を?

博士課程では、先ほど紹介した研究を継続しています。第二言語コミュニケーション意欲の向上を狙いとした会話エージェントについて研究しています。これまで開発してきたプロトタイプシステムで得た成果の一般化と深化に向けた研究を推進しているところです。具体的には、どのようにシステムの汎用性を高めるのか、学習者の特性を考慮したより適応的な支援はどのように実現するのか、システムの学習者への効果が実際にどれくらいあるのか、といった研究課題に日々取り組んでいます。端的に言うと、計算機システムの感情知能の高度化がもたらす学習者への情動伝染や学習意欲の向上に与える影響について研究しています。今後、これまで以上に世の中で人間とコンピュータが共同して何かする、もしくは共存するような仲になったときに、人間の情動的な状態を推定して共感してあげたり、気配りができたりするようなシステムは、当然必要になってきます。そう言う意味でも、この研究は、そういうところに貢献するのではないかと思っています。教育という領域だけじゃなくて、一般的に計算機と人間のインタラクションにおける情動伝染、それがどのように成り立っているのかということが知見になるのではないかと考えています。

――すごく明るい未来が見えてきますね。コンピュータやロボットが入ってきて、冷たいイメージから、人間の情動を理解して反応する。人間の情動がこの研究でわかってきたら、異文化理解などにおいて人間同士のコミュニケーションも発展していくのではないですか。

そう、つながってきますね。そういう意味でも、人工知能は怖いイメージをもたらしますが、それは情報システムが人間の代わりになる、というイメージが強いのではないでしょうか? 私たちが研究室で行っているのは、人間を支えて、人間の能力向上に貢献できるような人工知能システムの開発を目指しています。計算機だけが賢くなっていくのではなく、計算機を賢くすることで、人間をより賢くさせていく。計算機と人間が共存できるような社会につながっていくのではないかと自分の中では思っています。

――今の研究や、将来的な研究を、最終的にベナンで生かすとするなら、どんなことを考えていますか?

今の研究で成果をある程度上げて、社会を変えるというところに私は大きな力を感じています。人の知的活動の高度化のために利活用される情報システムの社会普及に取り組むことによって、日本はもちろん、私の母国ベナンのような国々においても教育制度に大きな効果をもたらすと思っています。将来は研究者として、国際的な研究をして活躍する姿を発信し、人材育成に関連するプロジェクトなど積極的に取り組んでいくことこそが,延いては母国ベナンの発展にもつながるということを確信しており、今後も一生懸命頑張っていきたい。

自分の枠組みを超え世界を舞台にした時、科学を用いて人類のさらなる発展に貢献していきたいと思っています。

――すごくいい研究ですね。今後が楽しみです。今日はありがとうございました。

 

 

【取材:2019年7月30日】※所属は取材当時。