2019年11月22日(金)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科の平井規央教授。テーマは「絶滅危惧種を守ろう」です。

平井先生の写真

近年、生物多様性の低下が著しいとされており、絶滅種や絶滅危惧種の増加が続いています。特に絶滅の危機に瀕した動植物種については、保全や保護増殖の取り組みが行われています。平井先生は、生活史の解明や遺伝的多様性の解析などのアプローチによって、絶滅危惧種の保全に関する研究を行っています。今回は絶滅寸前の昆虫類をはじめ、先生が関わっている動物の例を中心にお話されました。

蝶の標本の写真まずは「ツシマウラボシシジミ」。シジミチョウ科で、長崎県対馬の上島にのみ分布する日本固有亜種です。以前は植林地や椎茸栽培の周辺で安定して生息していましたが、近年、鹿の増加や森林の手入れ不足により、ツシマウラボシシジミの食草(ヌスビトハギなど)が急速に減少。生息地の孤立化により、減少が加速しています。

そんな中で先生が紹介したのは、東京都にある「足立区生物園」や大阪府の「箕面公園昆虫館」で行われた生息域外保全(安全な施設に生き物を保護してそれらを育て、増やすことにより絶滅を回避する方法)の一例。ツシマウラボシシジミの保全に向けた取り組みが現在も行われています。

今回は特別に先生よりツシマウラボシシジミの貴重な標本をご持参いただきました。翅(はね)の表はオスが青色、メスは黒色。裏は白地に黒い斑紋がある、小さくて綺麗な標本でした。

ゲンゴロウの標本の写真次は「ヤシャゲンゴロウ」。世界で唯一、福井県夜叉ヶ池にのみ生息する貴重な生物で、絶滅のリスクが大きい日本固有種です。ヤシャゲンゴロウの存続を脅かす要因としては、池の水質汚染、違法な捕獲、カタストロフィックな環境変化などが挙げられます。
現在、近縁のメススジゲンゴロウと比較しながら遺伝学的解析を進めているところです。生息域内保全の方策は、パトロールの実施、普及啓発など。生息域外保全としては、飼育技術の開発、生活史データの蓄積、緊急時の保険個体の確保などが取り組まれています。そしてヤシャゲンゴロウの標本も先生よりご持参いただきました。全長15ミリ程度、黄褐色の個体たちが整然と並んでいるケースを、参加者の皆さんはじっくり観察されていました。

講演する平井先生の写真最後に、都会で生きる絶滅危惧種の「シルビアシジミ」。分布は本州・四国・九州(種子島以北)・韓国など。丈の低い草地に生息します。一時期、大阪府全体からは絶滅したと思われていたシルビアシジミですが、2000年頃に大阪伊丹空港で多数発見。そこには広大な草原が残っており、現在でも生息しています。

これらの事例の他に、京都府亀岡市と岡山県の一部にのみ生息し絶滅寸前の魚と言われる「アユモドキ」、準絶滅危惧種の「フクロウ」、「コガタブチサンショウウオ」まで、プロジェクターを駆使した先生のお話は、終了時間いっぱいまで続きました。

日々の暮らしで私たちは絶滅危惧種に関する情報に触れることはほとんどありません。今回のお話は、自然に生息する生物を守るため、ひいては継続的に人と自然が共生するために、自然環境保全の必要性を考える時間になりました。

集合写真

 

平井先生のおすすめ本の写真<先生のおすすめ本>
『Harmony of Nature and Science~なかもずキャンパスの四季』(大阪公立大学協同出版会/八木孝司 編著、大江真道・中村彰宏・平井規央著)
https://www.e-hon.ne.jp/bec/SA/Detail?refShinCode=0100000000000032423008&Action_id=121&Sza_id=C0

『山女魚遊学――ナチュラルドリフト釣法のすべて』(つり人社/伊藤 稔著)
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784885366567

『世界昆虫記』(福音館書店/今森光彦著)
https://www.fukuinkan.co.jp/book/?id=123

 

 

【取材日:2019年11月22日】※所属は取材当時