2018年に大阪府立大学 地域保健学域 教育福祉学類を卒業し、同年4月より神奈川県鎌倉市にある「面白法人カヤック」に入社。プランナー/ディレクターとして活躍するOBの片山 直也さんにお話を伺いました。

現役合格した関西の大学を3ヶ月で退学し、再受験を経て府大に入学。自分の道を追い求めるため、4年の時に2年間の休学。復学してTEDxを開催、そして楽しくも厳しいクリエイターの世界に身を投じた現在。

そんなユニークな経歴を持つ片山さんにインタビューするのは、本学工学研究科2年の川口泰輝さん。テニスサークル「SMASH」の先輩、後輩の間柄だった2人。和やかなムードの中に、後輩や受験生の皆さんへの熱いメッセージが飛び交いました。

――現役の大学生だった片山さんが再受験して府大に入学した経緯を教えてください。

他の大学に現役合格しましたが「自分はもっとできるのでは?」と思いから、受験自体に未練がありました。また、友人の影響から国際援助に興味があったので、それを学べる環境に身を置きたかったというのもあります。一方で、国公立二次試験を受ける前日に起こった東日本大震災の衝撃が心に残っていて、その時に国内でも福祉的なニーズや、困っている人たちへの支援のやり方はたくさんあると気づいて。海外スタディーツアーなどの学びも充実していて、国内外関わらず「援助」のプロフェッショナルが集まる府大の教育福祉学類に入学しました。

――片山さんは府大1、2年生の頃、いろいろなことにチャレンジされていましたよね?

1、2年生の時は、東北の被災地支援グループ「OPU for 3.11 ネットワーク」やテニスサークルの活動、塾でのバイトに取り組んでいました。

また高校生にESD(Education for Sustainable Development)を伝える活動を行いました。テニスサークルではみんなをチアアップし、笑って楽しくテニスができるように取り組み、「OPU for 3.11 ネットワーク」では代表として企画やチームマネジメントを。塾のバイトでは論理的に物事を伝えること。それぞれに学びがありました。

これは1、2年生に向けて伝えたいことですが、もっとハメをはずして、破天荒な経験をしておけばよかったと思っています。自分は割と真面目な学生生活を選んだから、もし時間を巻き戻せるなら、「後先考えず、楽しそうだからやってみよう!」みたいに、ノリ一発気合一発の、やってみなはれ精神で大学生活を送りたいです。何が自分の仕事や人生につながるかわからない。勢いでやることも大事。そういうことが決定的な経験だったり、重要な意味をもつ経験になることがあると思います。

 

――そうはいっても、片山さんはユニークな経験をしていると思いますが(笑)。片山さんは府大を休学されています。そのことについて教えてください。

4年生になった2015年に2年間休学したんですが、それまでは将来的に公務員や市の福祉を担う立場になる道で社会福祉の勉強をしていました。一方で、「自分にしか取り組めないキャリアはなにか?」を模索していました。その中でソーシャルビジネスについて知り、NPO法人フローレンス代表理事・駒崎弘樹さんが書いた『「社会を変える」を仕事にする』という本と出会いました。

駒崎さんは「病児保育サービス」をつくり、共働きやひとり親の子育て家庭をサポートしているのですが、社会を良くすることをビジネスにするのはカッコ良いし、意義があると感じました。自分もそういう道を志したいと思い、府大を休学してソーシャルビジネスのNPO法人で長期インターンとして学びました。自分の目で見てみないとわからない!と思って(笑)。(下記写真:休学中の片山さん)

 

2社のNPOでインターンをしているうちに、自分にあまり関係のないことに当事者意識を持てない自分の性質――他人の問題を完全に自分ごと化することができないことに気がつきました。そして考えた結果、だったら自分自身が人生の仮説検証をした「長期インターン」こそ原体験なんじゃないかって思って、東京にあるNPO法人ETIC.(エティック)で1年間インターンをしました。その時に、学生がインターンを通じて、将来やりたいことを見つけることを目的としたプラットホームの運営を行いました。

どすこい起業家ぶつかり稽古

一方で、「長期インターン」もすでに珍しい時代ではなく、競合も多い。新しい企画を考える必要がありました。そこで、あえて「長期インターン」とは表現せずに『どすこい起業家ぶつかり稽古』というネーミングをつけ、「学生が本気で起業家に弟子入りする1DAYプログラム。自分の疑問ややりたいことをぶつけよう!」というコンセプトでプラットホームを立ち上げました。すると結構話題になり、メディアにもたくさん取り上げられました。この時に「企画って面白い!すごい!」と思いました。それが自分の学び。今のプランナーという職業に行き着いた原点です。

 

――あらゆる気づきと原体験、自分のルーツとなるような、やりたいことが見つかったのがインターン時代ということですね。では復学して2017年に大阪に帰って来てからの活動を教えてください。

長期インターンから大阪に帰って来て「学生最後の1年どうしよう?自分だからできることは何だろう?」と、ある種の卒業制作的に何かやりたいと考えていました。課題意識としては、東京に比べて大阪は学生や若者たちのプラットフォームが少ないと感じていて。そこでプレゼンテーションイベント「TEDx」を自分が中心となって開催しました。面白いアイデアを持つ人や、自分が気になる人たちが集まって、いろいろ発信したり、それをきっかけに自分の人生が広がったり、そういうつながりが生まれる場を大阪でつくりたかった。

TEDxのテーマは「爆発」にしました。運営スタッフも、スピーカーも、参加者も、協賛パートナーも、自分の考えていることや表現を爆発させられる場にしたいと思っていました。いろんな人が出会って、化学反応、爆発が起これば…。そういうコンセプトです。

一番の気づきとしては、仲間の存在の偉大さです。仲間を信頼し、仲間と助け合うこと、仲間とひとつのものをつくりあげること。その楽しさや難しさを経験しました。TEDxは非営利組織なので、活動に意義や魅力を感じてもらえないといけない。そのためのチームづくりに最も力を入れました。

TEDxの集合写真

TEDxYouth@Namba 2018 -爆発-

――府大卒業、TEDxの開催を経て、片山さんは社会人としての道を歩き出しますが、あらためて感じる府大の良いところを教えてください。

チャレンジを許してくれる環境だと思います。「やろう!」と思ったら、手伝ってくれる人がとても多く、協力してもらいやすい。自分がやりたいことをすぐ形にできるし、いい意味で目立つ事ができる。意義があったり、面白いことを企画したら、すぐに学内で知ってもらえる。「動こう」と思う人に対してブルーオーシャンな環境で、チャンスがいっぱい転がっています。

府大生は、みんな真面目! 4年間で卒業する人が多いですが、休学して自分の好きなことに取り組んだり、海外留学するのも良い。すぐに社会に出るのではなく、インターンに行って、自分の問題意識を深めることも選択肢の1つとしてあります。

 

――府大を卒業して入社した「面白法人カヤック」との出会いについて教えてください。

TEDxだけではなく、ライターもしていたこともあって、就職活動をちゃんとしていなかったんです。するとある時、母にぶちギレられて、その場でエントリーしたのがカヤックです。

カヤックにはユニークな採用形態がいくつかあるんですが、自分がエントリーしたのはエゴサーチ採用。Googleの検索で自分が一番上位にくるワードをエントリーシートにするものでして、「片山直也 どすこい起業家」というワードでエントリーしました。面接、インターンを経て、採用されました。

片山 直也さん カヤック社員紹介ページ
https://www.kayac.com/team/katayama-naoya

カヤック 研究開発棟

面白法人カヤックは、ひと言でいえば、神奈川県鎌倉市に本社がある、企画からデザイン、開発まで一貫してする会社。そして面白法人という言葉には、「まずは、自分たちが面白がろう」「周囲からも面白い人と言われよう」「誰かの人生を面白くしよう」、という思いが込められています。

面白法人カヤックの外観

カヤックのプロダクト製作を担う「古民家 Make Room」

ゲーム事業や広告を中心としたクライアントワーク事業の他、最近は「鎌倉資本主義」といって、地元鎌倉をもっと面白くして、新しい地域経済をつくろうということに重点を置いています。「つくる人が増えると、世の中面白くなるよね」という「つくる人を増やす」を理念に、あらゆる職種のクリエイターたち――つくりたい人たちが集まっている会社です。

カヤック「まちの社員食堂」

この業界には漠然と興味はありましたし、ソーシャルビジネスは自分には成し得ない事だったので、企画やクリエイティブでカジュアルに人に影響を与えたり、文化をつくることことができればいいなと思います。「あの企画は面白かったね」「あのキャッチコピーに心が動いた」と感じてもらえるコピーライター、プランナーになりたいなと思っています。

 

――カヤックで初めて携わった仕事は何ですか?

初めて携わった仕事は2つ、コアラのマーチと寿司職人AIガリオというプロモーションサイトです。上司がプロデューサーだったんですけど、「明日提案の企画があるんだけど、アイディア考えてくれない?」と言われて、軽い資料をつくってみたら、「そのまま詰めて!」と言われて、提案〜制作まで至った案件が多いです。

話をする、片山さんと川口さん

<片山さんが初めて携わった仕事はこちら>

●なぞのコアラのマーチ 〜探偵マーチくんと挑め!〜

●寿司職人AIガリオ

 

その他には、「auハッピーマンデー大作戦」。僕はプロジェクトマネージャーとして入っていました。「auビデオパス」という、月曜日に映画が1,100円で鑑賞できる企画を広めたいというので、月曜が待ち遠しくなるマンデームービーとクイズをつくりました。企画は先輩方なんですけど、僕は現場を仕切ったり、スケジュールをつくったりしました。

その他には、ディレクターとして「うんこミュージアム横浜」という企画展示に携わりました。僕がメインとして携わったのは、グッズの開発と全体のスケジュールで、これは国内外問わず、大きな話題になりました。

また2020年に関わる仕事として、「パラマニア大作戦」を企画しました。22種類のパラスポーツのキャラクターをつくり、パラスポーツや障害を特別視したものではなく、サイトのユーザーとなる子どもたちがフラットな視点からそれらを知れるようなサイトになるようにつくりました。教育福祉学類の卒業生として、こういう案件に携われたのは感慨深いです。

<その後、片山さんが携わった仕事はこちら>

●ハッピーマンデー大作戦

●「うんこミュージアム横浜」

●「パラマニア大作戦」

 

――入社していきなり、現場に入ったんですね。

いきなり現場に立って自分でやってみたい人には、カヤックのような若い会社は向いていると思います。良くも悪くも、手取り足取り教えてくれない文化だから、自分から主体的に動いて仕事をすることが求められる環境です。

 

――TEDxでの経験は生かされていますか?

TEDxの時は、寝ずに企画を考えてそのままパートナー企業に提案みたいな事がよくありました。パートナー企業に良い提案をしたいし、メリットを感じて欲しい。それにパートナーが集まれば集まるほど規模の大きいイベントになる。自分でつくったものを売り込む経験は、学生からすると貴重です。それが今でも自分の忍耐力として身になっていると思っています。だから「明日までに企画書つくって」と言われてもつくれるし、プレゼンできると思います。

 

――クライアントから来た仕事を自分ごと化して、自分のものとして…。

片山さん

ソーシャルビジネスは自分ごと化できなかったけど、この仕事は自分ごと化できています。自分がつくったコピーや企画が公開される瞬間はハラハラドキドキですし、その反応がすぐソーシャルメディアで見て取れる。

そうやって、メッセージや概念を、表現として、人々にカジュアルに届けられる仕事です。良い広告は賛否両論を起こすもの、と業界ではよく言われているのですが、これからもそういう仕事をしていきたいです。

またいい企画とは、お約束を問い直す企画です。だからいい意味で世の中を裏切って、新しい文化をつくったり、世の中を動かせる企画ができるといいなと思います。そういうプランナーになりたいなと思っています。

 

――今後叶えたい夢、野望はありますか?

TCC(東京コピーライターズクラブ)新人賞をとりたいです。キャッチコピーってかっこいい!と思ったことがこの業界に入った原点だから。そのためにいい仕事をやっていきたいです。

 

――最後に、後輩にこれだけは伝えたいということは? また受験生に激励や励ましの言葉、アドバイスがあれば教えてください。

◆府大の後輩たちへ。
府大って何かやってみれば、形にしやすい環境が整っているし、それがすぐに成果として目立ったりもするから「やってみなはれ」がいいと思います。

片山さん

そのために安全地帯から抜けるというか、コンフォートゾーンから出るというのは、僕もこれまで気をつけてきたことです。例えば学生団体の代表をやってみるかどうか、インターンにいくかどうか。楽な方に流されない。後悔しない選択をする。シンプルなことです。つくってみた後の景色は、つくった後でないと見る事ができません。そしてその景色を見た事があるかないかは、大きな違いです。それは今、企画する上でも大切にしています。

また、コンフォートゾーンから出るためには、「自分に厳しく」みたいなことが想像されそうですが、僕からのアドバイスとしては、誰かに相談すること。府大には、先生だったり職員さんだったり、力を貸してくれる大人たちが多いです。力を貸してくれる人=仲間、という意識で頼ってみると、心理的にも物理的にも、すごく楽になることが多いです。「学内でこういう制度があるよ!」「同じようなこと考えている人がいるから紹介するよ!」とトントン拍子で進み、目標が達成できたりします。

◆受験生の皆さんへ。
受験って、勉強している時は「何の役に立つの?」と不安に思いますが、数学や英語は社会人になっても役立つことも多いです。古文は教養になります。そして何よりも、最後まであきらめない精神力や粘りは受験で身につきました。それが自分の成功体験にもつながっていますし、いざという時にもうひと踏ん張りできる力がついたのは、受験のおかげです。

また、これは両者にお伝えしたいのですが、先生からや就活相談で「将来から逆算して考えよう」(バックキャスティング)と言われることが多いと思うけど、そうじゃなくてもいいと思います。自分がやりたいと思っていることを正直にチャレンジして切り拓いていくという方法(フォアキャスティング)もある。人によって向き不向きはありますが、僕は後者の方。その時の気づきや仮説を検証しながら今の自分をつくってきました。

カヤックに入社したのも、学生時代にいろいろチャレンジしたのも、受験の時も、自分が抱いていた課題やモヤモヤしたことを選択の基準にしてきました。遠い未来から逆算するのではなくて、近場の未来をつかんで積み重ねてきたのかなと思います。

僕はミーハーで、やりたいことはすぐにやってみるタイプ。僕のように自分でやりたいことを見つけ、切り開いていくという生き方もあるということを皆さんに知ってもらえたら嬉しいです。「とりあえず社会経験を積もう」と言って興味のないことをやるより、なるべく自分のやりたいことに近い環境を選んでやってみることが大切です。学生のうちにいろいろチャレンジしてください!

【取材を終えて:工学研究科 川口泰輝】
この度、面白法人カヤックでご活躍されている片山直也さんに取材させていただきました。実は、片山さんとは知り合ってかれこれ7年目になり、今回の記事でも話題にあがっていたTEDxという学生団体やテニスサークルでも一緒に活動させていただきました。

片山さんの学生時代を思い返すと、自分のやりたいことを見つけては周りを巻き込み、とにかくやってみるという姿勢でした。私もその巻き込まれたひとりですが、そのおかげで人脈も知見も大きく広がりました。よく知っている片山さんを取材させていただくのは、少し照れくさかったですが、とても嬉しかったです。このような機会をいただき感謝しています。ありがとうございました。

 

【取材日:2019年11月27日】
【取材:工学研究科 航空宇宙海洋系専攻 川口泰輝】 ※所属は取材当時。