2022年4月、大阪府立大学と大阪市立大学の歴史そして研究力を引き継ぎ、大阪公立大学(仮称)が開学する予定です。

特集記事「知の融合」では、両大学の知の交わり、今後の展望について紹介します。

対談の様子

1970年に開催された大阪万博を機に大きく変化してきた大阪の街。2025年大阪・関西万博が開催されることで、大阪の街はどのように変わっていくのでしょうか。また、2022年に始動する大阪公立大学(仮称)は、大阪の新しい都市モデルの形成において、どのような役割を果たすことができるのでしょう。大阪府立大学で都市の文化論の研究に取り組んできた橋爪 紳也教授と大阪市立大学で都市計画や都市デザイン分野の研究者である嘉名 光市教授に伺いました。

 

<プロフィール>

橋爪教授プロフィール写真
橋爪 紳也教授

大阪府立大学 研究推進機構特別教授・観光産業戦略研究所長。大阪府特別顧問。大阪市特別顧問。工学博士。

研究分野/建築史学、都市計画学、都市観光研究、都市文化論。2025年大阪・関西万博の基本構想立案で中心的役割を担う。

所属学会/日本建築学会、日本都市計画学会、日本観光研究学会、建築史学会、イベント学会

 


嘉名 光市教授

大阪市立大学大学院工学研究科教授。大阪城東部地区まちづくり検討会委員ほか。博士(工学)、技術士(都市及び地方計画)、一級建築士。

研究分野/都市計画・都市デザイン、都市再生計画論、エリアマネジメント、景観論・景観デザイン。水都大阪、御堂筋空間再編などに携わる。

所属学協会/日本建築学会 日本都市計画学会 全国エリアマネジメントネットワークほか

 

―嘉名先生の研究について教えてください。

 

嘉名
私の研究分野は、都市計画および都市デザインです。大学時代から未来都市の構想やデザインに魅力を感じており、この分野を極めようと決意しました。都市計画の実践的研究は、他の工学領域とは違って実験室を設けられず、実験室に閉じこもってできる研究ではありません。そのため実際に都市へ出て、そこを実験室と捉え、都市空間の使い方やデザインを変えてみる社会実験を通じて、より良い都市のあり方を模索するという手法で研究に取り組みます。これまで、京阪神を中心とした都市の再生に向けた都市デザインをテーマに、北新地ガーデンブリッジオープンカフェ社会実験、グランフロント大阪北館西側歩道空間社会実験、御堂筋の歩行者空間化、中之島、安治川等の水都アーバンデザイン構想などの研究と実装を行ってきました。このような研究活動を通じて橋爪先生と知り合い、協働で「生きた建築ミュージアム事業による建築文化の振興」や「水都大阪のまちづくり」に取り組んでいます。

 

―「生きた建築ミュージアム事業による建築文化の振興」 「水都大阪のまちづくり」とは、どのような取り組みですか?

 

嘉名
「生きた建築ミュージアム事業による建築文化の振興」は、大阪には大正時代から昭和初期に建てられたモダンな洋風建築など大阪の歴史や文化、市民の暮らしぶりといった都市の営みを今に伝えてくれる魅力的な建物が集積し、今でも活用されています。こうした生きた建築を展示物とし、大阪の街を大きなミュージアムとしてとらえ、大阪の魅力と建築の価値を発信しようというものです。

「水都大阪のまちづくり」は、かつて水都と呼ばれた大阪の水辺空間の魅力を取り戻し、水辺を人々にとって魅力ある場所へと再生する試みです。シンボル空間づくりや船着場の整備、護岸や橋梁などのライトアップ、規制緩和などによる水辺空間の利活用、市民参加によるシビックプライドの醸成などがその取り組みです。

話をする嘉名教授1

 

―橋爪先生の研究分野について教えてください。

 

橋爪
私の専門は、都市計画や都市文化に関する研究です。街に人が集まるとはどういうことなのか、その本質を探求し、ひいてはどうすれば人が集まるのかという実践を重ねています。私は、大阪の盛り場、ミナミの真ん中で生まれ、育ちました。街に人が集り、新たな賑わいが生まれる様子を見て育ちました。「なぜ、街に人が集まるのか」という疑問を持ち、人生を掛けて、さまざまなアプローチから研究しようと決めたのです。研究のフィールドは、世界各地の盛り場や繁華街、商業施設や商店街、国際観光地、アミューズメントパークや博覧会など、多岐に渡ります。

私の研究分野をわかりやすく表現するならば、「都会の研究」ということになるでしょう。都会を対象とする「研究」には、2つの大きな柱があります。1つは「問題解決」。都市に人が集まれば、さまざまな課題が生じます。その課題を、社会的に、あるいは技術的に解決するための手法や対策を研究します。

もう一つは「魅力創生」。世界のあらゆる都市が、国際観光だけではなく、研究機関の拡充による留学生の誘致、医療ツーリズムなど、集客を目指して競いあっています。人を集め、新しい産業を興し、投資を呼び込むべく、どこの都市も真剣に取り組んでいます。人を集めるには、文化や芸術、エンタテイメントなど、多様な魅力の創生が必要不可欠です。

嘉名先生と取り組んでいる「生きた建築」ミュージアム事業による建築文化の振興や、「水都大阪のまちづくり」などは、私が20年以上、継続して取り組んでいる大阪の魅力創生の一つです。ちなみに博覧会や、フェスティバルなどの都市型イベントの調査と実践も、私の重要な研究主題のひとつです。

話をする橋爪教授1

 

―2025年大阪・関西万博、その先の未来に向けて「いのち輝く未来社会のデザイン」をテーマとして掲げる2025年大阪・関西万博。橋爪先生は、基本構想立案で中心的役割を担われました。このテーマについて解説をお願いします。

 

橋爪
このテーマを解説するには、1970年に開催された大阪万博のテーマについて触れる必要があります。

大阪万博は、アジア圏で初めて開催される国際博覧会でした。開催当時の日本は高度経済成長期で経済は右肩上がり。その反面、公害が広がり健康被害なども注目されていた時代です。科学技術の発展を前提に欧米で発展した国際博覧会は、「進歩」を重視しましたが、アジア独自の視点として「調和」という概念を加え、「人類の進歩と調和」というテーマを掲げました。2025年大阪・関西万博の基本構想を構築するには、人類の進歩と調和という主題を掲げた1970年大阪万博から55年という時間を経たことを意識して、その理念を発展させることが必要です。

今、私たち先進国は少子高齢化、途上国は人口爆発という現実に向き合っています。一方で双方を解決する医療や情報に関するテクノロジーの著しい発展という側面があります。現在の博覧会は、人類がともに直面している課題に、各国の知恵と次世代テクノロジーを活用して解決してゆく場となることが期待されています。この状況をふまえつつ掲げられたテーマが「いのち輝く未来社会のデザイン」です。世界中の誰もが、ひとりひとり自身の命を大切にして充足した生き方ができる社会をつくろうという思いを込めています。

また大阪・関西万博は、国連が提唱しているSDGsの達成に貢献することも目指しています。SDGsには、「飢餓をゼロに」「すべての人に健康と福祉を」など17の目標、169のターゲットがあり、2030年を達成年として地球規模で取り組んでいます。このことから会場には、SDGsの達成に貢献する世界各国の取り組みが紹介されることになるでしょう。ただし私は、「SDGs+BEYOND」という概念を提示しました。「SDGs+BEYOND」には、大阪・関西万博でSDGsの達成に貢献することはもとより、これを契機にその先へ向けての議論をしましょうという考え方を込めています。

写真:鳥瞰図(南西側)/出典:経済産業省

写真:鳥瞰図(南西側)/出典:経済産業省

 

―今、世界中の人が感染症と戦っています。このような状況をふまえて、2025年大阪・関西万博のテーマ、さらにSDGsの達成に貢献するという考え方は重要ですね。

 

橋爪
5年後、感染症対策という大きな課題が、どのような状況になっているのかは未知数ですが、大阪・関西万博を機に、世界中の人と一緒に命の問題を考え、世界の技術とアイデアを集積して共有し、力を合わせて解決するきっかけになってほしいと心から願っています。そのためにもアイデアを実験する機会が不可欠です。大阪・関西万博では、会場を新しい技術の実験場「People’s Living Lab」と位置付け、その成果を大阪の街に実装しようという考え方を示しました。

 

嘉名
感染症がクローズアップされた今、もう一度、都市のあり方、人と人の向き合い方を考え直すべき時代が来ていると思います。そもそも都市計画とは、公衆衛生や防災が基本なのです。橋爪先生がおっしゃる「未来社会の実験場」は、2025年大阪・関西万博だけでなく、開催を経て街を変えていく、変わっていくことそのものだと思います。例えば、感染症の広がりを最大限に防ぎながら、人と人が楽しく交わることができる街など、魅力あふれる都市の創生が必要とされています。

そのためには、ビッグデータを人工知能が解析して混雑を緩和するようなデータと連動したような都市空間の新しいマネジメントシステムを開発するということが考えられます。今、データ、AI、IoTの融合による新しい価値を生み出す新しい概念「Society(ソサエティ)5.0」が提唱されていますが、まさに次世代の都市をつくるための、今までにない新しい概念が構築されるべき時期に来ています。こうしたさまざまな先端的アイデアとテクノロジーを大阪のあちこちで研究、実装し、大阪という都市を「未来社会の実験場」にしたいと考えています。

 

―2025年大阪・関西万博の開催後、大阪の街はどのように変化すると考えておられますか?

 

嘉名
1970年大阪万博の開催のときには、今までにない新しい都市をつくるという考え方で、千里ニュータウンが開発されました。2025年大阪・関西万博でも同様で、これまでにない新しい都市が誕生するのではないでしょうか。

 

橋爪
50年前、日本は高度経済成長期を迎え、モータリゼーションが急激に進みました。大阪でも渋滞によって、たちまち地域経済活動が停滞しましたが、1970年大阪万博に向けてわずか数年で高速道路のネットワークが構築され、短期間で都市問題を解決したという経緯があります。今、感染症対策でリモートを活用した「新しい生活様式」が提唱されています。大阪・関西万博を機に、「新しい生活様式」を取り入れた都市モデルを創造できればと思います。

 

嘉名
橋爪先生が自動車のことをおっしゃったので私からも。実は今、御堂筋の自動車の交通量がピーク時と比較すると半減しています。今後、移動手段が自動車から別のモビリティなどへ移行すると、さらに減少が見込まれます。2025年大阪・関西万博から12年を経た2037年には、御堂筋は100周年を迎えますが、このタイミングにフルモール化、完全歩行者空間にしようという計画を立てています。そのためには技術開発や研究、市民の協力が必要ですが、大阪なら実現できると思っています。

写真:御堂筋のパース絵/出典:御堂筋将来ビジョン(大阪市)

写真:御堂筋のパース絵/出典:御堂筋将来ビジョン(大阪市)

 

―未来社会の実験場としての都市・大阪

 

嘉名
江戸時代から大阪は、市民が自らの賑わいをつくり、道や橋、浜地などの公共空間を管理するなどしてきました。このような歴史的背景から、都市・大阪を未来社会の実験場にすると民間や市民からもアイデアが湧き起こって、良い意味で予測を超えた結果が生まれることが多いように思います。そして、どんどんアイデアが起こるところが大阪のDNAだと思います。

 

橋爪
本当にその通りです。嘉名先生に手伝っていただいた「水都大阪のまちづくり」のことですが、日本は治水という大きな課題に取り組む必要があり、水辺の活用、すなわち河川の防災と賑わいを両立させるのは簡単ではありません。私はかつて「水の都」と呼ばれた大阪にあって顕著であった川沿いの活力を、現代的に再生しようと考えました。河川法準則の緩和を受けつつ、河川空間に飲食店や物販店などの賑わいを再興する仕組みを構築しました。中之島周辺のテラスや川の上にホテルをつくるという試みなど、民間の事業者が協力を動いてくれました。まちづくりに関与する市民の力が、大阪を日本における水辺活用の先駆者にしたのです。

話をする橋爪教授2

 

嘉名
日本は、河川空間内にホテルをつくりたいといっても規制上は困難なのですが、「どうやったらできるんや」と、産官学がアイデアを出して協働するのが大阪の気風です。大阪は“やってみたいが叶う街”であり、それが魅力です。

 

橋爪
これからの街の魅力向上を考え、他の都市にはないユニークなアイデアを出し、実際の都市創造に挑戦する才能のある若者が世界中から大阪に集い、大阪公立大学(仮称)に集まってくれたらと思います。

 

嘉名
大阪のまちを実験室にしてみなさんの思いを実現できてしまう。夢を叶えるために大阪公立大学(仮称)が、その入り口になれば嬉しいですね。

話をする嘉名教授2

 

―2022年大阪公立大学(仮称)開学に関する感想をお願いします。

 

橋爪
大阪公立大学(仮称)は、森之宮に新キャンパスを構築する予定です。都心に新キャンパスができれば、街に若者が集い、活気が生まれます。そこから研究成果のみならず、新しい若者文化、ひいては他にない都市の魅力が生まれるのではないかと感じます。大阪には、自由でユニークな発想と人材を受け入れる気風があります。研究者としては、街を実験場として大阪らしい「面白いこと」を自由に展開したいと思っています。一緒に「面白いこと」を志す人に集まっていただきたいと思います。

 

嘉名
森之宮周辺は、かつて難波宮があった場所で大阪の発祥の地ともいえ、大阪公立大学(仮称)の新しいスタートを象徴しているように思います。新キャンパスができれば、周辺の街も再開発などで生まれ変わります。まさに、大阪公立大学(仮称)を起点として、周辺エリアが新しい都市づくりの実験場になります。一緒に未来の街をつくることにワクワクし、アイデアをかたちにしたい人にぜひ来てほしいと思います。

橋爪教授・嘉名教授の集合写真

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【掲載日:2020年9月4日】※所属は掲載当時