理系女子大学院生チームIRISに所属する岡田博子さん、脇坂園里さんに座談会形式でインタビュー。理系を選択した理由から、研究室での活動、将来の目標まで。「未来のリケジョたち」の背中を押してくれるエピソードが満載です。
<インタビュー参加学生>
岡田博子さん 工学研究科 電子・数物系専攻 電子物理工学分野 博士前期課程2年
脇坂園里さん 工学研究科 電気・情報系専攻 電気情報システム工学分野 博士前期課程1年
松本真季さん(司会) 生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 博士前期課程2年
坂倉央子さん 工学研究科 航空宇宙海洋系専攻 航空宇宙工学分野 博士前期課程1年
森田喜恵さん 工学研究科 電気・情報系 電気情報システム工学分野 博士前期課程2年
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理系に進もうと思ったきっかけは?
松本 ではプロフィールからお願いします。
岡田 大学院ではシリコンフォトニクス研究グループに所属し、シリコンを使ったレーザーを研究しています。主に通信、医療分野への応用をめざしています。今、使われているレーザーよりも安価で、より高速な通信や、人体に無害なセンシングができるようなデバイス開発に向けた研究をしています。趣味はピアノとスパイスカレー。外食もしますし、家で作ることもあります。
脇坂 工学研究科 電気・情報系専攻 電気情報システム工学分野 博士前期課程1年 知的情報通信研究グループに所属しています。内容は主に無線通信の研究に取り組んでいます。その中でも IoT(※)の無線通信の研究をしています。最近5Gのサービスが開始されて、世の中で同時に接続されるデバイスの数が増えていますが、そんな環境でもデバイスがタイムリーに通信できて、そのデータ分析が行えるスケジュールを組む研究を行っています。趣味はYouTubeで「ASMR」を聴くこと。寝る前に聴いて癒されています。
※Internet of Things の略。コンピュータ以外のモノ(家電製品、医療機器、センサー機器等)がインターネットに接続され、相互に情報交換を行うシステム。
松本 お二人とも、初めから理系に進もうと思っていましたか?
岡田 高校1年の時に文理選択の機会がありました。国語と英語が得意だったので、とても悩みましたが、その時の先生に「理系の方が就職に有利」と助言されて、理系に進みました。今は来て良かったと思っています。
脇坂 私は高校入試の時、理系進学コースで入試しました。ですから中学3年の時には、理系への進学を考えていました。私も文系が好きで、将来は英語を使った仕事に就くことも念頭に考えていました。でも理系に進んだ方が、大学での学びを生かしながら、英語の仕事もできるのではと考え、理系を選択しました。
松本 理系でもいろいろな専攻・分野がありますが、今の所属を選んだ理由を教えてください。
岡田 2つ理由があります。1つは物理が好きだったこと。高校で物理を学んだ時に、走行中の救急車のサイレンの音の高さが変化するドップラー効果や、壁に立てかけた傘が倒れない角度をモーメントで計算した時に「科学は日常生活に結びついている!」と感じ、科学の面白さを実感しました。
もう1つは、後世に残るモノ作りができること。建築物やスマートフォンなど人々の生活に何十年も何百年も残るモノを作ることができるというのが、工学系の魅力だと思っています。
脇坂 私の場合は、就職に有利だと当時の担任から聞いて工学に進みました。電気を選んだ理由は、物理などで数式を解いている時間が楽しかったので、今の専攻・分野を選びました。
松本 理系への道を選んだ時、もしくは入学した後などで悩みはありましたか?
岡田 私は研究したいテーマが特になかったので、研究室選びはとても悩みました。今の研究室を選んだ理由は、先輩からの引き継ぎではなく、1つのテーマについて自分の力で考えて研究に取り組むという先生の指導法やテーマの決め方に共感したから。さまざまな経験を通して、スキルアップにつながっています。
松本 電電(電子・数物系専攻 電子物理工学分野)で良かったなと思うこと、苦労したことはありますか?
脇坂 私は大学で初めてプログラミングを学んだので、最初は授業についていけるか心配でした。でもコツコツ頑張っていると少しずつ慣れてきますし、プログラミングに詳しいクラスメイトに教わりながら取り組みました。電電に入って良かったのは、パソコンに慣れたこと。最初はキーボードの操作さえも苦労していました。今はパソコンを使った研究ができています。
坂倉 私は機械系に所属しているのですが、選択の時に、物理や化学、機械系など他の専攻・分野もあったと思います。その中でも電電を選んだ理由を教えてください。
岡田 私の研究室でもプログラミングする機会があります。C言語などを使ってサンプル作成用のソフトを書き直すこともありますし、最近トレンドの機械学習を使って性能の高いデバイスの構造を計算している同期の学生もいます。プログラムもできるし、あとは性能の高い構造ができたら、実際にそのデバイスを作ることも可能になります。ハードとソフトの融合ができるのは電物(電子物理工学分野)の魅力だということは、入ってから知りました。坂倉さんが機械を選んだ理由は?
坂倉 私は機械というよりも、航空宇宙に関することに携わりたいと思っていました。宇宙飛行士になりたくて、そのためにはエンジニアになるのが道としてありました。苦手な研究もありますが、憧れだけで、ずっと来ました。
脇坂 私の場合はパソコンを使い慣れたいと思ったので、たくさんパソコンに触れると思われる学科を選びました。あと、システムを作ってモノを動かす系の事に取り組みたいと思ったので、それなら電電だと思い選びました。
理系は女子が少ないけど、つながりが強い!
松本 私は生命環境所属なので、比較的女子学生は多いですが、工学系は女子が少ないですよね?そういう悩みはないですか?
岡田 入試の時は、女子が全体の1割くらいしかいないし大丈夫かなと思いましたが、入学すると女子同士も結構仲良くなりますし、いじわるをする男子もいないので大丈夫でした。
松本 電気系に女子が増えてほしいですか?
脇坂 女子の仲間も増えてほしいですが、女子の数が少ないと、授業で先生に顔と名前を覚えてもらいやすかったり、女子同士の結束も固くなったりと良いこともあるので、悪くないと思います。
岡田 女子が少ないからという理由で選択肢を切ってしまうのではなく、女子が少ないけれど頑張っている人がいるということを知っていただいて、理系への進学を選択肢に入れてくれる子が増えたらいいなと思います。
坂倉 電電、電物の雰囲気はどうですか? 女性に限らず、どんな学生が多いですか?
脇坂 理系全員かもしれませんが、休憩時間に話す内容も課題の話など真面目ですよね。
岡田 真面目で大人しい、落ち着いた人が多く所属しています。課題に対する女子のつながりはとても強くて、課題ができたら共有しています。
IRISでの経験がスキルアップにつながる
坂倉 女子のつながりといえば、IRISでの活動もそうですが、お二人がIRISに参加するきっかけを教えてください。
岡田 IRISに入ったきっかけは、研究室の先輩に誘われたからです。先輩から、IRISで子どもたちの実験教室を自分たちで作っているという話を聞いて、私が昔から感じていた日常生活に潜んでいる科学の面白さを伝えるにはIRISは最適な団体だと思い、所属を決めました。
脇坂 IRISに所属するきっかけは、いくつかありました。まず同期の森田さんが、先に1年間IRISで頑張っていたこと。それに同じ学科の友だちもIRISに入ろうとしていたので、一緒に入ろうと思いました。あとは、子どもが好きだったから。IRISの説明会で、子どもに科学の素晴らしさや面白さを伝える「サイエンス・キャンパス」を自分たちで運営することを知りました。子どもと関われて、なおかつ、将来理系に来る人を増やせるかもと思い、IRISで活動してみようと思いました。
坂倉 IRISで身に付いたスキルなどはありますか?
岡田 メンバーと協力する力とプレゼンテーション能力です。実験が忙しくなってしまって、自分1人では処理しきれない仕事もたくさんありますし、1人では思いつかないアイデアをメンバーが持ってきてくれることもあります。その中で自分が主張するだけではなく、他メンバーに意見を聞くなど、みんなで1つのモノを作り上げるために必要な力が付いたのではと思います。
プレゼンテーション能力については、資料作成はもちろんですし、少し難しい高校内容の理科を小学生の子どもたちに教えることもあるので、どのように工夫すればわかりやすくて面白く聴いてくれるかと考える機会がとても多かったです。この2つの力が身に付いたと私は思っています。
脇坂 私が参加したサイエンス・キャンパスは1回だけですが、実際に携わってみると、いろいろと難しさを感じました。教える相手が小学生のお子さん。中学や高校で習うような内容を教えるのはもちろん、飽きさせずに興味を持ってもらえるように話すのは特に難しかったです。説明用のパワーポイント作成では文字での説明だけではなく、絵を多用して、視覚的に理解ができるよう心掛けました。小学生でも直感的にわかるよう、難しいワードを噛み砕いて説明するというスキルは、結構悩んだところでもあったので、上達したと思っています。
坂倉 IRISに入ったことで女性同士の交友関係は広がりましたか?
岡田 他の学科の人たちとのつながり、電電以外のつながりが少なかったので、そういう他の学科の友だちが増えたのは嬉しかったです。それにIRISのメンバーから受ける刺激もありました。メンバーから普段の研究内容や、過去IRISで携わった企画の話を聞いていると、研究にもIRISにも手を抜かずにすごい熱量で取り組んでいる。そんなメンバーの存在が私自身のモチベーションになっています。
脇坂 私はコロナ禍でIRISのメンバーと話す機会がまだありません。でもサイエンス・キャンパスの時に同じグループで活動していた子は電電とは違う学科なので、研究生活などを聴いて、とても刺激になりました。
集中して取り組む、研究室での日常
松本 研究室でのスケジュールを教えてください。
脇坂 通常(コロナ前)なら、午前11時から正午までに研究室に入室し、プログラムのシミュレーションを行っています。数式をどのように変形すればプログラムが正常に動作するかなど、机上で考えます。またプログラムを作成する際、ネット等で調べて参考にしています。週に一度のゼミでは、自分が組んだプログラムの見直し・考察をします。実験などに行き詰まった時は、館内を散歩してリフレッシュします。先輩が優しいので、お話して気分転換することもあります。午後6時から7時に帰宅します。
岡田 研究室には夜型の人が多いので、午前11時から正午に入室します。私が所属するのはハードの研究室なので、作成したサンプルに溶液処理を施すのをメインに行います。測定は1回に3、4時間必要です。お昼くらいに研究室に入り、午後3時まで測定しています。データを表にまとめて、先生に結果を報告し、次にどうするか議論します。帰宅時間は午後7時です。
松本 研究室の皆さんとは仲が良いですか?
岡田 仲良いです。工学の中では小さい研究室で1学年に3人。先生は准教授の方が1人だけなので、小ぢんまりしています。あと特殊なのが、先生も教室が一緒です。先生と秘書さんと学生で同じ教室を使っています。フランクな先生なので、学生と一緒にみんなで話しています。和気あいあいとしていますね。
脇坂 私の研究室も人数が少ないのでアットホームな雰囲気です。研究室では女子は私1人ですが、疎外感は感じたことはなく分け隔てなく話しかけてくれるので、居心地が悪いと思ったことはないです。
森田 他の学科の皆さんと交流することはありますか?
岡田 私はあまりないですが、IRISで機械の人や物質化学の人とお話しする機会はありました。研究室の隣が物質化学系の研究室で、そこの皆さんと合同お茶会をしました(笑)。研究室が入っているC10棟には、電物の教室ばかりというわけではなく、隣が物質化学、上には生命環境などあらゆる学科が入っています。別フロアの人とも会ったら挨拶します。そういう意味での交流はありました。
脇坂 部活に入っているので、物質化学や機械の学生と話します。化学だと実験の反応をチェックするために夜遅くまで残る日もあると聞き、それを耐えているというのは、自分の中でも素直に尊敬します。忍耐力があるイメージがあります。
これまでの研究を生かして、人の役に立ちたい
森田 将来、理系であることを生かした職業に就職したいですか?もしくは理系に進んでみて「やはり違うかな」と思いましたか?
岡田 私はハードの研究が生かせる仕事に携わることができる企業への就職が4月より決まっています。技術職だとお客さんが喜んでいる姿が見えないので、希望としては、研究を通して技術を高めながら、自社製品やモノの魅力を一般の方々に伝えたい。両方の知識を生かせる仕事ができればいいですね。
脇坂 将来は無線通信の研究を生かせる仕事に就きたいと思っています。特に今はリモートなどで、通信が必要不可欠なライフラインだと私自身とても実感していますし、自分も研究室で学ぶのがとても楽しいです。自分も楽しみながら、人の役に立つ仕事。それが無線通信の仕事だと思っています。
松本 では最後に、これから理系を選択しようと思っている後輩にメッセージをお願いします。
岡田 選択肢を広く持つというのが大事です。私は中学・高校と理系科目に苦手意識がありましたが、でも実際に取り組んでみると意外に楽しいとわかりました。嫌いだからと決めつけないで、自分で選択肢を減らさずに、広い視野を持って世の中を見てほしいと思います。
脇坂 私はパソコンがとても苦手でしたが、電電に来て、何とかなっているので、純粋に得意不得意ではなくて、学びたいかどうかで選んでほしいです。学びたいことをやっている方が長く続くし、得るものがあった時に気持ち的にも嬉しいので、それで選んでくれたらいいなと思います。
【取材日:2020年12月23日】※所属は取材当時。
【IRISとは】
IRIS は2011年、大阪府立大学の女性研究者支援事業の一環として、女性研究者支援センターが研究や科学の楽しさや面白さを伝えたい理系女子大学院生を募集し、学長から任命を受けてスタートした。チーム名は「I’m a Researcher In Science」の文字と、中百舌鳥キャンパスがある堺市の市花「アイリス」にちなんで、第1期生が名付けた。
サイエンスの世界ではまだまだ少ない女性のロールモデルとして、大阪府内各地で小中高生を対象に科学実験教室「IRISサイエンス・キャンパス」を、オープンキャンパスで中高生、受験生を対象に「めざせ! 理系女子コーナー 先輩と話そう」を開催している。学生自ら企画、運営するこれらの活動は、IRIS自身のサイエンスコミュニケーションの実践と学びの場となっている。