理系女子大学院生チームIRISに所属する柏原ひとみさん、牧 佳穂さんに座談会形式でインタビュー。理系を選択した理由から、研究室での活動、将来の目標まで。男子学生にも読んで欲しい、リケジョたちの胸の内とは?

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<インタビュー参加学生>

柏原ひとみさん 工学研究科 電子・情報系専攻 電気情報システム工学分野 博士前期課程1年

牧 佳穂さん 工学研究科 物質・化学系専攻 応用科学分野 博士前期課程1年

松本真季さん(司会) 生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 博士前期課程2年

坂倉央子さん 工学研究科 航空宇宙海洋系専攻 航空宇宙工学分野 博士前期課程1年

 

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理系への道を志したきっかけは?

松本 まずお二人のプロフィールから教えてください。

柏原 モータードライブシステム研究グループに所属し、電気自動車などに使用されているモーターの高効率化や小型化の研究を行っています。趣味はピアノで7歳から続けています。大学でもピアノ部に所属しています。

牧 分析化学研究グループに所属し、医療診断デバイスの開発を行っています。趣味はアウトドアとジェットコースターに乗って叫ぶことです。

松本 初めから理系に進もうと思っていましたか?理系に進むきっかけも含めて、お聞かせください。

柏原 理系に進もうと思ったのは中学生の時です。技術家庭科の授業で、電子レンジが食品を温める仕組みがテーマでした。電子レンジは空間を温めているのではなく、電磁波のプラスマイナスで水分子を振動させ、その摩擦熱で温めています。その仕組みが中学生の私の心をつかみました。高校は、大阪府立大学工業高等専門学校という工学に特化した学校に進学し、5年間学びました。府大には3年次からの編入です。

牧 私の場合は明確なきっかけはありませんが、小学校の卒業文集の将来の夢で「科学者」と書いた覚えはあります。その時はBTB溶液の色が変わる、というような色の変化が好きだったという記憶はあります。私は数学と物理が本当に苦手でした。でも理系に進むなら楽しさを感じていた化学と決めていました。一方で本を読んだりするのが好きなので文学部や、親が卒業した心理学科もいいかなとは思っていました。ただ心理学を学んで臨床心理士となり、心理カウンセラーとして相談を聞くと、私自身の心が病むと思い断念しました。

一同 (笑)

 

苦手科目を克服して理系の世界へ

松本 電情(電子・情報系)や物化(物質・化学系)を選んだ理由など、その時に悩んだことなどもあれば教えてください。

IRIS柏原さん写真

柏原 もともと電磁波への興味から始まったので、電気か機械か――製品に関わる分野を考えていました。そして自分で設計して動かせるところという考えから、機械か電気かの選択でした。高専ではメカトロニクスコースといって両方学べるコースに進学しましたが、勉強しているうちに「機械よりは電気。でも両方したい」と思いが募り、結局モーターに落ち着きました。モーターは電気エネルギーを機械のエネルギーに変換する電気機器です。これなら両方兼ね備えていますし、モノを動かせて楽しそうだと思い決めました。

牧 色の変化や匂いなど、身近に感じるものが化学には多くて興味がありました。また他大学 のオープンキャンパスで、構造の似ている分子の匂いは似ていると知り、形と匂いは一致することに面白さを感じたのも、化学に惹かれた理由の1つです。

松本 でもすごいですね。物理や数学が苦手なら、化学も選択肢から外してしまいそうですが…。

牧 私、本当に物理と数学ができなくて、数学は2回に一度は欠点取っていました。物理はテストの出来の悪さから、毎週土曜日の放課後に補習に呼ばれていました。 化学はできるとはいえないですけど、数学、物理ほどは苦手ではなかった。理系に進もうと決心したからにはやり遂げないといけないので、化学の成績は良かったです。「頑張れば、どうにかなる」の精神で勉強しました。

松本 すごいですね。先ほどオープンキャンパスの話がありましたが、何校参加しましたか?

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牧 神戸大学農学部、大阪大学理学部化学科・薬学部に行きました。また「Saturday Afternoon Physics~最先端の物理を高校生に」というプロジェクトにも参加しました。第一線の研究者たちによる最先端の物理の講義や実験のデモンストレーションなどを行う企画でした。視野を広げるために幅広くあらゆる分野を高校の時から見てきました。

 

5年間学んだ高専を卒業後、府大に進学

松本 柏原さんは高専を卒業して府大に進学ということですが、詳しく教えてください。高専でなくても、理系に特化した学校はあると思います。

柏原 高専を選んだのは、毎年開催されている高専祭での印象が強かったのが一番でした。中学生の時に遊びに行ったのですが、一般的な高校の学祭とは違う、出し物のクオリティの高さに驚きました。そういう様子を見て、面白さを感じたのが入学する決め手となりました。それに高校1年生から理系に特化した勉強をしたかった。入学すると実験は毎週4時間あり、充実した時間でした。それに作業着や白衣を着用するというものに憧れていたというのもありました。

松本 高専を卒業後は大学進学と就職に分かれますか?

柏原 全体の4割くらいが大学進学、6割くらいが就職します。高専の上にもう1つ、2年間学べる専攻科(学士過程)がありますが、ほとんどが他大学の3年生として進学します。私の場合は、研究に集中して取り組みたかったので、最初から大学院まで進もうと決めていました。

松本 3年生から入学して大変だったことはありましたか?

柏原 やはり完成されている人間関係の中に入っていくのは不安でした。でも「工学系に女子が来た」ということもあり、ものすごくウエルカムな雰囲気でした。特に女の子たちがとても仲良くしてくれました。

 

男女の意識もなく雰囲気が良い環境で研究

松本 研究室でのスケジュールを教えてください。

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牧 応用化学はコアタイムがある研究室が多いです。化学系なので実験室にいないとデータが取れません。通常(コロナ禍前)は、午前9時30分から午後7時がコアタイムです。今は終了次第帰宅ですが、私は朝が苦手なので、午前10時くらいに研究室に来て、午後8時くらいに帰宅します。取り組みたいことが長引いたら、終電の午後10時くらいまで残る日もあります。研究中はずっと無言ではなく、楽しんで取り組んでいます。

柏原 私の研究室では午前10時30分から午後2時30分がコアタイムです。でも実際には午後6時、7時に帰っている人が多いです。時期に応じて変わりますが、今は研究室への入室が半分の人員に制限されていて、週の半分は自宅からリモートで研究室のパソコンにアクセスしてシミュレーションを行います。通学できる日は、担当教員への報告や実験データを共有しています。研究室のみんなとは仲が良いです。

松本 研究室を選ぶ時、先輩が男子だけだったと思いますが、そこは気にしなかったですか?

柏原 それが、私の研究室は女子が集まりやすいようで、先輩に女子が1人ずつ、学年に1人ずついます。私も1人ですが、4回生の3人が入ってくれて、意外と女子が多い研究室になっています。でも男女の意識は特にないです。女子ばかりでかたまっている様子も見たことありません。

牧 今、化学系の女子学生は全体の3割くらいですが、私の研究室では4割くらいが女子です。自分の研究メンバーは男子が多いですが、男女の区別はなく楽しいです。重い溶媒タンクを持つ時は手伝ってくれたり、特に肩身の狭い思いはありません。

 

女子学生が少ないからこその結束力

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松本 お二人とも、現状で女性が少ないことでの悩みはありませんか?

柏原 日常生活においては全くないですね。でも本当に1つあるとしたら、将来、結婚式をした時に、男性の友だちが多いので呼びづらいこと。海外で式を挙げようかな? 本当にその程度です。

牧 今はありませんが、女子の友だちが本当にできるかどうか、最初の2ヶ月は焦りました。入学当初は女子が少ないという意識がみんなにあるので、女子同士1つのグループになります。でも実際は私みたいに大人数で行動するのが苦手なタイプや、3人くらいで仲良くしたいと思う子もいるので、最初の人間関係を築いた後は、時間が経って環境に慣れていくと、みんないい距離感に離れていきますよね。

松本 個人的な感想ですが、物化が絶妙なラインというか、機械や電電まで女子が少ないと、固まりますが、物化は少ないけど多いですよね。

牧 148人中、23人みたいな感じです。23人で1つのグループになるというわけではないです。

一同 (笑)

柏原 同じ工学の「リケジョ」みたいな感じでまとめられても、性質が違いますね。

坂倉 機械と電電は女子の数は似ている感じですが、物化は私たちから見ると多いです。

牧 そうですね、言い方は悪いですが、友達を選ぶ選択しは多いです。何個かタイプが分かれています。今はわいわい系と、ぽつぽつ仲が良い小集団系。ひとり行動の子もいます。あと1回生の時の体育の授業。電電の女子に「LINE交換しよう~。電電は女の子少ないから友だちになって!」と誘われて仲良くなりました。

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坂倉 お二人の友だちや周りの人は、どんな印象の人が多いですか?また、部やサークルで会う別の学部の子に比べて、自分が所属する学部の人の印象は?

牧 機械と電電に比べれば、物化は学生が多いので、真面目な人、そうでない人、ザ・青春キラキラ!みたいな人、1人で行動するのが好きな人……いろいろいます。私の周りに限っていえば、変わった面白い子が多いです。

柏原 そうですね。お洒落で、いろんな所に出かけているだろうなと思わせる人もいれば、家とかでわいわい楽しんでいるような人もいます。難しいですね、十人十色。でも真面目な人が多いかもしれないです。

 

現在取り組んでいる学び・研究の魅力

松本 それぞれの専攻の面白いポイントを教えてください。

牧 身の周りの事象全般について研究できる分野というのが魅力です。例えば、電池に興味のある子は電機や無機化学系。 洋服を作っているような高分子材料に興味のある子は高分子化学。私のように医療診断デバイスに興味がある人や、単に色に興味がある人も学べる研究分野はあります。

柏原 世の中の便利な製品制作にダイレクトに関われるところが一番の魅力です。これは電気系というより情報系のお話になりますが、プログラムに関して、自分が設定した通りに動いてくれて、設定どおりの結果が出るとすごく嬉しいです。

松本 お二人の専攻でそれぞれ良かったこと、苦労したこととかあれば教えてください。

柏原 良かったことは、男女でお互いに意識しないこと。中学生の頃は、男子と仲良くするのは壁がありましたが、男子がたくさんいるところに必然的に入ることによって、壁はなくなりました。同じ人間という印象です。実験や研究の分野では、自分の設計に基づいたプロセスと結果を予想して、実際にその通りになると、とても嬉しかったですね。苦労したことは、プログラミングなどが成功しない場合。そういった時は、難しいですね。

牧 良いこととしては、実験系の人は実験すると何かしら結果が出ること。理論系よりは成果を積みやすいところです。苦労は特に感じていません。幸せですね。

松本 お互い所属している学部・専攻のイメージを教えてください。

牧 化学系から見て、特に情報とかプログラミングしている人は、今を生きている感じがあって羨ましいしカッコいい。それとコロナ禍になってわかったことですが、場所を選ばずに研究できるのは魅力的だと感じます。

柏原 私自身とても苦手なので、化学ができる人はすごいです。それに自分の思い描けないところに対して、いろんな方法で未知のものを解明していくというのは素晴らしいことだと思います。あと単純に白衣に憧れますね。

 

IRISでこれから取り組みたいこと

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坂倉 学校生活でいえば、お二人ともIRISに所属していますが、参加したきっかけを教えてください。

牧 IRISには同じ研究室の先輩たちが結構参加していました。「いろんな経験ができたのが楽しかった」と話していたので、自分も入りました。これまでにサイエンスキャンパスの企画・運営に一度だけ携わりました。

柏原 私は、高専時代にIRISのような活動をする女子チーム「ROSE」に所属していて、IRISと一緒に活動したことがありました。その時に女性教員の方から誘われていました。実際に府大に入った後もぜひ参加したいと思いました。

坂倉 IRISで今後どういうことに取り組みたいですか?

牧 理系に進もうかなと思っている学生さんと交流会をしたいです。対面できないからこそ、逆に一気に大勢の人に伝えることができると思います。

柏原 私も牧さんと同じですが、理系に女子が少ないと感じている人の不安を少しでも軽減したいです。自信を持って進学してもらうために、座談会などで自分の経験を話したいです。

 

研究を生かしてモノづくりをしたい!

松本 お二人とも博士前期課程1年ですが、これから先にチャレンジしたいことはありますか。

研究でも就職後でもかまいません。

柏原 まだ国内の学会にしか出ていないので、大学院に在籍しているうちに国際学会に挑戦してみたいです。

牧 自分の研究成果が製品として人々の役に立てればと思っているので、モノづくり系メーカーに就職して、製品開発に携わりたいです。

坂倉 柏原さんは研究で国際学会に挑戦したいと話していたのは大学院の時だと思いますが、将来的な進路の希望はありますか?博士号取得は考えていますか?

柏原 博士は考えましたが、メーカーでモノづくりをする気持ちが今は強いです。メーカーでも機械と電気、両方に携わりたいです。就職して仕事に携わった後に研究に戻ると、また違った目線が自分自身に生まれると思っているので、とりあえずは就職したいです。

松本 最後にこれから理系を選択する後輩にメッセージをお願いします。

柏原 電気系や機械系は、確かに女子は少ないと思います。私も入学する時、とても不安に思っていましたが、進学するとそういったことを考えることすらなくなりました。もし不安に思っている人がいるなら大丈夫なので、理系が好きならぜひ進学してほしいです。

牧 私は数学や物理など理数系が苦手な子に対してですが、テストは苦手でも、自分が覚悟をもってさえいれば、勉強は頑張れるので、少しでも理系に興味があるなら、自分の点数が悪いということは引け目に思わず、チャレンジしてほしいです。

 

【取材日:2020年12月24日】※所属は取材当時。

 

【IRISとは】
IRIS は2011年、大阪府立大学の女性研究者支援事業の一環として、女性研究者支援センターが研究や科学の楽しさや面白さを伝えたい理系女子大学院生を募集し、学長から任命を受けてスタートした。チーム名は「I’m a Researcher In Science」の文字と、中百舌鳥キャンパスがある堺市の市花「アイリス」にちなんで、第1期生が名付けた。
サイエンスの世界ではまだまだ少ない女性のロールモデルとして、大阪府内各地で小中高生を対象に科学実験教室「IRISサイエンス・キャンパス」を、オープンキャンパスで中高生、受験生を対象に「めざせ! 理系女子コーナー 先輩と話そう」を開催している。学生自ら企画、運営するこれらの活動は、IRIS自身のサイエンスコミュニケーションの実践と学びの場となっている。