2020年12月18日(金)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科の今堀義洋(いまほりよしひろ)教授。テーマは「果実・野菜を美味しく利用しましょう」です。

今堀先生

果実・野菜はビタミンA、ビタミンC、ミネラルおよび食物繊維を多く含み、人々の健康維持にとって、なくてはならない食品の1つです。近年、流通の発達に伴って、海外から輸入された果実・野菜が日本でもたくさん販売されるようになり、私たちの食生活はバラエティに富むようになってきました。

しかし果実・野菜は生鮮食品ゆえに品質劣化が速く、保存しにくくて食料廃棄が多い食品としても知られています。そこで食資源の有効利用と食料廃棄軽減の観点から、果実・野菜を美味しく利用することについて、今堀先生よりお話いただきました。

果実・野菜は収穫後も生体として機能し、生体を維持するためにさまざまな生理的反応の変化を示します。果実・野菜を収穫してから、私たちの口に入るまでの品質を保証するためには、それらを1つの生命体として捉え、その生理および生化学反応における代謝調節機構を追求する必要があります。そのような事で得られた知見を実用面で積極的に応用していく学問を『収穫後生理学』といいます。この学問は、1961年、大阪府立大学農学部園芸学科に園芸利用学講座が設置され、教授として緒方邦安先生が就任。日本で最初の収穫後生理学の研究室として発足されました。

アカデミックカフェの様子
果実・野菜にはさまざまな発達段階があり、同じように一括りとして扱うことはできません。生産者・流通業者・加工業者・消費者によって、品質に対する基準や考えも異なります。先生たちは果実・野菜の特性に応じて扱い、品質保持の研究に取り組んでいます。
その中の1つが品質の評価。成分分析、DNA品種判別法(生物学的方法)の客観的評価(理化学的評価)に加えて、光センサーによる品質評価(光学的方法)、果実の打音による品質評価(力学的方法)といった品質評価技術を駆使して、果実・野菜の品質を調べます。

劣化が早い生鮮食品の品質低下にはあらゆる要因が考えられます。なかでも果実・野菜の生理ともいえる内的要因(果実・野菜自体の変化)は、蒸散作用、呼吸作用などいくつか挙げられます。私たちの身近でわかりやすいのは、果実の「追熟」。色の変化、果肉の軟化、芳香の発生など収穫後の果実に見られる成熟現象です。

追熟することで品質が向上するクライマクテリックグループ(呼吸作用が急激に活発になる現象)が、バナナ、マンゴー、アボカド、キウイフルーツなど。これらに対して収穫時点で成熟段階に入っていないと食用価値がないノンクライマクテリックグループに属するのは、柑橘果実、イチゴなどです。

今堀先生2

内的要因でもう1つ大切なのが、果実・野菜におけるエチレンの生合成と作用。果実・野菜はエチレンと呼ばれる植物ホルモンの作用で成熟します。収穫された後も呼吸をし、エチレンを放出します。エチレンは追熟に対して強い促進効果があります。「キウイフルーツと一緒にリンゴを置いておくと、キウイが早く熟れる」という話を耳にしたことがあると思いますが、これはリンゴから発生するエチレンが作用し、追熟を誘発しているからです。

 

このように追熟現象は「温度調節」「大気の組成」「植物ホルモンおよび化学物質による調節」により調節を行い、果実・野菜の美味しい品質を保持します。なかでも身近な事例がバナナです。

バナナの生産地は熱帯、亜熱帯に分布し、バナナベルトと呼ばれる赤道をはさんで南緯30度から北緯30度の間で栽培されます。果実がまだ青い状態で収穫し、船で輸送。環境温度の調節やエチレンガスによる追熟処理を行い、果実が黄色に変化し、追熟が進みます。やがて流通経路に乗り、スーパーなどで販売されます。バナナは、表面にブラウンスポット(シュガースポット)と呼ばれる黒い斑点が出て過熟段階となります。このように追熟現象を上手に利用することにより、バナナは美味しさを保たれたまま、私たちの食卓に届きます。

果実・野菜の貯蔵および品質保持技術は、予冷や低温貯蔵といった環境温度の調節により、果実・野菜の物質代謝を抑えて品質を保持します。また貯蔵環境ガス(酸素、二酸化炭素)濃度を変更する方法もあります。しかし一般的には果実・野菜の最適温度はそれぞれ異なり、貯蔵温度管理は難しいとされています。

講義終了後、参加者の1人は、スーパーで陳列されている果実・野菜や、家庭菜園で収穫した野菜の食べ頃について、熱心に質問されていました。私たちが旬の果実・野菜を味わえているのは、先生方のような研究者や生産者の皆さんによる研究の積み重ねであることを改めて実感した今回のアカデミックカフェ。私たちも生鮮食品である果実・野菜の貯蔵のあり方を見直し、無駄のない食生活を心掛けたいものです。

集合写真

 

※今回のアカデミックカフェは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して、ソーシャルディスタンスを施した座席の配置を行い開催しました。参加者には、体調や生活に関するアンケート記入をお願いし、入口での検温、消毒など予防対策を徹底しました。

 

 

【取材日:2020年12月18日】※所属は取材当時