『スケーター株式会社』の代表取締役会長・鴻池良一さんは本学工学部のOBであり、1966年に経営工学科卒業後、家業の『スケーター万年筆株式会社(現:スケーター株式会社)』に入社。
プラスチック家庭日用品の製造販売やキャラクター事業の業務提携を進め、商品の海外生産やアウトソーシングなど、数々の手法で『スケーター株式会社』の成長と発展を導いてこられました。

2019年秋よりスタートした本学との産学連携・共同商品開発。
2020年7月に開催されたスケーター株式会社「第38回新製品内見会」にて、共同開発した商品が初めてお披露目となりました。2021年1月15日からは、冷凍ご飯・冷凍おかず容器がイオン店舗(全330店舗中の250店舗)にて店頭に並んでおり、2021年3月10日からは、栄養バランス弁当容器がイオン店舗(全330店舗中の80店舗)にて販売開始される予定です。

今回は大阪府立大学との共同開発商品専用コーナー開設に至った経緯や連携について、また鴻池さんの仕事にかける想いなどをお伺いしました。

鴻池会長

●プロフィール
鴻池 良一(こうのいけ りょういち)さん
1966年 大阪府立大学工学部経営工学科 卒業
卒業後は家業『スケーター万年筆株式会社』に入社し、プラスチック家庭日用品の製造販売業等に携わる。
1974年 『スケーター株式会社』に社名変更。
1984年 『スケーター株式会社』の社長に就任。
1986年 海外生産(台湾)を開始。
2017年 『スケーター株式会社』の代表取締役会長に就任。

―大阪府立大学卒業後すぐに家業に就かれたとのことですが、どのような学生時代を過ごされていましたか。

府大に在学していた時は自動車部に所属していました。家庭教師をいくつか掛け持ちしていたのでそのお給料で中古の自動車を買って、中百舌鳥キャンパスに通っていましたね。夏季休暇がはじまるとよく工場実習にも行きました。

―今回の産学連携・共同商品開発に対し、すぐ前向きな回答をいただいたと伺いました。どのような想いでお返事をくださったのでしょうか。

何年も前から産官学連携に力を注がれ、色々な公的機関でプレゼンをされていたことなど、母校である府大のことはよく知っていたので、お話をいただいたときすぐに「やりたい!」とお返事をしました。

当社の経営理念に“2C1S”というものがあります。“Change”“Challenge”“Speed”の頭文字を取ったもので、常に変革し続け、また挑戦し続け、時代の変化のスピードについていかなければいけないという意味です。この言葉をモットーに、当社は今日まで成長し続けることができています。

府大との業務委託契約の話をいただいたときも、大学の知見を取り入れることにより“2C1S”つまり変革・挑戦・時代の変化スピードに即した対応ができると考えました。当社は開発型企業と自負しています。新製品開発費用に毎年4~5億円くらいは掛けており、過剰投資と揶揄されることもあるかもしれませんが、それは常に変革・挑戦し続けているということを意味しているとも考えられます。

今回のお話をいただいた産学連携・共同商品開発も、今までやっていないこと、つまり挑戦・変革の一つにあたると思い、二つ返事でお願いすることにしました。府大との連携を通して色々なことを勉強させてもらって、世の中の人に喜んでもらえる商品を作りたい。新しいことに取り組むのが大好きなので、可能性があればどんなことにも挑戦してみたいんです。

―プロジェクトを進められて実際にどう感じられていますか。

昨今の時代の変化は10年ひと昔ではなく、1年ひと昔と言われるほど、ここ数年の時代の変化はめまぐるしいものがあります。ライフスタイルや娯楽、感性や価値観も多様化してきていますよね。そんな中、企業として生き残っていくには価格勝負ではなく、いかに消費者に寄り添った商品を作っていくか、また差別化を図っていくか、オンリーワン商品を開発するかということになるのですが、そのためには我々が持たない大学の観点、また学生さんたちの若い感性が必要と感じました。

実際に一緒に商品開発を進めさせていただき、私たちが持っていない視点でのアドバイスを多数いただいており、改めて業務提携を結ばせていただいてよかったと感じています。

鴻池会長2

―「第38回新製品内見会」で本学との共同開発商品専用コーナーを開設した理由を教えていただけますか。

府大のみなさんがお持ちの知見は面白いと感じることが多く、それを内外の方々にも知っていただきたいと考えたことが一つです。当社は3~4ヵ月で新製品を作っており、いい意味でも悪い意味でも新製品や取扱商品が非常に多い会社。そのため、今回獣医学専攻の先生方と一緒に開発した「獣医さんが考えた食器シリーズ」をペットコーナーに置いてしまうと、その良さが埋もれてしまうのではと考えました。

また、産学連携は初の試みでもあるので、それを内外にアピールするためでもあります。当社は奈良県でも有数の優良企業であり奈良県より「地域未来けん引企業」に指定していただいておりますが、産官学の内の大学との取り組みはようやくスタートしたところですし、官庁つまり国や県などの取り組みもまだまだ弱いと感じています。

今回の取り組みを機に大学だけではなく国や県などとの取り組みも強化していきたいと考えており、そのきっかけ作りにもなるかと思い、専用コーナーを開設することにしました。将来的には府大の卒業生の方を当社で採用させていただくという人事・人材面でのパイプも築くことができればと考えています。

―本学の獣医学専攻と一緒に開発した「獣医さんが考えた食器シリーズ」や栄養療法学専攻と開発したお弁当箱などのキッチン関連用品。知見を商品として形にできるのは、『スケーター株式会社』さんがものづくりのプロだからこそですよね。

フードボウル
前の回答と被ってしまいますが、府大と業務提携を結ばせていただいてから面白い視点のアドバイスを多数いただいています。獣医学専攻の先生方との共同開発「獣医さんが考えた食器シリーズ」に関しては、犬や猫の食べ方・舌の動かし方などをご教授いただき、食べやすい食器の形状を模索しました。犬の種類だけでなく、犬と猫でも食べ方やちょうどいい高さなどが異なること。識別できる色とそうでない色があることなどを教えていただき、やはり私たちが持っていなかった視点を持たれていて、勉強になりました。

栄養療法学専攻の方では、「冷凍ご飯容器・冷凍おかず容器」を共同開発しました。こちらに関しては電子レンジの温めムラが出にくい形状や解凍時に美味しくできる形状などのアドバイスをいただきました。

また、学生さんたちには弊社の既存商品である「ココット風電子レンジ用調理鍋」のレシピを31種類考案いただきました。
※参考:ニュースリリース「おうちで楽しく簡単調理『Stay Home!で美味しいレシピ!』栄養療法学専攻の学生たちが提案

私も数個のレシピを食べてみましたが美味しかったですね。妻は「野菜が簡単に取れて、基本的にカットして鍋に入れてチンするだけですごく手軽でうれしい」と言っていました。料理研究家さんが作られるレシピというとどうしても手の込んだ料理になってしまいがちかもしれませんが、学生さんが作られるレシピはすごく簡単でそれでいて美味しく、そしてヘルシー。私たちにとっては目新しいものです。このレシピの素晴らしさをいかに消費者に伝えるかが、今後の課題だと考えています。

私たちが持っている「マーケットの情報」と「大学のみなさんがお持ちの知見」を組み合わせることにより、より面白い商品を作っていく。まさに産学連携を実践していると実感しています。ものづくりの方はほとんど会長である私が行っておりますが、産学連携で今後どのような商品が生まれるか、私自身も楽しみにしています。

―昨年の秋からはじまった本学との産学連携ですが、企画立案から商品化までのスピードがとても速いと感じました。それはやはり経営理念である“2C1S”が浸透しているからなのでしょうか。

そうですね。当社はこれまで様々な挑戦・勉強を続けてきました。1972年、当時大人気だった上野動物園のパンダを新聞で見て「パンダのデザインをつけて商品化してみたらどうだろう」とトライしてみたところ大ヒット。その後ビーバーをデザインした商品を販売してみたのですが、その時にある企業から電話があり、商標権の関係で商品を販売することができなくなってしまったんです。

しかし、これが自分にとって“版権”を学ぶ機会になりました。現在は家庭日用品において約150種のキャラクターを業務提携して使用していますが、それも当時の経験があったからこそ。失敗してもそこから何かを学べばいい。失敗で終わらせず、もう一度分析すれば成功率はあがると信じています。

いつも私の心の中には「やらずして後悔を残すよりも、成功するとは限らないけれどやれば必ず経験が残る。やって失敗しても納得が残る」という想いがあります。当社の目標は、流行やニーズに対してどこよりも早く作ること。その時々の社会の変化に早く対応して、その時代に合わせたものづくりをしていきたいですね。

鴻池会長3

―最後に、本学の学生にメッセージをお願いします。

学生のみなさんにはまず夢を持ってほしい。そして「夢を叶えたい!」という気持ちで、自分が成功した姿をイメージしてみてほしい。頭に浮かべることで気持ちが高まります。

失敗は成功のはじまりという言葉がありますが、まさにその通り。“Change”“Challenge”“Speed”のつもりで、最後まで諦めないでトライしてみてください。成功する確立は1/3あればいい方ですし、失敗してもなぜ失敗したのかを考えて、次に生かせばいいんです。

思うようにならないことはたくさんあります。でも、悔いは残さないように、やりたいことはやってみてください。若いということはいいことですよ。可能性があるということですからね。

集合写真

 

 

 

【取材日:2020年7月17日】※所属は取材当時