2021年1月29日(金)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは大阪府立大学大学院工学研究科 海洋システム工学分野の片山 徹(かたやま とおる)教授。テーマは「波の中で浮体は揺れる それでも揺れを減らしたい!」です。

片山先生

私たちが連想する海上の揺れといえば、フェリーや釣り船などへの乗船時や、ヨットやサーフィンなどの体験でしょうか。船舶や海洋構造物のように水面に浮いている浮体は、波や風の影響を受けて揺れます。この揺れがあまりに激しいと、船内作業ができなくなりますし、搭載している荷物が崩れるかもしれません。このように多大な影響が生じるため、できることなら揺れは防ぎたいもの。今回は浮体が激しく揺れるケースや揺れのメカニズムについて、片山先生にお話しいただきました。

揺れるとは、例えば振り子や重りを吊るしたバネなどのように、ある点を中心に前後・左右などに動くこと。なかでも船体の揺れとは、上下揺れ、前後揺れ、左右揺れ、縦揺れ、横揺れ、船首揺れの6種類を指します。これに加えて重要な要素が「波」。基本的には波に出会う周期で船が揺れます。船が揺れると、乗員の船酔いや荷崩れが発生します。また揺れが大きいと転覆する恐れもあります。「パラメトリック横揺れ」「復原力喪失」「ブローチング」「デッドシプ状態」は、大きく揺れる現象として知られています。

講義の様子

なかでも「パラメトリック横揺れ」は、横揺れと波を受けるタイミングが同調して、横揺れが次第に大きくなる現象。波に1度出会うごとに船体が右または左に揺れ、波に2度出会うと横揺れが1回起こります。波の揺れが、船体の揺れを助けるように働く危険な現象です。横揺れ固有周期の長い船は追い波(転覆につながることも)、短い船は向い波(船上での加速度が大きく荷崩れすることも)となります。発生を防ぐには、まず波とであうタイミングをずらすことが大切で、横揺れ減衰力を増加させるのも振幅を減らすのに効果があります。

その他の現象について。「復原力喪失」は、船尾側からゆっくりと高波に追い抜かれる状況で、波の山が船体中央付近に来た時、船舶の復原力が著しく低下して、横傾斜が生じる現象です。「ブローチング」とは、波乗り状態の船舶が船尾を持ち上げられ、操舵による保針が困難となる現状で、急激な旋回を伴う場合には転覆の危険があります。「デッドシプ状態」は、推進力を喪失した船舶が漂流状態になり、かつ厳しい波風を受ける状態での復原力に関する基準です。

大きな揺れによるトラブルや転覆を回避するため、すなわち乗り心地を改善するために、船にはさまざまな装置が取り付けられています。現在、ほとんどの船に装備されている「ビルジキール」は、横揺れを抑制するために装着されたひれ状の板。「フィンスタビライザー」は、船底近くの両舷に張り出した板。横揺れによる横方向の速度と、前進速度から得られる迎角を持った流れによって発生する揚力を利用することで揺れを軽減します。このように、運動抑制のための制御を施す付加物を船底や船尾に取り付けることで、船体をコントロールします。また波から受ける力を減らす工夫や改良が施された特殊な船として、波浪貫通型の高速船や客室部分をサスペンションで支えた特殊船などがあります。

片山先生2

最後に、これら揺れに対して、私たちが最も身近に感じる問題が船酔いです。船酔いの発生メカニズムは、船体の上下加速度が大きいことに加え、上下揺れ、横揺れを問わず6秒前後の波が酔いやすいとされています。ではもし酔ってしまったらどうするか? 視覚情報を遮断する、つまり目を瞑って寝るのが一番。揺れによる空間のズレを見るともっと気持ち悪くなります。もっともその前提として船酔いにならないためには、乗船当日の体調を整えるのも大切です。

 

今回は、海上での揺れの種類や発生メカニズム、揺れを防ぐために船体に施された工夫など、日常ではあまり体験できない学びとなりました。普段接することのない学問に出会えるのもアカデミックカフェの魅力です。

集合写真

 

 

片山先生おすすめ本<先生ご持参の本> ※講義では紹介されませんでした
船舶海洋工学シリーズ1『船舶算法と復原性』/成山堂出版
著者:池田良穂・古川芳孝・片山徹・勝井辰博・村井基彦・山口悟 共著
https://www.seizando.co.jp/book/4250/

※撮影写真の右側は英訳です

 

 

※今回のアカデミックカフェは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して、ソーシャルディスタンスを施した座席の配置を行い開催しました。参加者には、体調や生活に関するアンケート記入をお願いし、入口での検温、消毒など予防対策を徹底しました。

 

【取材日:2021年1月29日】※所属は取材当時