スケーター株式会社(以降、スケーター)と大阪府立大学では、URA(リサーチ・アドミニストレーター。大学における研究マネジメント人材のこと)のコーディネートのもと、共同研究や共同製品開発が行われ、産学連携で様々な取り組みが進んでいます。

2020年11月にそれらの取り組みで開発された製品がいよいよ販売となり、それを機として共同製品開発に携わった総合リハビリテーション学研究科 栄養療法学専攻の竹中 重雄 教授と生命環境科学研究科 獣医学専攻の秋吉 秀保 教授に、開発における研究者目線でのポイントや苦労したこと、大学としての産学連携の必要性や今後の展望などについて伺いました。

共同開発商品

○プロフィール

竹中 重雄(たけなか しげお)
大阪府立大学大学院 総合リハビリテーション学研究科 栄養療法学専攻 教授
担当学域/地域保健学域
研究分野/栄養化学 応用生物化学 食品科学

 

秋吉 秀保(あきよし ひでお)
大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 獣医学専攻 教授
担当学域/生命環境科学域
研究分野/臨床獣医学

 

―今回、スケーターとの共同製品開発に至ったきっかけと、その話を持ち掛けられた際の印象について教えてください。

竹中先生(以降、竹中) 府大のURAセンターから、お弁当箱や調理器具を作られているスケーターが一緒に共同製品開発をしてくれる研究者を探しているという話を聞いたことがきっかけです。消費者に近い目線で製品開発をされていることや、スケーターの鴻池会長が府大OBだったということもあり、ぜひ府大の先生方と一緒に製品開発をしたいという想いがあるということがわかりました。管理栄養士養成としてのミッションとは少し離れますが面白そうだなということもあり、若い先生方を中心に取り組むことになりました。

今回の共同開発以前にも、スケーターは府大の工学域の先生方と製品管理システムの共同研究にも取り組まれており、私たちは製品管理ではなく製品そのものに関する部分というところでお声がけいただきました。

秋吉先生(以降、秋吉) 私たちは、スケーターがペットに関する製品開発を考えており、賛同していただける先生を探しているという連絡をURAセンターから受けました。もともと、スケーターはキャラクターもののお弁当箱やコップなどの製品を取り扱っていることは知っていたので、そのような企業がペット用製品の開発に着手するというのはおもしろそうだと思いました。

実際に話を伺うと、会長の鴻池氏がとても面白く魅力のある方で、「ペットと飼い主が幸せになれるような製品を世の中に届けたい」という趣旨にも賛同したので、「ぜひやらせていただきたい」ということで話が進みました。

 

―今回の開発で苦労したことがあれば教えてください。

竹中 すでにスケーターが持っている食品関係の技術や既存製品についてどのようにブラッシュアップしていくのかということと、新規の製品開発という2つの部分に取り組みました。

共同開発商品電子レンジ鍋

ココット風電子レンジ調理鍋

1つ目の課題である既存製品のブラッシュアップについては、今世の中ではなにが求められているのかということを考え、コロナで自粛生活を送る中で、自宅でも簡単に野菜がたくさん食べられるようなレシピを開発しようということになりました。そして、スケーターの既存製品である「ココット風電子レンジ調理鍋」を提供していただき、学生にレシピを考案してもらいました。

※参考:ニュースリリース「おうちで楽しく簡単調理『Stay Home!で美味しいレシピ!』栄養療法学専攻の学生たちが提案

2つ目の課題である新規製品の開発については、どのようなお弁当箱が世の中に求められているのかということを中心に考えました。まずは、栄養バランスをいかに保つかということです。

共同開発商品栄養バランス弁当箱

栄養バランス弁当箱

一般的には、白米のような主菜と肉や魚などのおかず、和え物などの副菜の比率が3:1:2であると栄養バランスが保たれているとされます。そのことを考えたときに、比率がしっかり分けられるということを主眼にしたお弁当箱はどうだろうと思いました。実際にレシピもいくつか作成し、本当に栄養バランスが良くなるのかという検証データをそろえたお弁当箱を作りました。

もう一つは、「時短」ということに焦点を当てました。お弁当を作る時に、ごはんをお弁当箱に詰める作業が意外と手間がかかるのです。スケーターの既存製品の中に、電子レンジで加熱でき、冷凍保存もできるおかず入れがあり、そのような技術をうまく活用することで、冷凍保存できるご飯入れができるのではないかと思いました。

毎日お弁当のためにご飯を炊くのは大変ですが、1週間分のご飯をまとめて詰めてストックでき、かつおいしく冷凍、おいしく食べられるようなご飯入れを開発できれば楽にお弁当を作ることができるのではないかと考え、開発を進めました。

共同開発商品冷凍ご飯保存容器

ご飯冷凍作り置きランチボックス

秋吉 私たちはまず、獣医学の観点から「何の製品を開発するのか」ということを決めるのに非常に苦労しました。スケーターからの最初の提案では、既存の製品を動物にも使えるように少しアレンジをしたものが良いのではないかというものでした。しかし、それでは臨床獣医師である私たちが共同開発する意味が薄いと感じましたので、開発する製品のコンセプトを決めるための情報共有やイメージの共有に時間をかけました。

私たちは動物も人間と同様の生き物であり、伴侶動物は家族と捉えています。なので、動物だから多少安価で安易に製造した製品でもいいだろうという考えはなく、動物にも安全で、安心して使えるような製品を開発するべきだと考えました。このような製品のコンセプトが決まると、比較的スムーズに具体的な開発コンセプトと製品が決まりました。

スケーターと私たちが、開発に取り組んだのが、犬と猫用のフードボウルです。このフードボウルの特徴は、高さがあること、こぼれにくく、耐久性があり、デザイン性もいいということです。

共同開発商品犬猫ボウル

DOG FOOD BOWL CAT FOOD BOWL

犬や猫は品種によって鼻の長さや形状が違います。なので、様々な品種の犬や猫が使える、それでいて家の中に置いていても違和感のないようなデザインの製品を開発しています。

一番大切なのは、作り手、デザインする方、アドバイスをさせていただいている私たちの価値観を一つにすることです。それを、どのようなターゲットの消費者に向けて、どのような製品を提供するのかというコンセプト作りが最も大変でした。

一方で、ブラッシュアップしていく過程でコロナウイルス感染症の問題が生じ、オンラインでの会議が増えたことで意見交換や認識の共有などがしづらくなってしまったことも思わぬ困難の一つでした。

 

―共同製品の開発や研究を進める中で、研究者目線から見たポイントや工夫について教えてください。

竹中 研究者目線といいますか、管理栄養士の視点で見たときに、お弁当の栄養バランスをどう保つか、特に、若い人達が食事で野菜を摂るということを、少しでも考えてもらえるような工夫を考えました。

やはり大切なのは、管理栄養士としてその製品をどういう目線で見ているのかというところにあると思います。お弁当箱のほうは、「栄養バランスってどうしたらいいのだろう」という1つのガイドラインみたいなものが示せたらいいですし、冷凍保存できるご飯入れのほうは、「簡単で美味しく食べるにはどうすればいいのだろう」ということが達成できればと考えながら開発しました。

共同で製品の開発をするには、私たち研究者の想いとスケーターの想いを合致させて製品を作っていくことが必要だと思います。そういう意味では、今回の共同製品開発ではいくつかの製品に並行して取り組めたので、面白い製品ができていると思います。

秋吉 私たちも竹中先生がおっしゃられたように、研究者目線というよりも臨床獣医師としての目線で今回の共同製品開発に参加させていただきました。動物病院で入院している動物を見ていると、やはり高さが低いフードボウルだと、首に病気があるかないかにかかわらずご飯を食べてくれない、あるいは食べにくくしている動物が多いんです。ですので、そういった状況でも比較的安全にご飯が食べられるようにフードボウルの高さや大きさを工夫しました。

あとは、いかに消費者目線で製品の開発ができるかということも重要なポイントだと思います。今回の共同製品開発に参画していた研究者は中年以上の男性が多かったのですが、実際に製品を買う消費者は圧倒的に女性が多いんです。なので、製品を買う機会の少ないメンバーで議論することはあまり良くないので、私たちの家族にも協力いただき、女性の意見を尊重しました。

 

―今回の共同製品開発には栄養学専攻の学生も関わっていますが、学生のうちから産学連携に関わることのメリットは何でしょうか。

竹中 卒業して社会に出るにあたって、世の中で売られているものがどのように出来るのかということを体験できるということは大切だと思います。今回学生は、実際にレシピを作ったり、お弁当箱のカロリー計算や冷凍保存ご飯入れの冷凍の仕方、解凍の仕方というところも実験し、データとして算出しました。

また、物を食べたときに人間がどう感じるのかということを数値化する「官能試験」は、企業が製品開発をする際に必ず行うので、それを学生のうちに経験できたことは非常に大きく、将来に活きると思います。加えて7月に行われたスケーターの新製品内見会にも学生が参加し、自分の考えたことがどのように製品に反映されているのかということを実際に見て、次につなげる思考を体験するということも貴重な経験です。

 

―秋吉先生は、学生の頃から竹中先生とご縁があったと伺いました。今回、同じプロジェクトに携わったことで感じたこと、刺激を受けたことはありますか?

秋吉 縁があったと言いますか、竹中先生は私の恩師の一人なんです。博士論文の添削もしていただきましたし、共同研究のときもいつもお声がけいただいたり、論文を一緒に執筆する機会をいただいたり、感謝の気持ちでいっぱいです。

最初は今回の共同製品開発に竹中先生も参加されているということは知らなかったのですが、情報交換会などでお会いする機会があったので、懐かしいなと感じましたし、これからも一緒に何かできればいいなと思っています。

竹中 私が助教として大阪府立大学に採用された年に、ちょうど秋吉先生が博士論文を書かれていて、秋吉先生の論文を読ませていただいたときから関係が始まったような気がします。

秋吉 おっしゃるとおりです(笑)。

竹中 獣医学類は学生と教員の距離がとても近いんです。獣医だからとか獣医じゃないからとかは関係なく、いま自分たちには何ができるのかということを持ち寄って研究ができる点が獣医学類のすごく良いところだと思います。秋吉先生はアクティブな人で、何か話したらすぐにやりましょうと言って実行するタイプで、ずっと頑張っておられるのですごく頼りになるし、次世代の獣医のエースになると私は思っています。

学域・学類の垣根を越えて取り組んでいくことが次の課題なので、こういう形でご縁のある先生と一緒に研究できるということは楽しいことかなと思います。

秋吉 ありがとうございます。これからも一緒に共同研究させていただければと思いますので、ぜひよろしくお願いいたします。

 

―今回の共同開発にかけた想いについて教えてください。

竹中 スケーターは、主力製品としてお弁当箱などのいわゆる「ケース」を作っているのですが、そのケースに詰める「中身」をどのようにすればいいのかという部分で今回一緒に共同開発ができ、さらにユーザー目線で「こういう使い方もありますよ」ということを新しく提案できたということが良かったなと思います。

電子レンジで野菜をたくさん使ったレシピを作るときに、まさか焼きそばが出てくるとは個人的に思ってなかったので、学生の柔らかい発想力には感心しましたし、そういう発想が伸ばせるチャンスが今後もあればすごくおもしろいと思います。企業のニーズと私たちが応えられる部分がうまくマッチングしていけばお互いに勉強できるところがたくさんあると思います。

秋吉 実は私たちには2つ夢があって、今回の共同研究開発はその第一歩だと思っています。まず1つは、一般のご家庭の飼い主さんからの要望をもとに、少しでも飼い主さんと動物たちが楽になり、気分もよくなるよう安全な製品をお届けしたいということです。今までは、産業界の方と話をする機会があまりなかったので、今回の共同製品開発を皮切りに、あったらいいなと思うような製品を具現化していければと思います。

もう1つは、私たちが所属している大阪府立大学 獣医臨床センターのブランディングに役立つような、獣医臨床センターのグッズを作成したいということです。動物にとっても人間にとっても使いやすく、獣医臨床センターのロゴマークも入った安心・安全な製品を開発できればと思っています。

スケーターには技術力もありますしグッズ開発の相談にも乗っていただけそうなので、そういった方向でもぜひ、共同開発を続けていければと思います。

 

―大学としての産学連携の必要性や、ご自身の研究への影響や気づいたことについて教えてください。

竹中 産学連携は必ずしも自分の専門分野と結びつかない場合もありますが、管理栄養士養成の視点で、栄養の改善や健康維持のために何を食べれば良いか、どのように啓蒙していくか、簡単なところから理解してもらうにはどうしたらいいか、などを考えるときに、今回のスケーターからいただいた共同開発の話は、食べる人の目線で考え再考できる非常に良い機会になりました。

また産学連携を通して学生がやる気になってくれることは嬉しいことですし、在学中に企業の方と直接意見交換が出来る機会を作ってあげられたことは、大学としてもすごく良いことだと思います。

秋吉 あまり大きなことは言えないですが、少なくても私たちの臨床獣医学にとっては、産学連携は極めて重要だと思います。私たちのミッションは、動物の健康増進を願って動物に医療を提供することと、また、それを学生に教授することですが、実際には何か新しい器具や器材の開発がないと獣医療もなかなか進歩ししません。

そのため、私たちのアイデアと、それを具現化する工学的な技術・ノウハウを持っている企業とがタッグを組んで製品開発を行う事が重要だと考えています。産業界と我々研究者や医療従事者がともに共同研究することは極めて重要だと思っています。

今回のスケーターは医療関係の企業ではないですが、動物と人が幸せになるために必要なことは医療の発展だけではないので、私たちの目線で考えたアイデアが企業の力で製品として具現化することはひとつの大きな前進です。今後も産学連携を推進することで研究・教育がより深化することに産業界の方もご協力いただけたら嬉しいですし、一緒に歩んでいけるような体制作りができればと思っています。

 

<参考>
大阪府立大学 総合リハビリテーション学類 栄養療法学専攻 WEBサイト

大阪府立大学 生命環境科学研究科 獣医学専攻 WEBサイト

大阪府立大学 研究推進本部 URA(リサーチ・アドミニストレーション)センター WEBサイト

【取材日:2020年8月20日】  ※所属・学年は取材当時