2021年3月13日(土)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは、大阪府立大学大学院 理学系研究科 物理科学専攻の前澤 裕之(まえざわ ひろゆき)准教授。テーマは「電波で探る宇宙の生命圏環境 生命のゆりかご暗黒星雲から星・惑星そして地球へ」です。

前澤先生

生命がどのように誕生したのか、まだ謎に包まれています。天文学者は、そんな生命に繋がる有機分子などの痕跡を宇宙に探ろうとしています。もしそうした物質が地球の兄弟惑星である火星や金星のような惑星に舞い降りたら、地球と同じように生命は誕生していたのでしょうか?

今回のアカデミックカフェでは、天文観測からどのようなことがわかるのか、そしてその先に私たちは何を見据えるのか。電磁波を使って天体を観測する電波天文学を研究されている前澤先生よりお話いただきました。

今からおよそ138億年前、ビッグバンと呼ばれる大爆発によって宇宙が誕生しました。誕生後すぐの宇宙は高温でしたが、膨張や冷却を経て、水素、そしてヘリウムを生み出しました。そこから星の誕生や超新星爆発などを繰り返しながら、鉄やウランなどの重い元素が次々と生み出され、生命の活動に適した地球のような惑星も生まれました。太陽は寿命もおよそ100億年で穏やかな星。一方で、大きな星は寿命も短く危険ですが、生命に必要な元素を供給する大事な役割も果たしています。

銀河には、暗黒星雲という高密度のガスや塵が集まって星の光がさえぎられ暗く見える場所があります。このような場所では、やがてガスや塵があつまって円盤状の星・惑星系がつくられます。中心部では星の赤ちゃんが育ち、核融合のエネルギーで輝く星となります。そのまわりには惑星系も形成されます。

アカデミックカフェの様子
そうした惑星系で生命はどうやって育まれるのでしょうか?今から150年ほど前、フランスの科学者ルイ・パスツールによる実験から、微生物が自然発生しないこと、つまり「生命は生命から生まれる」ことが示されました。しかし、宇宙は、はじめは無生物の世界だったはず。生命が誕生したという事実は宇宙最大のミステリーの1つであり、今もなお研究が続けられています。

宇宙での生命誕生には、どんな条件が必要なのでしょうか。生命に必須なのは「水」であり、水といえば、水の惑星、私たちの地球です。太陽系ができるとき、水は太陽から近い場所では温度が高いため蒸発して枯渇しており、太陽から遠い場所では温度が低いため氷として存在していました。その境目をスノーラインといいます。

スノーラインの外側から、彗星や隕石が水や生命に必須の有機物を地球に運んできた可能性もあるそうです。「水が供給されるバランスが足りないと、砂漠ばかりの惑星だった可能性もあるし、逆に水だらけの惑星になっていたかもしれない。地球の水というのは、絶妙なバランスでもたらされました。水は無尽蔵にある気がするけれど、実はわずか。奇跡の水をもっと大切にしなければ。一度汚染してしまったら取り返しがつきません」と前澤先生。

前澤先生2
太陽がちょうど良い大きさと寿命をもち、地球が太陽からちょうど良い位置にあったこと。他にも、銀河の中心からちょうど良い距離に太陽系があったこと(銀河系のハビタブルゾーン)。太陽風が太陽系を守ってくれたり、地球の磁場シールドが宇宙線から守ってくれていること。外側の離れた場所に木星などの大きな惑星があったこと、など、沢山の事象が今の私たちにとって重要だった可能性があるそうです。

現在、欧米を中心に各国で火星探査が継続されています。2021年2月にはアメリカNASAの火星探査車が火星に着陸し、ミッションを開始しました。「火星には人類が生活していける資源があるのか?」「火星に生物は存在するのか?」など興味は尽きません。「私たちの研究グループも火星に関する研究調査を推進していますが、お隣の惑星なのにわからないことばかり。惑星や宇宙を、研究すればするほど地球がいかに素晴らしい惑星か痛感します」と話します。

「生命や地球環境の尊さを宇宙スケールで理解して、生命あるいは地球を大切に守り通すことは私たちの使命。若い世代の人たちには、豊かな自然に包まれた美しい地球や命の尊さを見つめ、大切に育んでいくような人になってほしい」と前澤先生は最後に締めくくりました。

講演終了後、先生の前には参加者の方々による質問の列が。皆さんの宇宙への関心の高さを物語る光景でした。数年後には民間人による月旅行が実施される予定もあり、空想や憧れの世界だった宇宙は、もっと身近な存在になることでしょう。

宇宙や星の誕生、地球の成り立ちについて概略を話してくださった今回のアカデミックカフェ。私たち人間や生物が存在していることに奇跡を感じずにはいられない、未知なるロマンにあふれた時間でした。

集合写真

 

 

先生がアカデミックカフェに寄贈された本

<前澤先生がアカデミックカフェに御寄贈された本>
『銀河鉄道の夜』/講談社
原作:宮沢賢治 影絵と文:藤城清治
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000170653
『宇宙の生命 青い星の秘密』/岩崎書店
著者:ルーシー&スティーヴン・ホーキング 翻訳:さくまゆみこ
https://www.iwasakishoten.co.jp/book/b286555.html
『COSMOS』(上下巻)/朝日文庫
著者:カール・セーガン 翻訳:木村 繁
https://publications.asahi.com/ecs/detail/?item_id=2838

 

 

※今回のアカデミックカフェは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して、ソーシャルディスタンスを施した座席の配置を行い開催しました。参加者には、体調や生活に関するアンケート記入をお願いし、入口での検温、消毒など予防対策を徹底しました。

 

 

【取材日:2021年3月13日】※所属は取材当時