2021年2月26日(金)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。今回は、国立大学法人 和歌山大学クロスカル教育機構 教養・協働教育部門の秋山 演亮(あきやま ひろあき)教授を招き、「紀伊半島 電網化計画 ~生活の中に生きる宇宙開発と住民活動」について、お話しいただきました。

秋山先生

本学と和歌山大学は、2017年に締結した包括連携協定に基づき、両大学が有するサテライトにおいて、幅広い分野の学びを提供することを目的として両大学の研究者が入れ替わって登壇する公開講座を実施しています。3月17日(水)には、和歌山大学岸和田サテライトにて、本学の山手丈至教授が講演(リモート)を行います。

多くの人々にとって、遠い夢の世界と思われていた宇宙開発。しかし現代社会では、私たちの日常生活を支える重要なインフラとして活用が始まっています。今回の講演では、和歌山大学で取り組んでいる宇宙開発と連携したIoT(Internet of Things)が作り出す防災技術に関して、秋山先生よりお話いただきました。また住民の防災活動と結びついた現在の発展状況を紹介してくださいました。

アカデミックカフェの様子
2011年3月11日に発生した「東日本大震災」は、通信インフラにも甚大な被害を与えました。通信障害により救えた命も救えなかった事実が浮き彫りとなったことを受け、秋山先生たち宇宙開発・研究関係者の間では、災害発生後24時間以内でも通信手段がありえたはずだと認識。その通信技術とは、単三電池2本程度の電力で、宇宙上の衛星を介し「LoRaWAN(ローラワン)※」規格によりデータ送信するというもの。現在、同システムはヨーロッパで試験を重ねられています。

※LoRaWAN(ローラワン)…LPWA(省電力長距離通信)の一種。IoT向けの通信規格で世界的に広く利用されています。他のLPWAと比べ、通信キャリアに独占されておらず、通信量を無料で使用できる。

 

そんな中、秋山先生が中心メンバーとして所属する「和歌山大学 災害科学・レジリエンス共創センター」では「LoRaWAN」を使用した、防災/減災情報を収集するシステムに関する研究開発に2014年より着手。2019年には、和歌山県御坊市丸山区自主防災会からの依頼により、同システムを用いた水位計を設置し運用がスタート。現在では、和歌山市西山東地区でも運用されています。

秋山先生2
行政が設置する本格的な水位計は、1機数千万円以上の製作費が必要ですが、秋山先生が開発したものは10~20万円程度で製作が可能。データはLoRaWANを使って近くの基地局へ送信し、LINEやメールで誰でも入手できます。危険水位となる数値は地域住民が設定できるため、地域住民が自宅周辺の状況を把握し、避難など行動につなげるのに役立ちます。公的機関発表の水位とは異なり、住民が「身近に危険と感じる」ことができる避難情報です。

「この水位計を作れる業者さんを各都道府県で育て、地域防災の1つとして全国に広めていきたい。このLoraWANを使ったIoTは、河川や溜池水位などの防災、減災への活用の他にも、農業や漁業、罠の監視など多くの産業を支え、少子高齢化・人口減少にも対応できます」と秋山先生は話します。

 

また他の事例として、最近ニュースでも取り上げられた醍醐寺(京都市伏見区)について。秋山先生が技術顧問をされている同寺は、2023年に打ち上げ予定の人工衛星に寺の機能を持たせることをめざしています。打ち上げ後は、宇宙からの映像を見ながら法要を執り行う「宇宙法要」などを執り行う予定だといいます。一方で、国の取り組みにもお話が及び、準天頂衛星サービスを使用した、災害・危機管理通報サービス「災危通報」や衛星安否確認サービス「Q-ANPI」を紹介されました。

「私たち地方大学教員の仕事は、地元の人たちと話して『何が必要ですか?』ということをヒアリングし、理解しながら次に進むことが大切。地産地消による新しいSDGsの循環を地元の人たちとこれからも協力して一緒に作り出したい」と話された秋山先生。情報通信技術の拡充から地域活動の新たな可能性を感じた今回のアカデミックカフェ。IoTが作り出す世界を積極的に受け入れ、安心安全で便利な地域発展に寄与していきたいですね。

集合写真

 

秋山先生のおすすめ本
<秋山先生がアカデミックカフェに御寄贈された本>
※本編では紹介されていません

『トコトンやさしい電線・ケーブルの本』/日刊工業新聞社
著者:福田 遵
https://pub.nikkan.co.jp/books/detail/00003540

 

※今回のアカデミックカフェは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して、ソーシャルディスタンスを施した座席の配置を行い開催しました。参加者には、体調や生活に関するアンケート記入をお願いし、入口での検温、消毒など予防対策を徹底しました。

 

 

【取材日:2021年2月26日】※所属は取材当時