2021年3月26日(金)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは、大阪府立大学 大学院工学研究科の高橋 和(たかはし やすし)准教授。テーマは「光特性をデザインする ―微細加工の世界―」です。

高橋先生

今回は、情報処理や光通信システムの基盤技術として期待されており、ネットワークインフラ構築の原動力となっている「シリコンフォトニック」という技術や、先生ご自身の研究を中心に、お話しいただきました。

本題に入る前に、まずは光技術について。ラジオやテレビやスマートフォンの信号を送る電波、電子レンジで使われるマイクロ波、加熱に用いる赤外線、日焼けなどの紫外線、レントゲン写真に用いるエックス線、原子核から発生するガンマ線などは全て光の仲間。光技術は、私たちの暮らしに不可欠な存在です。

シリコンフォトニックとは、ひとことで言えば、シリコンを使った光技術のこと。半導体産業で利用される微細加工技術を用いて、シリコン基板上に発光素子や受光器、光変調器といった素子を集積する技術の研究と応用を追究し、スマート社会の実現に貢献する分野です。

光マップの写真
「フォトニック結晶」とは、屈折率が異なる物質を、光の波長と同程度の間隔で並べたナノ周期構造を持つ人工結晶のこと。光を内部に閉じ込めたり、侵入できなくなる現象が起こります(※)。高橋先生の研究チームはこのフォトニック結晶を利用することで、超小型、超省エネルギーの「シリコンラマンレーザー」を2019年、世界に先駆け開発しました。

シリコンは間接遷移型半導体。伝導バンドに励起された電子は、エネルギーを光ではなく熱として放出してしまうため、光りにくくてレーザーの光源としては不向きとされていた。そこで先生たちは、フォトニック結晶を用い、高Q値ナノ共振器を利用し光を微小空間に強く閉じ込め共振させ、光を外部に取り出すことで、レーザー発振を強めることができると発見。

アカデミックカフェの様子
これらの工夫により、ラマン効果という特殊な発光現象をレーザー発振に利用したシリコンラマンレーザーが完成しました。大きさは従来のシリコンレーザーの1万分の1以下、消費電力は2万分の1以下。将来的には、電気の代わりに光を使った高速光コンピューターなどへの応用が期待されています。先生たちの研究成果は全世界に発信され、イギリス科学誌「ネイチャー」にも掲載されました。

「光デバイスというのは小型化が難しい。しかしシリコンを使ったフォトニック結晶を用いると、これまでより巧みに扱えて、かなり小さい光デバイス開発が期待されています」と高橋先生は話します。

今回の講演は、他にもレーザーの原理や仕組み、日常生活における半導体レーザーの応用例、光技術を使用した宇宙産業における静電気事故防止に関する研究など、未知なる学びが凝縮。大学研究室の様子が動画で公開されるなど、カジュアルな話題も織り込まれた楽しい時間でした。世界から注目されている高橋先生の研究にこれからも目が離せません。

集合写真

●高橋先生の研究について、さらに詳しく知りたい方は下記ホームページをご覧ください。
高橋和研究室ホームページ
http://www2.pe.osakafu-u.ac.jp/pe9/index.html

モルフォ蝶の標本
(※)会場では、アマゾンや中南米などに生息するモルフォ蝶の標本が展示されました(写真)。この美しく輝く青色は色素ではなく、鱗粉表面に刻まれた微細な周期構造による構造色。光の干渉により青い成分のみが強く反射されるため、光沢のある青色が現れます。この構造に着目して、顔料や塗料、反射型ディスプレイなどへの応用研究が進められています。

 

 

<高橋先生がご紹介された本>
高橋先生のおすすめ本
○『フォトニック結晶 ―ナノ光デバイスを目指して―』/オーム社
Jean-Michel Lourtioz著、Henri Benisty著、Vincent Berger著、Jean-Michel Gerard著、Daniel Maystre著、Alexei Tchelnokov著、Dominique Pagnoux著、木村達也 訳
https://www.ohmsha.co.jp/book/9784274503795/

○『フォトニック結晶技術とその応用』/シーエムシー出版
著者:ルーシー&スティーヴン・ホーキング 翻訳:さくまゆみこ
https://www.kinokuniya.co.jp/f/dsg-01-9784882313373
※上記URLは販売サイトより

https://www.cmcbooks.co.jp/products/detail.php?product_id=7524
※上記URLは新たに刊行された普及版『フォトニック結晶技術の新展開』(監修:川上彰二郎)について

 

※今回のアカデミックカフェは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して、ソーシャルディスタンスを施した座席の配置を行い開催しました。参加者には、体調や生活に関するアンケート記入をお願いし、入口での検温、消毒など予防対策を徹底しました。

 

 

【取材日:2021年3月26日】※所属は取材当時