喜多村 直人さん(タキイ種苗株式会社 熊本研究農場)
2015年3月 大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科 博士前期課程 修了
大阪府立泉陽高等学校卒業

―現在のプロジェクトや役割、仕事内容を教えてください
私は2015年3月に生命環境科学研究科 応用生命科学専攻 博士前期課程を修了し、タキイ種苗株式会社 熊本研究農場に勤務しています。現在はブリーダーとしてレタスの品種改良を行っています。

皆さんが日々何気なく口にする野菜は、いくつもの産地をリレーすることで周年供給されています。そんな生活に無くてはならない野菜を取り巻く環境では、気象変動や病害の発生、消費・生活スタイルの変化等のたくさんの課題があります。このような野菜にまつわる生産・流通・消費の課題を品種改良で解決することがブリーダーの仕事です。

具体的には、担当する作物を圃場やハウスで栽培し、
① 目標に適った優良な系統や個体を選抜する。
② 選抜個体から採種を行う。
③ 目標に応じた交配を行う。
これを何年も繰り返し行い、品種を創り上げていきます。1つの品種が出来上がるまでには10年近くの年月を要することもあります。
また、生産現場の情報収集や新品種の推進などで産地に出向く機会もたくさんあります。

―(ご卒業された)学類・専攻を目指した理由
幼いころから両親に連れられて登山に出かけるなど自然に触れる機会に恵まれ、生物への興味を漠然と持っていました。そのため、大学進学時には生物系の学部を志望しました。
オープンキャンパスで初めて大阪府立大学に足を運んだ際、植物バイオサイエンス学科では講義や実験に加えて学内の教育研究フィールドでの実習があることを知り、魅力的に感じました。高3の夏から必死になって受験勉強に取り組んだことを覚えています。また家から近かったことも進学の決め手となりました(笑)

福岡県のレタス栽培

―実際に学んでみてどうだったか
入学当初は想像していたよりも分子生物学的な知識や技術の習得が多いなと思っていましたが、実際の農業の現場を知る機会にも恵まれました。
私の場合は3年次に経験した農業インターンシップが強く印象に残っています。インターンシップでは徳島県の野菜の大規模生産者に1週間程お邪魔しましたが、その真っ只中に運悪く台風が襲来し、作物が大きなダメージを受けました。強い風の吹く中必死になって台風対策を行ったにもかかわらず、傷んでしまったナスやキュウリを目の当たりにし、農業の難しさや大変さを実感しました。このときの経験から「大学で学んだ知識を活かして自然災害や環境の変化に対応できるモノ作りができないか」と考えたときに、品種改良という仕事に出会い、ご縁あって今に至っています。

―これまでのご経験が今の仕事に活かされていると感じることがあれば教えてください
私は植物育種繁殖学研究室でタバコ種間雑種の致死遺伝子に関する研究をしておりました。タバコというとネガティブなイメージを持たれる方もおられるかもしれませんが、ナス科の植物(トマト、ナス、ジャガイモ、ペチュニア等の仲間)のモデル植物として、トマトと並んで研究が進んでいる植物です。育種においては有用な形質(耐病性など)を栽培種に導入する目的で遠縁の野生種を利用することがあります。そういった時に栽培種と野生種を交配すると、種は採れるが雑種植物がうまく生育しないことがあります。こういった育種の障壁となる現象の原因遺伝子を見つけることが目的の研究です。担当していた研究では、原因遺伝子の特定を目的にDNAマーカーを用いた実験や遺伝様式の解明を行っていました。

実際の品種改良の過程でも、新しい病害への耐病性付与等を目的に接種試験や遺伝解析、DNAマーカーの開発等を研究チームとともに行うことがあります。扱っている植物の種類はタバコからレタスに替わりましたが、研究室で学んだ基礎知識は実際の業務においても活かされています。

また研究開発とはいえ、実際の農業と同じような作業も行います。夏の暑い時期に圃場準備をしたり、数千本の苗の定植を1日でこなす日もありますので、男子ソフトボール部での活動で培った体力も未だに役立っています。

―日々のお仕事の中で、大切にしていることがあれば教えてください
正確性を一番大切にしています。種苗会社が販売しているのは野菜そのものではなく、野菜の「タネ」です。蒔いてみないとどんな野菜が出来るかわからない「タネ」をお客様に手に取ってもらうためには、会社を信頼していただくことが最も大切です。
品種育成を行うときにはたくさんの品種や系統を扱い、栽培・選抜・採種することを何年も繰り返し行います。その長い過程のどこかでミスを起こしてしまうと、後々、種子生産や販売時に大きな問題となります。例えば、「タネを取り扱うときには2人で確認し、間違いないことをチェックする」等のルールを順守して、正確な仕事を行うことを日々心掛けています。

―現在、進路を考えている受験生にメッセージをお願いします
私の高校時代のように「何を学びたいか、どんな職業に就きたいか」漠然としている学生さんもたくさんおられるかと思います。進路を迷った時には「大学でどんなことが学べるのか、どんな学生生活が送れるのか」を是非調べてみてほしいと思います。想像以上にたくさんの学問の分野があること、多種多様な人が所属していることに刺激を受けることと思います。

大阪府立大学の良さは自由な校風で自分の興味や学習意欲次第でドンドン学びを深められるところにあると思います。たくさんの大学がある中で大阪府立大学に興味を持っていただき、選んでいただけたなら幸いです。

【寄稿:2021年8月10日】※所属は寄稿当時。

大阪公立大学 農学部