2021年8月20日(金)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは、竹井邦晴 大阪府立大学大学院 工学研究科 教授。テーマは「最先端技術で常時健康管理? ~安心・安全・快適な健康社会へ向けて」です。

竹井先生

ウェアラブルデバイスはご存知でしょうか? 腕や足、頭部など身体の一部に装着するコンピュータのことで、よく知られているのは、一般的にスマートウォッチと呼ばれる腕時計型です。内蔵センサーにより身体の動きや心拍数などの情報を取得でき、ジョギングなどの運動記録や健康管理などのために使用します。腕時計型のほかに、眼鏡型やヘッドホン型なども開発され、小型化・軽量化により違和感なく装着できるのが特徴です。センサーの小型化や計算の高速化により電子機器や情報処理の技術が著しく発展したことで実現することは多くありますが、計測できる健康情報には限りがあるのが現状です。

竹井先生2
そこで竹井先生たちの研究グループは、常に健康管理を行うことにより、未病の発見や予防医学への貢献を目標に「絆創膏(ばんそうこう)」のように柔らかい次世代センサーシートを開発しています。皮膚に貼ることで健康を常時見守り、「もう少し早く病院に行っていれば…」という問題が起こらない健康なスマート社会の実現をめざしています。今回の講演では、その取り組みについてお話くださいました。

「元気があれば何でもできる!」という言葉にもあるように、健康と幸福度には強い相関関係があります。健康な人は幸福度が高く、幸福度が高い人は健康な人が多いといわれています。人々がストレスの少ない生活を送ることで社会に活気があふれて幸福度が上がり、それにつれて健康度も上がっていく。このような「正のサイクル」を形成し、健康な社会を作っていくことが重要だと竹井先生は力説します。

しかし、ここで問題があります。過去に実施された日本における健康診断や人間ドックの受診率について、約30%の人が未受診であるとわかりました。未受診の理由について「高額負担できない」「時間が取れない」などが挙げられるなか、先生が着目したのは「面倒くさい」という理由です。受診のわずらわしさをなくし健康な社会を構築するため、先生たちが研究・開発を行っているのが、ウェアラブルデバイス。センサーや回路の完全フレキシブル化(柔軟性があるさま)により超軽量で、装着していることを感じずに健康管理してくれるデバイスの実現をめざしています。

全体の様子
メインとなる目的は、日常生活における健康管理。例えば利用者の健康状態が病院に常時送信されることにより、受診指示を受けることができたり、緊急時には救急車の手配も可能になります。常時見守ることで患者さんの安心を担保し、病気の早期発見や、重病化・孤独死の軽減や、通院による経費削減につながります。健康維持により、幸福度の高い生活が期待でき、幸福度の向上サイクルが生まれます。またこれらが実現すると、医師や看護師の負担軽減も期待できます。

現在開発中のウェアラブルデバイスは、従来のような形状ではありません。布やテープのように折り曲げることができて洋服のように柔らかいのが特徴で、材料には無機材料を使用しています。「柔らかい」という特性を考慮するなら、通常は有機材料で開発しますが、不安定で空気中に触れると劣化していくのが難点です。一方で無機材料は、高性能で信頼性と安定性を誇ります。そしてこの無機材料を「絆創膏」のように柔らかくするために、ナノ・マイクロ構造にし、それを転写することでデバイスとして機能する仕組みです。最近の研究成果では、皮膚温度・心電・人の活動量・紫外線量の同時計測が可能となりました。

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「このデバイスを利用するには、素肌に直接貼り付けることが必須です。だから『これを貼りたい』と思わせる結果が伴わないと実用化は困難だと思っています。この課題解決に向け、現在は様々なバイタルデータの計測及び解析を行っています。そして将来的には日常で健康管理することが当たり前となるような行動変容へと人々を導き、その上で健康かつ幸せな社会作りに貢献したい」と竹井先生は意気込みます。

講演の終盤では、会場のプロジェクターにグラフが上下に動く様子が映し出されました。その横には軽くジャンプする先生の姿が…。先生の胸元には、開発中のウェアラブルデバイスが貼られており、そのデータがパソコンに送信されていたのです。その光景に注目していた参加者の皆さんからは、デバイスへの質問が多く寄せられました。

コロナ禍が原因で悲しいニュースが跡を絶たない日常に、明るい兆しを見せてくれた今回のアカデミックカフェ。竹井先生たちの研究が実現し、私たちが気軽に利用できる日が早く訪れてほしいと願います。

集合写真

 

 

<竹井先生ご寄贈本>寄贈本
『Flexible and Stretchable Medical Devices』  出版社:Wiley 編集:竹井邦晴

 

 

※アカデミックカフェは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して、ソーシャルディスタンスを施した座席の配置を行い開催しました。参加者には、体調や生活に関するアンケート記入をお願いし、入口での検温・消毒など予防対策を徹底しました。

 

【取材日:2021年8月20日】※所属は取材当時