2022年1月26日(水)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは、大阪府立大学 研究推進機構 橋爪 紳也特別教授。テーマは、「生きた建築ミュージアム」と建築ミニチュアの世界です。

歴史的に評価を得た名建築や文化財に指定された建物だけではなく、わが街にある建築を、もっと身近に楽しんでほしい――そういう思いから「生きた建築」を提唱する橋爪先生。日本最大級の建築イベントにまで認知された『生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪』を、実行委員長として立ち上げるまでの経緯などについてお話くださいました。

『生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪』(以下、イケフェス大阪)は、「生きた建築」を通した大阪の魅力の創造・発信をめざす「生きた建築ミュージアム事業」の一環として実施される、日本最大級の建築一斉特別公開イベントです。毎年秋の2日間、厳選された建築物の無料公開と各種イベントが楽しめます。
「生きた建築」とは、ある時代の歴史・文化、市民の暮らしぶりといった都市の営みの証であり、さまざまな形で変化・発展しながら、今も生き生きとその魅力を物語る建築物などを指す概念です。

橋爪先生は大阪市中央区島之内に生まれ育ち、船場、心斎橋などの界隈に並び立つ建物に子どもの頃から愛着をもっていました。しかし時代の移り変わりにより、壊される建物も少なくありません。「自分たちが思い入れのある建物は大切。そう思う仲間たちを増やして、わが町の建築物を楽しみたい」と同イベント立ち上げ時より抱いている思いを語ります。

 

まず、初期の取り組みを紹介します。2013年度から2015年度までは、「生きた建築ミュージアム事業」として大阪市が主体となって実施しました。事業構成は、時代や建物のタイプによって選ばれた「大阪セレクション」の選定と再生整備支援(3年間の時限制度)。その中で、イケフェス大阪の前身となる建物公開イベントを、建物所有者をはじめとする民間企業、大学などとの協力・連携の元で、実証実験として2013年度に開催。大阪セレクションで選ばれた50の建築物から、公開物件としてさらに10軒に絞り込み、コンパクトな形で公開しました。雑居ビルやオフィスビル、銀行、一般的な住宅、飲み屋など建物の形はさまざまです。

「例えば、ある年代のミナミの雑居ビルの中で1つだけ選ぶとしたら、まずは味園ユニバースビルだよね、みたいな議論を積み重ねて選びました」。

2016年度以降は、民間企業や専門家、大阪市などからなる「生きた建築ミュージアム大阪実行委員会」の主催となり、イベント開催の他、建築を通した新しい大阪の都市の創造と発信を目的に、あらゆる活動を展開しています。

イケフェス大阪では、内覧や貴重な資料の展示のほか、コンサートやシンポジウムなど魅力的なプログラムが各建物で開催されますが、特に人気なのは、建物のオーナー自らが来場者を案内してくれるツアーです。例えば、通天閣だと会長や社長自らがガイドを務め、建物にまつわる思い出話を聞かせてくれるという貴重な経験ができます。

 

「イケフェス大阪だから開催できる特別イベントも多数あります。例えば、日本銀行大阪支店は普段は入れないバルコニーの公開に協力してくれています。これは、過去に行われた御堂筋パレードの時にバルコニーが開放されていたことを記憶していて、日本銀行さんにお願いしたのがきっかけです。」と当時を振り返ります。
2014年度の開催ではのべ1万人だった来場者数が、2019年度はのべ5万人まで増えました。日本最大級の建築イベントとして定着し、広く内外に大阪の新しい魅力に触れる機会として認知されています。

イケフェス大阪の立ち上げ時に先生たちが参考にしたのが、イギリスで開催されている「OPEN HOUSE LONDON(オープン・ハウス・ロンドン)」です。毎年秋の2日間限定でオフィスビル、個人住宅、政府の重要施設など800を超える建物を無料開放。内覧はもちろん、建築家や建物オーナーによる解説イベントなども開催される一大イベントです。

2019年、このロンドンを中心とした建築公開イベントのネットワーク「OPEN HOUSE WORLDWIDE(オープン・ハウス・ワールドワイド)」に、イケフェス大阪が加盟承認されました。過去の開催実績が認められたもので、もちろん日本では初めての加盟となります。それに伴い、英語名称を「OPEN HOUSE OSAKA」に変更。世界にも認められるイベントとなった証です。

「イベントの収益はガイドブックが中心。建物を公開していただく企業やビルのオーナー、社員の皆さんも、みんなが協力して、建築を楽しむ祭りに参加していただいています。大阪らしいホスピタリティ、ボランティア精神によって成り立っている素晴らしいイベントだと自負しています。私たちは観光客を増やすために始めたものではありません。“子どもからお年寄りまで、自分たちの町の大切なものをもう一度見直していただく”というところにミッションがあります。イベント時にガイドブック片手に町を散策する人たちを見るのが何よりもうれしいです」と先生は目を細めます。

コロナ禍の影響もあり、2020年度、2021年度はオンライン開催を余儀なくされました。今年こそはリアルでの開催を、先生はもとよりファンも熱望しています。なおイケフェス大阪の公式ホームページからは過去開催の様子を見ることができるので、興味のある方はそちらをどうぞ。

講義の終盤には、橋爪先生が収集する1000種類を超える世界の建築ミニチュアの楽しみ方についてお話いただきました。先生は、建築家の遠藤秀平氏と共に建築ミニチュアの展示会を各地で開催しており、コレクターとしても名を知られています。講義では過去の展示会の様子を振り返り、建築ミニチュアへの思いを熱く語っていただきました。講演当日の会場では先生の貴重なコレクションの一部が展示され、参加者の皆さんも興味深く見学されていましたよ。写真からその魅力を感じてください!

※アカデミックカフェは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して、ソーシャルディスタンスを施した座席の配置を行い開催しました。参加者には、体調や生活に関するアンケート記入をお願いし、入口での検温・消毒など予防対策を徹底しました。

<ご参考>
●生きた建築ミュージアムフェスティバル大阪 公式ホームページ
https://ikenchiku.jp/

<橋爪先生がご紹介された本>
●『みんなの建築ミニチュア 子供も大人も楽しめる 世界の建造物1000』/芸術新聞社
橋爪紳也・遠藤秀平
http://www.gei-shin.co.jp/books/ISBN978-4-87586-507-0.html
●『大阪マラソンの挑戦』/創文企画
橋爪紳也・杉本厚夫
https://www.soubun-kikaku.co.jp/sports/74.shtml

 

【取材日:2022年1月26日】※所属は取材当時