インタビュー「大阪府立大学の国際交流」 グローバル化への対応、学生の海外留学支援等について
〜杉村延広特命副学長(国際交流渉外担当)にインタビュー~

◆大阪府立大学が進める国際化について

―大阪府立大学が進めている国際化の全体像についてご説明いただけますでしょうか。

杉村延広特命副学長

杉村延広 特命副学長(国際交流渉外担当)

杉村 本学の国際化には5つの柱があります。

  1. アジアを中心としたバラエティに富んだ海外派遣プログラム
  2. グローバル人材育成のための様々な支援制度
  3. ゲストプロフェッサープログラム事業
  4. 副専攻科目
  5. 国際交流会館I-wingなかもず

です。

―2017年度(12月時点) の数字ですが、年間で約230名の学生が海外留学・海外派遣をしているとお聞きしました。海外体験の重要性についてお話しいただけますか。

杉村 海外体験を、学士課程の早い段階にしておくことで、その後の選択肢が大きく広がると思います。長期の交換留学にチャレンジする者もあれば、短期プログラムに数多く参加する者、海外の大学院に進学する者、あるいは本学の大学院に進学後、海外の研究室に留学する者もあり、留学スタイルは様々です。

本学は、工学、生命環境科学、理学、経済学、人間社会システム科学、看護学、総合リハビリテーション学と、幅広い分野を学ぶことのできる総合大学で、教育のみならず、国内外の大学・研究機関との共同研究活動にも力を入れています。大学院生は海外派遣や国際学会に参加するチャンスが多いので、学生の海外派遣を担当する部署である国際交流グループは、現在特に、学士課程の学生の海外派遣支援にも力を入れています。

学生たちには「広く世界を見るために、チャレンジできることは何でもやってみる」、そんな姿勢で海外プログラムに参加してほしいと考えています。国際交流グループ

◆アジアを中心とするバラエティに富んだ海外派遣プログラムを展開

―大阪府立大学の学生の海外留学・派遣の特色をご説明いただけますか。

杉村 大阪府立大学には様々な海外派遣プログラムがあります。まず「語学研修」が挙げられます。夏休み、春休み期間中には、毎年この研修を実施しており、学士課程1~2年を中心に多くの学生が参加しています。語学研修の何割かは、その後に交換留学や、別の海外プログラムに参加するなど、継続的に海外留学にチャレンジしています。

本学には、世界39の国・地域の168大学・研究機関との「協定大学」ネットワークがありますが、特にASEANやアジアでのプログラムが豊富です。学域・学類ごとに独自に実施するプログラムもあり、いずれも他では学ぶことができない内容になっています。

事例を紹介しますと、各学域では毎年夏休み、春休み期間中に、表1のような海外プログラムを実施しており、参加学生は現地視察に加えて、大学生同士のグループワークや英語でのディスカッションを通し、文化や考え方の違いを学んでいます。他の大学では真似のできない国際交流を展開していると自負しています。海外プログラムは協定校との信頼関係をベースに行っています。参加するのは自立した大学生ですので、基本的に本学教員が引率して張り付くということはせずに、現地の協定校のスタッフにお任せしています。

表1 主な海外プログラム(全プログラムより一部抜粋)
主な海外プログラム一覧

大阪府立大学の学生がASEANに目を向ける背景には、本学が積極的にこれらのアジア諸国からの留学生を受け入れていることもあげられます。例えば「さくらサイエンスプラン(JST事業)」等により、2017年度は150名以上のASEANの大学生・教員を短期間受け入れ、研究室等で交流を行っています。本学は海外の大学と双方向の学生交流を進めているため、海外短期プログラムに参加した学生が、現地で交流した学生たちをキャンパスに迎えて交流することも多いのです。

ASEANへの派遣プログラム

これらASEAN諸国の発展は目覚しいものがあり、今や日本がこの地域から学ぶことが多くなってきています。これから学生たちが社会で働く際にも、ASEAN諸国と関わる機会も多いことでしょう。そのような中、大学生のうちに現地の学生と共に学び、彼らの考え方や価値観を学ぶということには非常に大きな意義があります。世界の英語話者の8割はノンネイティブといわれるなか、様々な国で使われる英語を学ぶことができるというのも、ASEAN諸国への留学の魅力のひとつです。

―留学をした学生の変化や成長を見ておられて、どのような感想をお持ちですか。

杉村 やはり海外留学に行って帰ってくると全然違います。海外インターンシップとかスタディツアーの場合、自分の取り組んでいる学びのテーマをプレゼンテーションし、意見や情報を交換するのが目的です。いわば「対等」に話ができるようになって帰ってきます。 

◆グローバル人材育成のための様々な支援制度が充実しています

―グローバル人材育成のための様々な支援制度がありますね。

杉村 「留学はしたいけれど、海外留学にはお金がかかるし…」というのが、国際交流グループで受ける相談で一番多いのです。確かに、個人で私費留学するとかなりの費用負担です。本学は、海外留学に興味があるという学生を経済面、ソフト面でサポートする体制を整えています。

その経済的支援制度をいくつか紹介します。本学では従来から、1ヶ月~1年間の交換留学をする学生や短期研究留学をする大学院生には、準備金10万円と渡航旅費実費(上限15万円) を支給する制度を実施してきました。それに加えて2017年度には新たに、全学生対象の海外プログラムへの参加者に旅費を含む参加費用の約20%を奨励金として補助する「海外留学チャレンジ奨励金制度」を創りました。

説明会で学生が体験談を語る

また、国際学会に参加する学生に、それに加えて大学の研究室訪問などの活動をプラスすることを奨励する「国際学会PLUS奨励金制度」も創設し、学生に海外での活動フィールドを広げるよう促しています。

いずれも、海外留学の最初のステップである短期プログラムへの参加を促すことを目的としています。支援を受ける学生は「海外留学レポート」を通じて自分たちの体験を報告し、大学Webサイトで公開しています。また、帰国後は積極的に国際交流活動や海外からの留学生サポートなどの活動に参加しています。また「トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム」の応募者の中で、渡航先がASEAN・アジア地域である学生を対象とした奨学金制度「翔けFUDAI! ASEAN留学」「認定留学制度」を用意するなど、独自の奨学金制度も整備しています。

ソフト面についてお話ししますと、中百舌鳥キャンパスの国際交流会館“ I-wingなかもず” で海外留学プログラムのガイダンスや、先輩学生の体験報告会、留学フェアなどのイベントのほか、留学に関係する奨学金のガイダンスも頻繁に行っています。また、奨学金に応募する学生については、国際交流グループで申請書類の作成から面接対策までしっかりとサポートしています。教職員および学生が協力して留学希望者をサポートするのは、本学の特徴の一つであるといえます。

―お話をうかがうと、海外派遣によるグローバル人材の育成で、ここ数年特色ある取り組みを次々と進めています。辻学長のイニシアティブが発揮されていますね。

杉村 留学生との交流や国際交流が日常的に体験できるキャンパス、海外の大学の教授陣から英語による専門講義を受けられる学習環境、ASEANを中心とした多様な海外派遣プログラム、そして海外留学を支援するサポート体制など、学生が広く世界を見て学ぶことを奨励し、グローバル人材の育成をめざしています。

◆海外のゲストプロフェッサーによる専門授業を、英語で受講できるのも特色

―ゲストプロフェッサーの事業も特色がありますね。

杉村 海外の大学教員・研究者をゲストプロフェッサー(GP) として招へいし、約1か月程度、英語による専門講義やセミナー、学生指導を行います。2011年度から7年間で延べ90人を招いています。学生も知っている著名な研究者もおられ、魅力的なプログラムの一つであると思います。

ゲストプロフェッサーによる講義の様子

アメリカ、イギリス、オーストラリア、フランス、マレーシア、インド、バングラデシュ、台湾、香港など、GPの所属国は様々ですが、英語で専門分野の講義を行っていただきます。工学、生命環境科学、農学、獣医学、化学、物理学、経済学、教育学、看護学など本学の学域に合わせた専門分野です。GPの所属大学の紹介を行うことで、学生たちの海外留学へのモチベーションも高まります。オフィスアワーには、学生たちがGPを訪問し、研究についてのアドバイスを受けることもできます。キャンパス内のカフェテリアでは、昼休みにGPと学生たちが英語で談笑する光景もみられます。

―英語による専門分野の授業は日本人学生にとってはハードルが高くありませんか。

杉村 専門分野の英語授業なので、すべてを理解することは難しいのですが、受講後の感想を尋ねると、「専門分野を英語で学ぶことができたのでよかった」「もっと英語力を向上させたい」「海外の大学で学んでみたいと思うようになった」などとの声が返ってきます。この制度が海外に目を向ける動機づけになっていることがうかがえます。

―招へいが所属大学への留学につながったという具体事例は。

杉村 これまでに、テキサス大学オースチン校(アメリカ)、サラゴサ大学(スペイン)、オリレアン大学(フランス) などへ、計7名が留学を実現しており、招へいがきっかけで大学間の協定の締結、大学院生のダブルディグリープログラムの実施に至ったケースもあります。今後も、学生に専門科目の授業を英語で受講する機会と、海外の研究者との接点をもつ機会を提供し、グローバルな学習環境を作っていきたいと考えています。

◆学士課程では副専攻科目などで、国際化・グローバル化に対応しています

―副専攻科目など、国際化やグローバル化に対応した学びについて紹介して下さい。

杉村 本学の学士課程では、主専攻のほかに、副専攻を選択することができます。なかでもフランス語圏の大学院や大学院ダブルディグリー(2大学での学位取得) プログラムへの進学を視野に入れた「DDCフランス語コミュニケーション副専攻」と、海外インターンシップへの参加と演習科目や異文化交流に関する科目の修得により与えられる「グローバルコミュニケーション副専攻」は、外国語によるコミュニケーションおよび異文化交流に対して興味をもつ学生のモチベーションを高めています。

科目の「英語教育」では、すべての学生が2年次にAcademic EnglishⅢおよびⅣを必修として受講します。これらの科目は、原則として英語をネイティブ言語とする教員が担当し、学生がアカデミック・ライティングとプレゼンテーション力を身につけることを目的としています。英語の4技能のうち、高校までに身につけた英語の読解と作文能力に基づいて、英語によるプレゼンテーションとコミュニケーションの能力を発展させることができるのです。

◆外国人留学生との交流や国際交流が日常的に体験できるキャンパスをめざして

―“I-wingなかもず” の紹介をお願いします。

国際交流会館I-wingなかもずの外観

杉村 「海外留学したい」「留学生の友人がほしい」など、学生が国際交流に興味をもつ動機は様々です。そんな学生のニーズに応えるため、2015年4月に“ 国際交流会館I-wingなかもず” をオープンさせました。“ キャンパスにいながら思い切り異文化体験ができる” がキャッチフレーズで、宿舎エリア、交流エリア、サポートエリアからなる施設です。

宿舎エリアでは留学生と日本人学生が生活し(全80室/4室で1ユニット)、海外から招へいするゲスト教員も滞在しています。

同じ建物にある広々とした交流エリア“ グローバルコモンズ” では国際交流フォーラムをはじめEnglish Cafe、海外ゲストによる講演会、海外留学説明会、留学生のための日本語講座、留学生との交流イベントなど、常時何かの国際プログラムが開催されています。国際交流グループの事務所では、海外留学に関する相談も受け付けています。

交流エリアでの1シーン

宿舎で生活する留学生の国籍は様々で、建物の中ではいつも様々な外国語が飛び交っています。アメリカ、フランス、ドイツ、ノルウェー、ベトナム、インドネシア、バングラデシュ、タイ、中国、韓国、台湾など世界各地から集まる学生たちとのコミュニケーションの言語は、時には日本語、時には英語、さらにはそれ以外の言語のこともあります。

現在、59名の留学生と13名の日本人の学生が共同生活をしています。日本人の学生は「レジデントサポーター」と呼ばれ、共同生活を通して、世界には多様な文化や宗教があること、自分たちがもっと日本のことを学ぶ必要があること、共通言語として英語スキルが必要であることなど、様々な学びと発見をしています。

交流エリアは、寮生以外の学生たちも自由に利用できますので、ロビーラウンジで留学生とのランチやポットラックパーティー(各国料理の持ち寄り会)、季節ごとの行事(餅つきや流しそうめん等) に参加し、交流を深めることができます。

これから海外留学をめざす学生も、留学経験のある学生も、まずは国際交流を始めてみようという学生も、ここでの交流体験を通して世界に大きく翔(はばた)いてほしいという願いが“I-wingなかもず” というネーミングには込められています。大阪府立大学の国際交流の拠点、情報発信基地として成長しつつあります。

―中百舌鳥キャンパスを訪れると外国人の学生と日本人の学生が談笑している光景がよく見られます。

杉村 現在、大阪府立大学には、約300名の留学生が学んでいます。中国に次いで、フランスの学生も多く在籍しています。大阪府が姉妹県提携を結んでいるフランス・ヴァルドワーズ県には本学の協定校が多くあるのです。留学生の中にはダブルディグリープログラムで本学大学院の博士後期課程に進学する学生もいます。“I-wingなかもず” をさらに充実させて、留学生と一緒にいることが普通となるようなキャンパス空間をつくりあげていき、グローバル化の拠点となるよう取り組んでいきたいと考えています。

 

【略 歴】
杉村延広(すぎむら のぶひろ)
神戸大学大学院工学研究科修士課程修了。工学博士。

特命副学長( 国際交流渉外担当)(2年目)、現代システム科学域マネジメント学類長(1年目)。現代システム科学域 マネジメント学類教授。大好きなことはクラシックカーとそのレース観戦。

【取材日:2017年11月28日】※所属は取材当時。