2020年2月12日(水)、I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは大阪府立大学人間社会システム科学研究科の中村 治(なかむらおさむ)教授。テーマは「小学校卒業写真で見る服装・風俗の変化」です。
今回のアカデミックカフェは、大阪公立大学共同出版会との共催。同出版会の八木理事長によるあいさつの後、中村先生による講演が始まりました。明治から戦後にかけて撮影された大阪・京都の小学校卒業写真をプロジェクターで投影し、服装・風俗の変化を時代順に解説していきます。
大阪で撮影された卒業写真で最も古いものは明治20年代末。服装に注目すると、女子生徒は着物、男子生徒は着物の中に学生服着用の人がいるのが特徴です。京都の卒業写真は明治21年から。服装の傾向は大阪と同様で、明治26年以降、学生服を着る男子生徒が特に増加します。男子生徒たちが兵隊に憧れて学生服を好んで着用したというのが先生の考え。実際、日露戦争が勃発した明治37年の写真では、ほとんどの男子生徒が学生服を着用しています。
着物だった女子生徒の服装に変化が見られるのは明治34、5年頃。政府の富国強兵策により体育が科目として導入されたことがきっかけで、袴を履く人が増加。明治37年頃になると洋服を着る女子生徒もちらほら。また大正期になると、着物の模様の主流が縦縞から絣(かすり)に変わります。昭和になると「家で作れる洋服」としてエプロンを着用する生徒もいます。
髪型にも変化が見られます。明治期のスタンダードだった束髪から、髪を降ろして耳を隠した髪型や、髪を高く盛り上げる髪型、センターや七三などに分ける髪型などが、明治後期から大正期の女子生徒に流行。また昭和初期には三つ編みやおかっぱの生徒が見られます。
「いつの時代も子どもたちは流行に敏感です。一年ごとに撮影される卒業写真をこうして並べて見ると、服装や髪型、生徒の男女比、地域の風俗の変化などについていろいろ気づくことがあります」と先生は話します。
参加者の皆さんを巻き込んで盛り上がった話題の一つは、明治期から大正初期の卒業写真に写る一部の人たちに見られるある「ポーズ」。写真撮影時に正面を向かず、あえて横や斜めを向いたままの人が見られるのです。それはなぜでしょう? 「ポーズを決めるため」「魂を抜かれないように、あえて視線を外した」など、参加者からはさまざまな考えが発表されました。このように仮説を立てて、検証していくのも、小学校卒業写真を見る面白さと言えます。先生の見解は「偉そうに見せるため」でした。ちなみにアカデミックカフェでは最後に記念撮影を行っているのですが、今回の写真にぜひご注目を!
次第に戦争色が濃くなる昭和期。国民服やもんぺ姿で撮影された人が多くなり、戦時中の地域の様子も垣間見ることができます。戦後になると、大人の女性にも洋装化が進み、髪型も服装も自分の好みのスタイルで自己アピールするようになりました。
「卒業写真は、明治時代には撮影されていないことが多く、撮影されるようになっても、保存されていることは少なく、戦中・戦後の混乱期には撮影されていないことも多くありました。もしご家庭に古い卒業写真があれば、それは学校・地域・家族の宝です。そういう写真があれば、私に教えてください。全国どこへでもうかがいます」と笑う中村先生。卒業写真の重要性を説いてくださいました。
過去の写真から疑問に思う部分を掘り下げて、仮設をたて、検証していく面白さを感じた今回のアカデミックカフェ。写真に残すことの大切さを改めて感じた時間でもありました。あなたも昔の卒業写真をご覧になってみては? 新しい発見があるかもしれませんよ!
<先生ご推薦の本>
『あのころの阿倍野』(大阪公立大学共同出版会/中村治 著。2014年)
http://www.omup.jp/modules/tinyd1/index.php?id=133&easiestml_lang=ja
『洛北一乗寺』(大阪公立大学共同出版会/中村治 著。2014年)
http://www.omup.jp/modules/tinyd1/index.php?id=124
『洛北静原』(大阪公立大学共同出版会/中村治 著。2014年)
http://www.omup.jp/modules/tinyd1/index.php?id=130
『洛北上高野・山端』(大阪公立大学共同出版会/中村治 著。2018年)
http://www.omup.jp/modules/tinyd1/index.php?id=205
『洛北修学院』(大阪公立大学共同出版会/中村治 著。2015年)
http://www.omup.jp/modules/tinyd1/index.php?id=151
『京都洛北の近代』(大阪公立大学共同出版会/中村治 著。2012年)
http://www.omup.jp/modules/tinyd1/index.php?id=98
【取材日:2020年2月12日】 ※所属は取材当時。