2021年12月18日(土)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは、大阪府立大学大学院 生命環境科学研究科の東條 元昭教授。テーマは「植物医師として考える 食料生産と環境維持」です。

東條先生

皆さんは、人や動物と同じように植物も病気にかかることを知っていますか? 新型コロナウイルス感染症のように、植物もカビやウイルスなどさまざまな病原体の感染リスクにさらされています。植物を育てることを趣味にしている方ならご存知ですよね。

技術士(植物保護)・植物医師でもある東條先生は、計13回にも及ぶ北極圏での調査などを通じて、各地の希少な植物寄生性菌類の新種を発見する一方で、地元の大阪で植物病害を抑制する堆肥をミミズコンポスト化する新技術特許を取得するなど、幅広い研究活動を行っています。その中で、植物病害における食料損失の現状を海外で目の当たりにし、何とか解決策を講じたいと調査・研究を続けています。

アカデミックカフェの様子

気候変動、高齢化、国際物流の増加などの現代社会の問題は、農作物や樹木の病害虫の発生に大きな影響をもたらしています。植物病害の影響により世界中で毎年およそ10億人分の食料が失われており、害虫や雑草が原因であるものを含めるとその数は約30億人分にも達します。現在、把握されている植物病の数は1万2千程度。そのうち問題視されているものはおよそ100種存在します。先進国では、除草剤や殺虫剤、殺菌剤などを散布し病気を抑えているため、私たちは飢えずに維持できていますが、病気の数は増加傾向にあるのが現状です。途上国では費用が理由で農薬があまり使われていません。

「植物病害における経済的被害を抑えるには、発病してからの拡大速度をいかに低くするかがポイントです。手段としては、農薬の適切な使用や、病気や害虫を抑えるために微生物とその餌である有機質を使って土づくりを行うこと。これらに集約されます」と東條先生は話します。

東條先生2

植物に病気を起こす植物病原体は、ピシウム菌や疫病菌などの卵菌類や、フザリウム菌やオルピディウム菌などの真菌類などがあり、この2種類が全体の8割を占めています。植物病害の防除については、東條先生の研究室が特許登録した「非病原性微生物を利用した植物病害の防除」「ミミズ菌と菌寄生菌による病害抑制」の内容を中心に説明されました。

続いてGMOsの仕組みについて。GMOsとは、種の異なる生物の核酸を人為的に加工、導入した「遺伝子組み換え植物」のこと。この例として挙げられたのが、根頭がんしゅ病(植物の根や地下部の幹にコブを形成し、最終的には植物の衰弱や枯死をまねく病気)の遺伝子の代わりに、除草剤耐性や殺虫剤の遺伝子を組み込む技術です。この技術は1980年代に発達し、急速に市場化。私たちの身の回りにあるナタネ、ダイズ、トウモロコシ、ワタは、除草剤耐性や殺虫剤遺伝子を持つ遺伝子組み換え作物です。GMOsに対しては、規模が多ければ大きいほど有利で安価に作物が作れるため、南北アメリカ、オーストラリア、中国などでは積極的に栽培されていますが、欧州の多くは消極的な状況です。

東條先生3

「植物医師としての立場で考えると、気候変動や貿易自由化が進む中で食料生産を脅かす植物病原菌対策がより重要になってきます。また例えば、遺伝子組み換え作物が植物病原菌を利用して作られているという事実は意外と知られていません。植物病原菌との共存が今後のポイントですね」と東條先生は力説します。

講演終了後は質疑応答の時間を設け、参加者の皆さんからの疑問に丁寧に向き合った東條先生。「病原体を全て死滅させる方法は?」との質問には「死滅させる方法はありますが、やらない方が良い。病原体を全て死滅させると、将来的に何らかの形で人間に跳ね返ってきます」とお話されました。自然環境を支えているのは植物の力です。自然から恵みを受けている私たちにとって、自然や生きものとの共生は、永遠の命題であると改めて考えさせられました。

集合写真

 

ご紹介本

<東條先生がご紹介された本>
『植物病理学の基礎』/農文協
夏秋啓子 他(編著)
https://shop.ruralnet.or.jp/b_no=01_54016186/

『北守将軍と三人兄弟の医者』/ミキハウス
宮沢賢治・作、スズキコージ・絵
※高校生の頃から宮沢賢治の童話が大好きだった東條先生。この作品に登場する植物医が好きで、5年がかりで植物医師の資格を取得したそうです。
https://www.mikihouse.co.jp/products/17-1147-382

 

※アカデミックカフェは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して、ソーシャルディスタンスを施した座席の配置を行い開催しました。参加者には、体調や生活に関するアンケート記入をお願いし、入口での検温・消毒など予防対策を徹底しました

【取材日:2021年12月18日】※所属は取材当時