「大阪府立大学 生命環境科学域附属 獣医臨床センター」は、動物の先端医療を行うためにあらゆる高度診断機器、先端的治療装置を導入し、1日に25~30の動物を診療しています。街なかの動物病院など(一次診療施設)でペット動物たちの病気の原因が特定できない場合、または治療したものの回復しない、そういった場合の飼い主にとって「最後の砦」といえる存在です。
獣医療における地域中核として大切な役割を担うこの拠点の特徴や現状などについて、勤務する獣医師の先生方にお話をお伺いし、また、鍋谷知代獣医師には仕事への想いなどについてお話いただきました。
●診療にいたる流れ「獣医臨床センターってどんなとこ?!」
初めて訪れる病院は、飼い主さんにとっても動物たちにとっても不安が多いはず。ここでは同センターでの診療までの流れを紹介します。
今回のモデル:みかんさん(紀州犬 雌 9歳)
持病は皮膚炎と腎臓結石です。
1、まずは診療受付でみかんさんと一緒に受付。カルテを受け取り、診察室がある2Fに上がります。
2、名前を呼ばれるまで、待合ロビーでおとなしく待ちます。
3、診察室に入ると、まずは問診から。「今日はどうされましたか?」
4、いよいよ診察開始。「大丈夫、大丈夫~」と、怖がるみかんさんをなだめる鍋谷獣医師。
5、飼い主さんと一緒に診察後のお話を聞きます。
6、薬を処方してもらっておしまい。「やっと帰れる~♪」
●先生方にお話を伺いました!
――こちらのセンターについて、特色や役割について教えてください。
鍋谷 最大の特徴はやはり二次病院というところです。一次病院で病気の原因が特定できない場合、あるいは治療したけどうまくいってない。そういう方にとって「最後の砦」になれれば、と話しています。「ここでわからなければ仕方ない」と言ってもらえるようなところでありたいと思っています。
――飼い主さんに身近な一次診療施設である動物病院さんとの連携。どんな形で進められていますか。
鍋谷 基本的には一次診療施設から紹介状をいただいています。それを受けて私たちが診察をさせていただきます。そして手術を含めた診察結果などを、報告書やお電話という形で一次病院にお返ししています。例えば、センターで手術をされた場合は、手術後にその動物たちを一次病院にお返しし、その後の経過をお互いに見させていただくという形です。内科であれば、基本的にセンターで診断をさせていただいて、治療をこちらでされるのか、それともご紹介いただいた病院に戻られるのか相談し、戻られるのであれば連携して治療を進めて行きます。
――最初から、こちらに直接来られる飼い主さんはいらっしゃらないということですか。
鳩谷 基本的にはかかりつけの病院を受診していただいた後に紹介状をいただいてから,こちらで受け入れます。直接来て診て欲しいという形では対応していないのです。
――そういう事例もあるのでしょうか。
鳩谷 ごくまれにあるのですが、その場合は空いている時間をご予約いただくことになります。ご希望の日時に予約が埋まっていて、診ることができないということもありますので、まずはかかりつけの病院に行っていただくということになります。
多くの病気は、かかりつけの病院とこちらで連携してみていく必要があります。遠方から一度来ただけでは、診断できないことや病気が治らないこともあります。そのため、まずかかりつけの病院を持ってもらうのが基本です。
――こちらに来られるということは、ペットや飼い主さんにとっても、非常に危険な状態であることも多いと思うのですが、その診療に際して気をつけておられることはありますか?
鍋谷 基本的には迅速に対応・診断することだと思います。ただ、100%それにお答えできないことも当然あります。こちらが混み合っていて、速やかに診たくてもすぐにはお受けできないということがあります。できるだけ早く受け入れて、早めに診断をして、治療に進んで行くこと。その点はセンターの獣医師全員が心がけています。
自分が特に心がけていることは、センターにいらっしゃる時の飼い主さんは非常にナーバスになっておられることが多いので、安心していただくためにしっかりと会話をさせていただきます。動物の見た目だけで、あるいは紹介状のみで判断してしまうと治療方針を取り違えてしまう恐れがありますので、なるべくこちらでもう一度検査をさせていただき、自分たちの目で判断しています。
――二次診療施設だから抱える、難しさや課題などがあれば教えてください。
鳩谷 先ほども申し上げましたが、飼い主さんが非常に不安に思って受診されることが多いので、飼い主さんの不安をなるべく取り除いてあげなければならないこと。これが本当に難しく、私たちにとって非常に大事な作業かなと思うのです。
ずっと大学で二次診療をしていて感じているのは、全ての病気が診断できるわけではないし、全ての病気が治せるわけでもないということです。多くの飼い主さんは大学病院なら全部治るだろうと思われている方も結構多いのですが、獣医療の中でわからない病気や、治せない病気というのもまだまだ多いです。僕らの力不足もあると思うのですが、今後解決していく必要があるだろうと考えています。
――最後に、センターの今後について教えてください。
島村 センターは大学の附属施設でもありますので、センターでの教育や研究は飼い主さんのため、あるいは動物を任せていただいた一次病院の獣医さんのためでもあると言えます。ただ、全ての病気が治せるわけではないのと同じように、全てのニーズを同時に解決するというのは難しいですので、何に重きを置いてやっていくべきか議論する必要があるかもしれません。しかし現状では飼い主さんも一次病院さんも大事。そして学生に対しての教育も必要という両天秤的なところがあります。
教育という点で言えば、獣医師としてまだまだ1人前ではない学生が診療の現場に入って来ることになります。一方で飼い主さんが一流の獣医診療を求めて来られるというのは、相反する要素です。また研究という意味からは、実験的な手法を取り入れた診療にチャレンジをするところでもありますが,一方で受診される大切な動物たちには、100%は無理にしても、かなり高い確率で治る治療法を選択して欲しいという気持ちが飼い主さんの中には当然あります。
いつもそういった相反する矛盾の中で、私たちは日々ベストをめざして模索しています。
鳩谷 また、今後もより重要だと思うのは、地域における高度医療を支えるという診療面と学生教育です。獣医臨床の教育の充実が言われていますので、しっかりと教育を行なう病院として発展して行くことが大切だと感じています。それから教育と研究です。治せない病気、診断できない病気がまだまだあるので、これを解決するために教育と研究に注力していくことが大事だと思います。今は、全方向で私たちのめざすものに向かって頑張っていくことが目標です。同時にそれを具体的に叶えるために、今後はどこに力を注いでいくかを検討しているところです。
島村 新しい治療をするためには、研究が必要です。そして研究した成果をどのようにフィードバックして世の中に貢献するかということです。そういう意味では、大阪府立大学ですので、大阪府の獣医療あるいは研究、またそれらに資する人材の育成を行い、地域の動物の幸せを向上させていくのが我々の仕事ですし、地域のために頑張っていくのが、我々センターとしての大きな役目です。
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「飼い主さんと動物たちと話し、寄り添う」
~鍋谷知代獣医師インタビュー~
●施設の紹介
・X線CT検査装置
迅速な断層撮影ならびに3D画像などを描出して体内の病変を検査します。月に60件程度稼働しています。身体のどこの部分にどれくらいの大きさの癌があるか、はっきり確認できます。
・MRI検査装置
脳、脊髄などの神経系疾患の診断を中心に使われています。
・超音波検査室
超音波検査装置を用いて、主に腹腔内臓器を検査します。
・臨床病理検査室
9つある診察室は裏側で臨床病理検査室につながっています。動物から採取された血液などの試料から、ここで病気を診断するための様々な検査をします。
【取材:下山 陽子(広報課)】
【取材日:2016年3月27日】 ※所属は取材当時