大阪府公立高校卒業
大阪府立大学農学部獣医学科卒業
大阪府堺市 動物病院勤務
山口県山口市 動物病院勤務
2008年より大阪府立大学獣医臨床センター勤務
(2013年より特任助教として勤務)
――まずは獣医をめざしたきっかけを教えてください。
鍋谷 きっかけは、本当に犬が大好きだったという、ただそれだけです。母親曰く、小学生の頃から「動物のお医者さんになる」と言っていたようです。犬を追いかけてどこかへ行くような子どもだったようで、どこにどんな犬がいるのか、ご近所の犬マップも作っていたそうです。
――今、このセンターで仕事をされるまでの経緯は?
鍋谷 高校を出てすぐ、獣医を養成する大阪府立大学農学部獣医学科に入学しました。私は6年間の大学生活のうち、最後の2年が卒業研究でした。その際、臨床という動物病院に関係する研究室に行くのか、それとも実験や研究メインの研究室に行くのかを選択するのですが、私は臨床に進みました。病院で働いてらっしゃる先生方を見ているうちに、この世界で働きたいという思いがさらに強まりました。卒業と同時に一般の動物病院で働き、その後数ヶ所で経験を積んでここに来ました。今は内科系を担当しています。
――獣医師になられてどれくらいですか?
鍋谷 今年で13年目ですね。
――13年の中でいろいろな経験がおありだと思います。獣医師として喜びを感じたところを教えてください。
鍋谷 良かったと思うことは少なく、病気の動物を治せなかったことが強く印象に残っています。ただ、残念ながら亡くなってしまったとしても、亡くなるまでの過程を少しでも延ばし、飼い主さんが満足のいく最期の形にしてあげられた時には、やっていて良かったなと少しだけ思えます。
――飼い主さんの「本当はこうして欲しい」という気持ちと、獣医師の立場として「この方が良い」という方針の違いが出る時もあると思いますが?
鍋谷 そうなんです。一般病院だとこのあたりの伝え方が難しかったり、コミュニケーションの時間が十分に取れなかったりということがありますが、幸いここではそこに時間をかけることができます。現実的な費用の話から、通院や診療方針といった飼い主さんの要望を伺った上で、こちらから最善策をどれだけ提示できるか。話し合いの中で折り合いをつけて、最終的に飼い主さんにご納得いただけた時は良かったなと思いますね。
――折り合いがつかない場合もありますか?
(ここで同僚の鳩谷先生が答える)
鳩谷 いえ、ほとんどの飼い主さんとは話し合うことで折り合いがついていきます。悩んで来られる方が非常に多く、残念ながら治らない場合も本当に多いのです。もちろん治ればいいのですが、治らず亡くなってしまうだろうというその時に、どのようにしてあげれば、家族である大切な動物にとって一番良いのか。そして飼い主さんがどうしたいのか。それに対して私たち獣医師がどういうことをしてあげられるのか、それをゆっくり話し合って、みんなが納得する答えを出していくことがすごく大事だと思うのです。
鍋谷先生を見ていて素晴らしいと思うのは、そういうことに時間をかけて、しっかりと話されている点です。ほとんどの飼い主さんが動物が亡くなった後でも納得されて「ありがとうございます」と挨拶に来てくださる方も多いですよ。
――逆に、辛かったことは?
鍋谷 何度あっても未だに慣れないのが、診ていた動物を亡くしてしまうことです。それも不慮の事故ではなく、治療して最終段階まで経過が進まず、途中で亡くなってしまう時に、飼い主さんが非常に落ち込まれます。獣医師にも割り切れる人と割り切れない人がいますが、残念ながら私は未だに割り切れない。それは上司からもよく怒られます。すぐには割り切れず同調してしまうので、未だに「しんどい」と思うことがあります。
――獣医師としてどのようなことに心がけておられますか?
鍋谷 とにかく会話をすることです。飼い主さんは初めて来られる方なので、もちろん心を開かれない方もいますし、人見知りの方だと自分の言いたいことが言えないということもあります。それをいかに引き出していくか。そのためにはある程度時間が必要で、会話することが大切です。
最初は本当に犬が好きなだけでこの道に入ったのですが、獣医師になって1年か2年目だったのですが,その部分で躓きその時に技術や知識だけではなく、人と会話ができないと成り立たない仕事だと気づきました。だから、どんなに忙しい状況でも、飼い主さんが話しやすい雰囲気づくりに時間をかけるよう務めています。
――躓いたというのは、具体的にどういうことがあったのですか?
鍋谷 上司の先生がおっしゃることをそのまま覚えて、自分の中でマニュアル化していました。そしてどの飼い主さんに対しても同じような説明をしていたのです。でも,ある時から自分の中で矛盾が生じたのです。それは飼い主さんの望みと関係のない、ただ押しつけるような治療や診断で、独りよがりの診察でした。その時に、会話を重ねることで、その方が何を望んでいるのかを引き出す大切さに気づきました。
――これからの目標について教えてください。
鍋谷 ここにいらっしゃる先生方からも見習うべきところはたくさんありますし、自分はまだまだだなと感じています。飼い主さんの望むこと、イコール、動物が楽になれるということではありません。飼い主さんの思いとの折り合いをつけた上で、望まれる範囲内で最善の診療を行えればと思っています。きれいごとになるかもしれませんが、飼い主さんと動物に寄り添いたい――そのことは丁寧にやっていきたいです。
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獣医臨床センターってどんなところ?!/センター診察レポート
【取材:下山 陽子(広報課)】
【取材日:2016年3月27日】 ※所属は取材当時