本学の現代システム科学域には知識情報システム学類、環境システム学類、マネジメント学類という3つの学類がありますが、そのすべての学生が受講できる講義があります。その中の一つが「環境とサステイナビリティ」です。この講義の目的は、現代社会におけるサステイナビリティの重要性について理解し、持続的に自然と人・人と人が共に生きるための基礎となる環境システムについて、自然科学的、社会科学的、人間科学的側面から理解することです。今回は6/30に行われた「気候変動と資源枯渇」についての講義を紹介します。担当の大塚耕司先生は会場を動き回りながら学生にマイクを向け、意見を求めながら授業を行われました。
人口増加について
産業革命により交通機関が発達し地域の資源枯渇による人口増加の抑制が無くなったことで世界人口が急増しました。現在、世界人口は75億人であり、2025年には80億人を超えることが予想されています。このような将来を見据え、地球全体の資源が足りるのかを議論する必要があります。
気候変動について
過去80万年の大気中の構成要素の推移を見てみると、1900年代から人類の活動の影響を受け、大気中の二酸化炭素濃度が上がり続けています。平均気温、平均海水温ともに上昇しています。
2007年に地球の気候変動に警鐘を鳴らした、アル・ゴアの「不都合な真実」によると、衛星写真などにより極地方などの氷が減少していることがわかります。さらに怖い事実として、海洋酸性化の問題があげられます。大気中のCO2濃度が上がるとCO2は水に溶けやすいので海洋表層CO2濃度も上がります。海洋表層CO2濃度が上がるとpHが下がり、貝殻やウニの殻、サンゴの殻などの炭酸カルシウムが海水に溶け出します。海洋酸性化とはとても恐ろしい現象です。
資源枯渇について
次に、各国の飲料水充足人口割合を見てみると、日本では100%飲料水が足りているのに対して、世界では約8億人が飲料水不足の状態に陥っています。各国の一人当たりの水使用量に格差があり、アメリカが一番多く、日本も5番目に位置しています。現在のままの水の使用方法では、世界人口が80億になった場合、世界にある水量4000ギガトンに対して水資源が不足することが予想されます。また各国の衛生設備充足人工割合を見てみると、日本では100%清潔な水で生活できていますが、世界では約26億人が不衛生な水で生活しています。さらに、各国の飢餓人口割合を見てみると、現時点でも約8億人が飢餓に瀕しています。
つまり、世界人口が増えて80億人を超えると「清潔な水が飲めない」「食べ物が食べることができない」「衛生設備が不足している」エリアがどんどん広がり、世界全体が飲料水・食糧危機に直面するということです。
今日ご馳走を食べるとすればどっち?
A. 大阪湾産キジハタのお造り1キロ
B. カンザスビーフ ティーボーンステーキ1キロ
これには食の輸送にどれだけCO2が排出されるかに着目した「フードマイレージ」という考え方に基づいた問いかけです。例えば、キジハタを輸送するのに必要なCO2が3.3gに対して、カンザスビーフは14.6kgのCO2が必要です。このようなことを考えて食事すると、おいしい食事もおいしくなってしまうかもしれませんが、自分の目の前の食料を生産するのに、どれぐらいのエネルギーが必要なのかを考えることは非常に重要です。
加えて、ある食料を生産するのに必要な水に着目した「バーチャルウォーター」という考え方もあります。牛肉は1kg作るのに15.5tの水が必要で、キジハタは海のものを獲ってくるのでゼロです。ということはバーチャルウォーターの考え方では、つまり牛肉1kgを輸入すると、それに伴って15.5tの水も輸入していると考えることができます。日本のバーチャルウォーター総輸入量は年間804億m3です。日本の水の総消費量は834億m3なので、ほぼ同量を輸入していることになります。
毎日は考えていられないかもしれませんが、このような事実をも知っていれば、少しずつ日々の食生活が変わっていくのかもしれません。
日本は1日1人あたり魚介類タンパク質摂取量が先進国の中では非常に高く、約16gといわれています。また、日本人の魚介類からのタンパク質摂取の量は50年前からほとんど変わっていません。
国内で獲れた水産物を国内で消費することが今後の食糧危機の解決策となりうる一方で、世界の漁獲量を見てみると養殖された水産物が増えています。養殖は餌が必要になるので、その餌を生産する水も勘案しなければなりません。よって養殖された水産物はバーチャルウォーターをゼロと考えることは難しくなります。
日本近海は漁場がたくさん存在し、世界的にみても漁獲効率が非常に高いです。つまり、日本は食生活でもサバイバルに強い国ということができます。若者の魚離れが見受けられますが、将来的に危機的な水不足、食糧不足が危ぶまれる中、日本はいかにこの強みを活かしていくかを考える必要があります。
【取材日:2017年6月20日】※所属・学年は取材当時