物質の成り立ちを探り、豊かな暮らしや社会の発展に役立てるための知識と技術を学べる工学域 物質化学系学類。2年次から配属される3つの専門課程のうち、応用化学課程では無機化学、有機化学、高分子化学、バイオ化学をはじめ幅広い化学分野を総合的に学べます。
応用化学課程の2年生、3年生が受講する「応用化学実験」は試薬や実験器具の取り扱い方や分析装置の操作法を学んだり、実験結果を考察する思考法を身につけることはもちろん、実験から得た結果をまとめ、考察して発表するプレゼンテーション能力を養成する専門科目です。基本的な化学実験から、応用化学分野の各研究室の研究テーマにもつながる実験まで、さまざまな分野の基礎的な部分を知ることができるのが特徴です。
2年生の時は2~3人1組となって発表スライドを作成しますが、3年生では実施した実験の中から1つのテーマについて各自が発表スライドを作成し、プレゼンテーションします。試薬や実験器具に慣れることから始め、最終的には研究室や就職先の企業で実験し、プレゼンができるレベルをめざします。
(プレゼンテーションのスライド作成に対する指導の様子)
(プレゼンテーション発表の様子)
授業でどのような実験を体験できるのか。その一端をお伝えするため、「応用化学実験Ⅳ・Ⅴ」の授業現場を訪問しました。
この日の実験は「生体高分子の分析」。実験を始める前に医用生体工学・生体材料学がご専門の弓場英司准教授から、実験の目的と実験手法が分かりやすく説明されました。
今回の実験の目的は主に2つ。
①DNA(デオキシリボ核酸)と合成高分子の相互作用を調べる
②合成高分子と細胞がどのように相互作用するかを調べる
DNAを細胞の中に入れる遺伝子導入は、遺伝子治療や、再生医療を進展させるiPS細胞をつくるなどに欠かせない技術ですが、細胞に遺伝子を混ぜるだけでは入れられず、運搬体(ベクター)が必要。よく使われるベクターにはウイルスがありますが、ウイルスを使わず、人工の材料で遺伝子導入する研究も盛んです。今回はカチオン(陽イオン)性の高分子をベクターとして使うことを想定し、DNAにどのようにして結合するかを調べました。
別室の紫外可視吸収スペクトル測定器・蛍光分光光度計の前では、弓場先生の研究室のTA(ティーチングアシスタント)が待機。測定できる状態にした試料を学生たちが持ってくると笑顔を返し、測定器の操作方法を分かりやすく教えます。「予測通りの値が出るか」「想定外の結果ならどうするか」などに思いをめぐらせながら、測定器からのデータを見つめる学生たちの表情は真剣そのものでした。
この科目の特徴の一つが少人数制であるということ。教員1名が指導するのは20名程度の学生なので、実験を行っている間も、きめ細やかな指導が行われます。また、先生に対し疑問に感じたことを個別質問する学生の姿も多数ありました。
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■科目に参加する学生たちの感想
実験中の学生(みなさん3回生後期)に、これまで応用化学実験Ⅰ~Ⅴを履修して、「特に学べたこと」「ためになったこと」などを教えてもらいました。
「高校までの実験には答えが用意されていますが、この授業の実験では“いま何がおこっているか”を自分で考えなくてはならず、化学的な考え方と主体性が身につきました」
「この授業ではさまざまな分野の実験をすることができたので、これまで興味が浅かった分野のおもしろさも分かるようになりました。研究室配属後にどんなテーマと向きあうか未知数なので、いまは幅広く知識を吸収したいですね。高校で学べなかった試薬や器具の扱い方、分析装置の操作法などを学べたこともよかったです」
「応用化学実験Ⅱから行うプレゼンテーションは特にためになりました。2回生では数人のグループで、3回生になると単独で発表しますが、経験を重ねるごとに最初は不得意だったスライド(発表資料)の作成にも馴れて、イラストや反応式などビジュアル主体の“伝わりやすい表現”がイメージできるようになりました」
「生体高分子を深く学ぶため高専から編入。幅広い化学分野と出会えるこの授業のお陰で、視野がぐんと広がり、将来も研究を続けたいという夢も明確になりました。高専でもプレゼンを経験しましたが、府立大ではオーディエンス側の学生からの質問のレベルが高く、発表者が“本気”になれる雰囲気ですね」
「上海の大学からの交換留学生です。この授業で経験できる実験は全部楽しいですね。話はそれますが、府立大は人との交流に恵まれやすい環境なので、留学の心細さもすぐになくなり、大勢の友人ができました、」
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4回生になるまでに化学合成・化学分析の基礎能力を身につけてもらい、研究室での日々を充実したものにしてもらう。それがこの授業の大きな目的だと考え、私たち教員は様々な配慮を凝らしています。基礎的な化学実験から、応用化学分野の各研究室のテーマにもつながる実験まで、様々な実験を体験してもらうことはその1例。装置の操作法指導などを通してTAと交流してもらうのも、「自分の数年後のイメージ」を学生につかんでもらいたいからです。
研究室における実験はもちろん、実際に社会に出て企業の研究職・開発職として活躍する際も化学の幅広い知識が求められます。多彩な化学分野に関する実験を経験してもらう意義はそこにあり、興味が浅かった分野の魅力をこの授業を通して知ってもらえたらうれしいですね。学生数に対する教員・TA数の比率の高さもこの授業の魅力で、教員1人あたりで20人弱の学生を受け持ち、細やかな指導を実現できています。
「ちゃんと伝えられる能力」の育成を目指すプレゼンテーションやレポート作成についても、プレゼン準備やレポート指導の時間を設けて学生個々へ親身なアドバイスを行うなど、きめ細かくサポートできていると自負します。Ⅰ~Ⅴまでの履修を通して、学生たちのレポート内容やプレゼン技術は着実にステップアップしていますし、みんなの成長を見ることが楽しくてたまりません。
【取材日:2018年1月18日】 ※所属等は取材当時