本日は、Michi TakeのOB・OG取材として、シャープ株式会社 要素技術開発センターの大塚雅生さんにお時間を頂きました。大塚さんはこのシャープの技術者として、生物模倣技術を取り入れた高性能な家電を世に送り出している方です。
◆大塚 雅生(おおつか まさき)
1997年 大阪府立大学 大学院工学研究科 機械系専攻 航空宇宙工学分野修了
工学博士(航空宇宙工学)
シャープ株式会社健康・環境システム事業本部 要素技術開発センター
ネイチャーテクノロジー推進プロジェクトチーム
修士・博士課程時代に飛び級し、学部から博士課程までを7年で卒業。その後、シャープに入社された後にさらに学ばれMBAを取得される等々すごいキャリアをお持ちの大塚さん。大学入学前から目的意識が明確で目標に向けて着実にキャリアを築いてきた方なのかと思いきや、意外なことに大学入学時には勉強や研究に対するモチベーションがあまり無かったそうです。そんな大塚さんが大学・企業でどのような経験をし、何を想い、どう動かれたのか?先輩のキャリアの歩みから新たな未知を追求したいと思います!
<大学までのエピソード>
―高校、大学時代に打ち込んでいたことは?
高校時代は柔道部に所属し、三年間柔道に打ち込んでいました。それ以外では、ちょうどファミコンが発売された世代なのでゲームにハマっていましたね(笑) 大学時代は、高校生の時に取れなかった柔道二段の段位をとるために柔道部に入ってひたすら活動していました。無事に二段をとれたので柔道部はやめさせてもらって、小学生の頃先生になりたかったのもあって、塾の先生をずっとやっていましたね。
―生物にはいつ頃から関心を持たれていたのですか?
もともと生物に特別興味を持っていたというわけではなかったんですよね。どちらかというと生物よりも植物が好きで、昔は家で盆栽をやっていました。その関係もあり、もともとは農学部志望だったのですが、高校生の頃は生物・地学が苦手で物理・化学が好きだったのもあり工学部の建築系の志望に切り替えました。
―大学で航空工学を学ぼうと思ったキッカケ、理由は何ですか?
(中期日程の都合で)工学部の方で同じ経験をされている方がいらっしゃるかもしれませんが、府大の航空工学科(現・工学域 機械系学類 航空宇宙工学課程)に入学したのは本当に偶然で、入学当初は勉強に対するモチベーションはゼロでした。周りの人は、自分とは違って航空マニアばかりでしたし(笑)。そのモチベーションに大きな変化が起こったのは、藤井先生(現・大阪府立大学名誉教授)との出会いでした。もともと国立の研究所で研究をされていた方で、アカデミックな視点ばかりではなく実践的な視点を重視される方で、講義やお話もとても面白い先生でした。
―在学中や卒業後、「府大卒でよかったなあ」と思った点はありますか?
今の会社が府大に近いところにあることですかね。就職すると、様々な専門分野の人が集まるので、自分が専攻してきた分野ではない技術を扱う事があったり、自分の担当内容を上司や先輩が必ずしも熟知している訳ではなかったので、その時に頻繁に頼れたのはやはり恩師でしたね。学生時代はあまり親しい関係ではなかったんですけどね(笑)。
<社会人編>
―研究や開発が上手くいかない時、それを乗り切る方法はなんですか?
上手くいかないときは、先輩から「やってはダメ」と言われていること(タブー)をあえて試してみるようにしています。タブーとしていることの多くは実際に誰かがやってみたわけでもないことですし、あくまで暗黙のルールとして存在しているものだと思いますので、あえてやることで新しい発見に繋がることもあります。
―製品開発に生物模倣を取り入れたキッカケは何ですか?
企業に入ると毎年新しい発見を要求されます。2年目には1年目以上の成果、3年目には2年目以上の成果を要求されるのですが、大学で学んだ「知識の貯金」というのは年々と擦り減っていくんですよね。そんな時、癒しを求めてふとイルカを見に行きたいと思いました。しかし、勤務中にイルカショーを見に行けるわけもないので、「イルカ 学会」と検索してイルカの学会へ行きました。そこでは航空工学の視点では考えられないような学説が研究者の中で議論されていて、必要な筋肉量の1/7しか使っていないのに時速50キロで泳げるイルカの構造の特徴等、理論は解明されていないけれど自分の製品開発に応用できそうな学説がいくつもありました。試しに生物模倣を取り入れたプロトタイプの家電を試作すると、なんと20パーセントも性能が向上していました。(今まで1パーセント単位で向上させるために必死に努力していたので、)これはいける!と感じたのが最初のキッカケです。
―一般的な開発理論から外れた生物模倣技術を製品に応用するときに最も苦労したことはありますか?
周りの理解を得ることですね。上司に理屈は分かりませんが生物模倣を取り入れてみたいです!なんて言ったらアホかといわれますし、生物模倣技術が一般的になる前は同僚の間では変人扱いされてしまいました(笑)。
<学生へのメッセージ>
―今の大塚さんからみた「府大生」または「府大卒業生」はどんな印象ですか?
大阪府立大学の学生は、他大学の学生に比べ挫折した経験がある人が多いように思います。社会人になると様々な場面で自分が決断をしなければならず、その決断で失敗することも多くあります。そんな時に挫折した経験がある人は、失敗した後立ち直るまでが早く、その経験を次に活かせる人が多いように思います。
―大塚さんが想う、「大学で学ぶべきこと」とは何でしょうか?
今になって思うことは、もっと真面目に積極的に色んな講義に出たり、各分野の勉強をすべきだったということですね。学生の頃ないがしろにしていた分、社会人になってもう一度イチから勉強する羽目になってしまったことも多くあります。それと、やはり外国語ですね。取引先の外国人の方と自分の思ったことを直接コミュニケーションとれないのがすごくもどかしくなりますね。
―社会人から見て学生たちに身に着けておいて欲しいことは?
学力や知識はもちろんですが、企業人として求められるのは『突破力・幸運力・目利力』ですね。『突破力』とは、目標を達成するという執念や情熱と実行力で、挫折経験も突破力を養えるいい経験だと思います。『幸運力』とは、ただ何もせず好機を待つのではなく、そのチャンスを掴むための積極性のことですね。運も実力のうちなのではなく、運こそが実力だと私は思います。新たなチャンスに向かって踏み出せる勇気を持ってほしいですね。最後の『目利力』とは、社会が何を求めているかを感じ取る力で、質の良い情報源を持っているか、常にアンテナを張っているかによって決まってきます。これらの力は、是非とも学生のうちに養ってもらいたいですね。
―大塚さんのおすすめの一冊は何ですか?
よくその質問をされるのですが、私は恩師の書籍と答えます。皆さん、自分が教わっている先生の書籍を読んだことがありますか?その人の考えも理解せずにその人から学ぶことは難しいと思いますので、是非とも自分の恩師の書籍を読まれることをおすすめします。
―最後に学生に一言
社会人になると学歴はあまり関係なく、重視されるのは実力のみです。大切なのは、どこの大学を卒業したのかということではなく、大学で自分が何をするのか、何をしてきたのかということ。自分の本当にやりたいことを見つけるためにも、出来るだけ広い領域に足を踏み入れて、様々な機会に飛び込むバイタリティをもって学生生活を過ごしてほしいです。
<取材を終えて>
大塚さんの言葉の中では「幸運こそが実力である」という言葉が特に印象的で、自分の身の回りにあるチャンスを逃さないように、これから積極的にアンテナを張り挑戦し続けていこうと思いました。
<長野 将吾 MICHITAKER’s/工学部 機械系工学科 4年>
どういった状況に自分の身を置くかではなく、置かれた状況の中で自分が何を出来るのかが大切であることを改めて実感することができました!今の自分の状況をしっかりと理解し、本当に求められていること、自分のしたいことを明確に持って残りの大学生活を過ごしていきたいと思いました。
<坪田 直樹 コミュニティデザイン研究所/工学研究科 機械系専攻 機械工学分野 修士1年>
【取材日:2014年8月26日】※所属・学年は取材当時