I-siteなんば「まちライブラリー@大阪府立大学」で2017年12月1日(金)に開催された第39回アカデミックカフェ。テーマは「ほっといても故障が勝手に直るシステムとは?」、カタリストを務めたのは工学研究科の小西啓治教授でした。

私たち人間が作った電力、交通、通信などのネットワークに代表されるシステムは、高度化、複雑化の一途をたどっています。それは私たちの暮らしを便利にしてくれることに間違いないのですが、必ずしも頑強とはいえず、常に想定外の攻撃やトラブルに見舞われます。

その都度、トラブルを想定した対処法を構築すれば良いのですが、現在のシステム構築では全ての状況を想定することができません。「安定性」という概念がなく、ちょっとした事でエラーを招き、不具合が生じてしまうのです。

プログラムがどんどん複雑になっている今、一体どのようなソリューションを与えればいいのか? それには従来の発想とは異なる視点で解決をめざす、いわば発想の転換が必要でした。

 

そこで思い浮かんだのが生物の存在。

生物は極めて高度なシステムであり、攻撃・外乱・仕様変更に強く、怪我や病気も勝手に治る。この仕組みを、人間が作ったシステムに組み込めたら、ほっておいても故障が直る「柔軟で頑強な」システムが構築できるかもしれない、と考えました。

ではその仕組みとは? 例えば、魚や動物の模様。これらの模様には規則的なパターンが存在します。

これらのパターンが生まれる仕組みは、偏微分方程式と呼ばれる数式で説明することができ、このパターン自体は、この数式の解として表現できます。また、魚の皮膚につけた傷は、時間の経過と共に自然と修復します。この治り方も数式の解として再現することができます。

この仕組みを考える上で、会場では実験が行われました。寝かせた2つの空き缶の上に板を載せ、その上に2つのメトロノームを置き、不揃いに動かします。

最初はバラバラに振動していた2つのメトロノームが、板の揺れを利用して自然と合いだして、やがて同じ振動数になりました。これら2つの例が示すように、簡単な仕組みで自発的に特定の秩序構造を形成する現象を「自己組織化現象」と言います。人間が作ったシステムに、この現象を活かした具体例を紹介します。

「泥棒をロボットで捕まえたい! ~ロボット群のフォーメーション」

低性能の小型ロボットが、泥棒を捕まえる実験です。たくさんの小型ロボットが泥棒を取り囲み、ぐるぐる回っているのですが、小型ロボットを2~3体、人為的に取り除いても、他のロボットたちは迷うことなくすぐに隊列を整え、泥棒を逃さないよう取り囲み続けます。外部からリモートコントロールしていないのに!です。

ロボットには、メトロノームのダイナミクスが記述された簡単な微分方程式を埋め込んでいます。ロボットたちは、その方程式の解として動いているのです。たとえ誰かが故障しても、自己組織化制御の元、ロボットたちが協調し、勝手に等間隔で動く一例です。

その他の活用例として、電力価格と蓄電池残量で充電開始を独自で決定する「ピーク電力カット」や、いくつかの研究事例が紹介され、先生のお話は終了しました。

「システムのエラー修復に無駄な労力を費やさないためには、生物の特性をワンクッション入れて、システムを設計していくことが必要ですね」と先生の言葉。「自己組織化現象」を使ったシステム構築がどんどん具体化すると、未来の生活がもっと快適で簡単・便利になるかもしれません。

【取材日:2017年12月1日】※所属は取材当時