物質の成り立ちを原子・分子レベルで探り、暮らしや文明の持続的発展に役立てるための知識と技術を学べる工学域 物質化学系学類。2年次から配属される3つの専門課程のうち、応用化学課程では分析化学、無機化学、有機化学、高分子化学、バイオ化学をはじめ幅広い化学分野を総合的に学べます。

この課程での学びをきっかけに「研究する喜び」を知り、大学院へ進んだ石木健吾さん。応用化学分野の修士課程・博士課程で取り組む研究とはどんなものか、どんな魅力があるかなどをお聞きしました。

 

◆プロフィール

石木 健吾(いしき けんご)さん
大阪府立大学 大学院 工学研究科 物質・化学系専攻 応用化学分野 博士課程1年

 

Q.石木さんが化学に興味を持ったきっかけを教えてください。 

他教科に比べてよい成績が取れたので、高校時代から化学が好きでした。化学を深く知るにつれて、新しい物質を創りだせることに惹かれるように。既存のものを組み合わせるのでなく、ゼロからの創造。そこに魅力を感じました。

 

Q.好きな化学の専門性を深める場として大阪府立大学を選んだ理由を教えてください。

正直に話せば、第一志望の大学に落ちたものの、大阪府立大学ともう1大学には合格。どちらへ進めばいいかが分からず、高校の先生方に相談してみると、府大の評判がとてもよくて、この大学に決めました。特に心に響いたのが、「第一志望に落ちても、それをバネにして勉強や研究に打ち込む気概に満ちた学生が府大には大勢いる」といった評判。そんな環境に身を置けば切磋琢磨できて、自分を磨けるだろうと期待できました。

ちなみに、私は現在の学域制に変わる前年に入学したので、旧工学部の最後の新入生になりました。とはいっても1年次に幅広い基礎学力を身につけて、2年次から専門性を深めていくカリキュラム編成はいまと同じで、2年次から配属された応用化学課程の概念も現在のものと変わりません。

 

Q.どんな点に惹かれて、応用化学課程を選んだのでしょう?

先述のように、ゼロからなにかを創造できることが私にとっての化学の魅力。応用化学課程、化学工学課程、マテリアル工学課程の3課程の中で、応用化学課程でなら「私が好きな化学」を学べそうに思えたからです。まだまだ専門性を身につけていなかった1年生時代のイメージでしたが、期待通りに学ぶことができ、充実した学域生時代を過ごせました。

 

Q.2年次以降の専門科目の中で、「特にためになった」と思うものを教えてください。

2回生、3回生を対象にする「応用化学実験Ⅰ~Ⅴ」ですね。応用化学課程が扱う幅広い化学分野で使われる様々な実験手法を学べた経験は、4回生になって研究室へ配属されてからとても役に立ちました。実験の手順と正解が決まっている高校までと違って、大学の実験は手順を自分で考え、得られた結果がなにを意味するかを考察し、失敗を繰り返しながら、実験の精度をブラッシュアップしていく。このトライ&エラーこそが化学を学ぶ楽しさであり、化学的な発想力や思考力が磨かれました。

 

Q.4年次以降、どの研究室でどんなテーマの研究をしてきたかを教えてください。

いまも所属している「分子認識化学研究グループ」に配属され、学域生の4年次からD1(博士課程1年)の現在までずっと「ナノバイオアッセンブリ技術を通した生物系での“化学”の応用」に関する研究を続けてきました。分かりやすく紹介すると、ナノ粒子や機能性ポリマーといった化学的な“道具”を使って、微生物や細菌といった生物系の営みを調べる手法を研究するグループです。

研究室に入り、細菌や微生物を対象にすると知ったときは、知識が浅かった分野だけに焦りました(笑)。その半面で、自分が知らない世界を学べることには知的好奇心が刺激され「分からないこと」が分かるようになっていく過程を大いに楽しみました。この研究分野で使われる電気化学分析の手法は、4回生になるまでの専門科目で学び、自信もあったので、その点は心強かったですね。

気がつくと研究することがとても楽しくなり「1年間ではもの足りない」と感じて、そのまま大学院に進みました。

Q.石木さんは2年間の修士課程を終えて、現在は博士課程の1年目です。修士論文研究のテーマと、現在取り組む博士論文研究のテーマを教えてください。

細菌には人間に恵みをもたらす善玉菌(有用細菌)と病原菌に代表される悪玉菌があります。修士課程の研究では有用細菌の1種であるシュワネラ菌に着眼。これは2000年頃に発見された菌で、無酸素下で汚水のような有機物を分解しながら電子を発生させることから、バイオエネルギー生産に利用する研究が盛んに取り組まれています。この菌が持つ別の驚くべき能力は、鉱山廃水や精錬排水といった産業排水に含まれる金などの金属を還元作用によって回収できること。私はここにフォーカスして、シュワネラ菌が持つ金属イオンの還元メカニズムについて研究しました。ちなみに府立大には、シュワネラ菌を使って家電ゴミ等の都市鉱山からレアメタル(稀少金属)を回収する研究に取り組まれる先生もおられます。

博士課程では2つのテーマを追っていますが、その1つ目の対象は引き続きシュワネラ菌で、1個体あたりのシュワネラ菌が出す電子の量をカウントできる分子認識化学的な手法の開発にチャレンジ中です。バイオエネルギーを生産するこの菌には産業界も注目。シュワネラ菌の電子放出量の計測に成功できれば、基礎的な指標として、燃料電池をはじめとする“次世代のデバイス”の研究開発に力を添えることも可能だと思います。

2つ目の対象は大腸菌、サルモネラ菌、黄色ブドウ球菌といった病原菌。これらが含まれた溶液にシグナル物質(ある種の情報を伝える物質)を入れて、どれくらいの細菌がいるかを検出できる手法の開発に挑んでいます。これが達成できれば、在来の検査手法では最短で18時間かかった病原菌の検出を1時間で行えるようになるうえ、検査設備もぐんとシンプルになります。

 

Q.石木さんがお感じの「府大の魅力」を教えてください。

その分野を代表する著名な先生、産業界から期待を寄せられる先生など優秀な教員陣に恵まれていて、学びのレベルが高いことが一番の魅力ですね。私のように「化学が好き」といった漠然としたモチベーションで入った学生が、その道をまっすぐ深めていく場合でも、異なる分野へ興味を広げる場合でも、どちらのベクトルにも応えてくれる“懐の深さ”があることも魅力ですし、いまの私にとっては自由に研究を続けられる環境に恵まれている点が、とてもありがたいですね。

 

Q.最後に、これから大学へ入ってこられる皆さんへのメッセージをお願いします。

高校時代に比べて、大学では自分が思い通りにできることが多くとても自由ですが、その自由には責任が伴います。充実して過ごす自由もあれば「もっと頑張ればよかった」と後になって悔やむ自由もあります。卒業時に悔やまないため、大学での日々を社会に出てからの充実につなげるため、高校生のときから「自分は大学時代をどう過ごすか」のイメージをある程度は描いておくといいでしょう。

それから、専攻分野の選択はとても大切です。ネームバリューとか偏差値とかに惑わされず、自分が好きな分野をまっすぐ選んでください。それが大学生活の充実につながります。

 

 

【取材日:2018年1月18日】 ※所属等は取材当時