物質の成り立ちを原子・分子レベルで探り、暮らしや文明の持続的発展に役立てるための知識と技術を学べる工学域 物質化学系学類。2年次から配属される3つの専門課程のうち、応用化学課程では分析化学、無機化学、有機化学、高分子化学、バイオ化学をはじめ幅広い化学分野を総合的に学べます。
この課程での学びからどのような将来の夢が広がるか。化学を学び、研究する喜びとはどのようなものか。現在、研究室で分子認識化学という先端領域の研究に取り組んでいる4年生、齊藤真希さんにインタビューしました。
齊藤 真希(さいとう まき)さん
大阪府立大学 工学域 物質化学系学類 応用化学課程 4回生
Q.齊藤さんが物質化学系学類を志望した動機を教えてください。
高校2年生の頃から、大学では化学を勉強したいと考えていました。将来は化粧品メーカーか食品メーカーで商品開発職や品質管理職に就ければいいなと夢見ていたからですが、当時教えてくださった化学の先生が好きだったことも影響しています(笑)。落ち込んだときにメイクをすると、自分が変わる気がして、明るい気持ちになれる。女性の方なら、そんな経験があるはずです。自分自身が化粧品を使うようになってからは、化粧品を通して、女性の笑顔を増やす仕事をしてみたいという夢がさらに明確になって、化学を学ぶ意欲が高まりました。
学類については、農学系という選択肢もありましたが、将来、いま憧れるものと違う業界へ進みたくなった場合でも、扱う対象が広範囲な化学系なら応用が利くだろうと考えたのが、物質化学系学類を選んだ理由です。
Q.物質化学系学類では、1年次で幅広い基礎学力を身につけ、2回次からは応用化学課程、化学工学課程、マテリアル工学課程の3課程に分かれて高い専門性を養います。齊藤さんは、どんな点に惹かれて応用化学課程を選んだのでしょう?
課程の選択はかなり迷いました。何人かの先生に相談したところ「物質の成り立ちを原子・分子レベルにまで掘りさげて学ぶことは3課程に共通するが、応用化学課程なら“化学という大河の上流”を学べるため、幅広い分野に応用できるだろう」とのアドバイスが決め手になって決断。1回生のときは、将来進みたい道に確信が持てていなかったので、広範囲な化学分野を学ぶことができる応用化学課程に大きな可能性と魅力を感じました。
Q.課程配属後の専門科目で、「特にためになった」「興味深かった」と思うものを教えてください。
私の2回生、3回生は高分子化学の世界にどんどん惹かれていく2年間でした。関連する科目は必修でなくても積極的に履修。電子の移動などの反応過程を考えるのが楽しかったですね。
2回生、3回生を対象にする「応用化学実験Ⅰ~Ⅴ」は、特にためになった科目です。応用化学課程が扱う広範囲な化学分野で使われる多様な実験手法を実践的に学べたうえ、各研究室がどんなテーマに取り組んでいるか、どんな先生がおられるかも知ることができ、4回生になってからの研究室配属への不安が払拭され、心構えもできました。
Q.4回生になってからは、どの研究室に配属されて、どんな研究をしてきましたか?
「分子認識化学研究グループ」に配属され、長岡勉教授のもとで、「ナノバイオアッセンブリ技術を通した生物系での“化学”の利用」について研究しています。分かりやすくご紹介すると、ここでいう「分子認識」とはナノ粒子や機能性ポリマーといった化学的な“道具”を使って、微生物や細菌をはじめとする生物系の営みを検知する技術のこと。この研究グループは、食中毒細菌や植物病原菌などを検出でき、食品分析などに役立つセンサー(検出手段)を、ポリピロールという高分子を使って作製することに成功するなどの成果を挙げていて、分子認識化学の進展に大きな力を添えています。
私がいま取り組んでいる卒業研究のテーマも分子認識に関わるもので、微生物のかすかな呼吸活動をどうすれば検出できるかの手法開発にチャレンジ中です。微少なものの検出はなにかと困難ですが、やりがいがあります。
Q.研究の難しさ、喜びを教えてください。
難しいのは、失敗したかどうかが分からない場合も多いこと。得られたデータが成功か失敗か判別できないときは、そのままの手法で実験を続けていいか悩みますね。逆に、自分なりに考えた手順で実験をして、理想的なデータを得られた瞬間の感動は言葉にできません。「研究をやっていてよかった。もっと頑張ろう」とモチベーションが高まります。
Q.振り返ってみて、2回生、3回生で学んだことは現在の研究にどう役立っていますか?
2回生、3回生のときは、「学べることはなんでも学んでおこう」とのスタンスで色々な科目を履修。その中には、当時は興味が薄かった電気化学もありました。なんとなく学んだ電気化学ですが、その知識が研究室で分子認識化学に取り組むようになると想像以上に役に立って。そんな経験から、いい意味での貪欲さは大切だと感じ、今では興味が薄い分野であっても、なるべく学んでおきたいと考えています。その点、大阪府立大学では専攻に直接関係ないと思うような分野も含めて幅広い“学び”のカリキュラムが用意されていて、学びそこねた分野については先生方から親身に教えていただけます。
Q.今後の“夢”を教えてください。
いまの研究グループに留まる形で大学院へ進むつもりです。修士課程を終えたら、ずっと憧れてきた化粧品メーカーか食品メーカーの研究職に就きたいですね。現在の研究テーマとその業務とはダイレクトにリンクするとは言い切れませんが、府立大で身につけてきた実験に対する姿勢は将来の仕事に必ず役立つと思います。
Q.最後に、齊藤さんがお感じの「府大の魅力」を教えてください。
キャンパスが広すぎず狭すぎず、適正な広さなので、学生同士の交流が活発であると共に、先生方との距離もとても近いうえ、地域社会との絆も育まれ、とてもホットな雰囲気に包まれているのが魅力ですね。色々な人との交流に恵まれて、毎日、楽しく過ごせています。学生アドバイザー担当の先生をはじめ、どの先生にも様々な悩みを相談できますし、学外で出合っても気軽に声をかけていただけます。
たくさんの人と出会うことができるから、様々な分野のエキスパートと関わることができて、色々なことに挑戦できる機会がある。自分の夢ややりたいことに向かって進むことができる大学だと思います。
どちらかといえば人見知りだった私も、この環境のお陰か、対人関係には積極的になれました。初年次ゼミナールでのグループ発表や応用化学実験で行ったプレゼンテーションなどに鍛えられて、コミュニケーション能力も高校時代に比べてぐんと高まったと感じます。研究室に入ると、学会発表や学会後の懇親会をはじめ初対面の人と交流しなくてはならない機会が増えますが、いまの私なら大丈夫。人前で堂々と発表できるようになったのも、色々な意味で環境に恵まれたこの大学で4年間を過ごせたからでしょうね。
■リンク
【取材日:2018年1月18日】 ※所属等は取材当時