“昆虫類・小動物研究を通じて生物多様性の保全に貢献 ”

平井 規央(ひらい のりお)教授

生命環境科学研究科 緑地環境科学専攻 環境動物昆虫学研究グループ

 

2022年4月開学予定の大阪公立大学(仮称:設置認可申請中)に、農学部および農学研究科が新設されます。農学部には応用生物科学科、生命機能化学科、緑地環境科学科の3学科が設置され、分子から生命・環境までを農学的視点から広範囲に学ぶことができます。

大阪公立大学 農学部

新体制で始動する農学部では、大都市立地という特性を活かした「生物資源の有効活用」「健康問題への貢献」「都市の環境修復や持続的発展」「持続可能な社会基盤の構築」などに関わる教育研究を展開し、その学びをグローバルな研究開発へとつなげます。また少人数教育の特徴を活かした双方向型の教育を行い、論理的思考力と国際的な活躍を目指す上で大切なコミュニケーション能力を持つ人材を育成します。

現在、府大で設置されている生命環境科学域の応用生命科学類(植物バイオサイエンス課程・生命機能化学課程)、緑地環境科学類の2学類が農学部に移設されます。そこで各専攻の先生方に、農学部新設への期待とご自身の研究についてインタビューしました。今回は府大農学部卒業生でもある、生命環境科学研究科 緑地環境科学専攻 環境動物昆虫学研究グループの平井規央教授にお話を伺います。

――まずは平井先生の研究について教えてください。

平井先生
昆虫を中心とした小動物を対象に、昆虫生理・生態学、昆虫生活史、遺伝的多様性について研究しています。大きなテーマは絶滅危惧種の保全、外来種問題、害虫防除。また長距離移動するチョウ「アサギマダラの移動」や、季節によって模様が変わる「チョウの季節型」などの研究も行っています。これらのテーマについて、野外調査、飼育実験、DNA解析などの手法でアプローチしています。また、教育研究フィールドに約40万点の標本を収蔵した昆虫標本室、実験圃場に昆虫飼育室があります。

――研究に携わるようになったきっかけと、魅力に感じるところを教えてください。

平井先生
実は小さい頃から昆虫より魚の方が好きで、年に100回以上、渓流釣りに行っていた時期もあるほど。でも植物も含めた自然界全般に興味があり、府大農学部に進学しました。

昆虫に感じる魅力は多様性です。種類や種内も含めて現在約100万種存在するという昆虫ですが、おそらくその数倍は生息すると考えられています。もしかすると今後、新たな昆虫を発見するかもしれない。私たちがまだ足を踏み入れていない未知なる世界を、今後の研究を通じて解析していきたい。また多くの昆虫は植物に依存しているので、植物について知らなければ昆虫は全く理解できません。昆虫が好きな人には植物からしっかり勉強してほしい。植物研究も大切な学問です。

私たちが所属する「環境動物昆虫学研究グループ」は、その名称の通り、昆虫以外の生き物も多く扱っています。私もサンショウウオ類やフクロウ、淡水魚類の調査・研究にも取り組んでいます。小動物でしたら対象は何でもかまいません。

――学生に対して指導されるうえで心掛けていることは?

平井先生
学生が取り組む初めてのフィールドワークには、必ず私も随行します。フィールド調査はあらゆるパターンがあります。例えば、定期および定点調査を行うことがあるのですが、途中で変更できない。最初の方法を通さないと同じデータが取得できないため、初回がとても重要です。学生が独り立ちしても問題ないと判断できるまで、私も一緒に調査します。調査場所は大阪府内が多いですが、対象となる生き物によっては全国各地を訪れます。

――今後、平井先生が新たなに取り組みたいことがあれば教えてください。

平井先生
絶滅危惧種の保全と害虫防除は、虫を生かすか殺すかという両極端。虫を知ってコントロールできる技術があれば、対象である虫を増やすこともできれば、減らすこともできる。両方に対応できる技術をさらに高めた上で、研究者の育成に取り組みたいです。

――研究室を卒業した学生の主な就職先を教えてください。

平井先生
環境省や農林水産省、林野庁といった行政関係や農薬関係の企業への就職をはじめ、昆虫館・博物館の学芸員や大学教員、研究所職員など多岐にわたります。

――農学部新設にあたり期待することを教えてください

平井先生
昆虫学や生物多様性は農学との結びつきが強いと考えます。1つは害虫防除。古くから農業と害虫の闘いがあり、それを解決するための学問として昆虫学が発展してきたということがありますから、農学との相性が非常に良い。

もう1つは、日本における農村やその周辺環境では特に生物多様性が高い点。昔ながらの里山的環境における水田や雑木林、ため池、水路の目的は農業ですが、同時に多様な生き物に生活の場を提供してきました。これは逆に農業が生物多様性を守ってきたと考えられます。そのため農村やその周辺環境の存在は、重要な意味を持っています。

農学部は持続可能な農業・環境・社会への貢献を目指します。そのような手法の中で、私たちのテーマである生物多様性を保全することは重要だと考えています。府大農学部OBという立場としては、昆虫学は農学部に設置される方がおさまりは良く感じます。

――農学部にはどのような学生が向いていますか?

平井先生
研究室には生き物好きの学生が全国からやって来ます。特に大学院から所属する学生が多く、「本当は虫が好きで研究したかった」という思いから研究室に来るというパターンが多いです。最近の昆虫学研究は細分化されていて、特定の昆虫やテーマしか扱わない研究室が多い。その点、私の研究室では生物多様性を重視していますので、所属学生のほぼ全員が異なる生き物を扱い、テーマも違う。自分の好みの生き物があれば、それを研究してもらうこともあります。できるだけ学生たちの希望をくみ取り、研究できるようサポートしています。今はコロナ禍の影響で自粛していますが、海外調査も実施しています。大阪は交通アクセスが良いので、遠方の調査にも有利です。また緑地環境科学専攻の他の学問でもフィールドワークは多いので、実際の自然に触れてみたい人は向いています。

――最後に受験生の皆さんにメッセージをお願いします。

平井先生
オープンキャンパスでよく質問されるのが男女比率。昔は年に1人いるかいないかだったのが、ここ数年では多い年で5、6人の女子学生が研究室に所属しています。もし昆虫学を希望する女子学生の方がいらっしゃったら、先輩もいるので安心して志望して下さい。先ほども話しましたが、研究テーマや対象は自分の好みで取り組める場合もあるので、ぜひ生き物に興味のある皆さんに集まってほしい。地道な調査も多いですが、楽しく研究に取り組めると思いますよ。

 

※公表内容は予定であり、変更等を行う場合があります。
※新組織は認可申請中のものであり、今後変更の可能性があります。

●環境動物昆虫学研究グループの主な研究テーマ
「昆虫類の系統分類学的研究」
小蛾類、甲虫類、カメムシ類、寄生性ハチ類を中心として、種の多様性の解明、系統推定に関する研究を行っている。

「昆虫類・小動物の生物地理学的研究」
チョウ類、地表徘徊性甲虫類、寄生性天敵類、魚類、両生類などを中心として、各種の分布様式、地域の動物相の特徴や起源を明らかにする研究を行っている。

「昆虫類の生活史戦略」
昆虫の生活史の組み立て、植物と植食性昆虫あるいは昆虫と寄生性天敵の生活史同調、温暖化に伴う昆虫の分布と生活史の変化、昆虫の休眠と移動などについて研究している。

「昆虫類・小動物とその生息場所の保全生態学」
里山の管理法とチョウ群集の多様性、稲作水系における水生動物の生活場所利用あるいは水管理などの攪乱と水生動物群集の多様性、希少昆虫・小動物の保護方法などについて研究している。

環境動物昆虫学研究グループ(平井 規央教授)

●大阪公立大学農学部 入試情報サイト

【取材日:2021年6月22日】※所属は取材当時