大阪府立大学を卒業し、第一線で活躍されている先輩方のお話を聞くことができる校友懇話会。今回は、パナソニック株式会社 専務執行役員 エコソリューションズ社社長の北野 亮さん(工学部経営工学科卒業)が登壇されました。
2018年3月に創業100年を迎えたパナソニックの歩みと私たちの暮らしの変化を踏まえ、次の100年に向けての課題と展望について、映像資料などを交えながら講演いただきました。
■プロフィール
1978年:松下電工(株) 現 パナソニック(株)エコソリューションズ入社。25年間、家電商品を中心に商品企画に従事。
2008年:ハウジングシステム事業を担当。
2013年:ライティング事業を担当。
2014年:パナソニック(株)役員就任。
2016年:AVCネットワークス社上席副社長就任。事業戦略担当としてBtoB事業強化に向けた大規模な構造改革を完遂。
2017年:エコソリューションズ社社長就任。2年連続の減収減益から1年で増収増益に反転させ、持続的成長に向けて経営改革を推進中。
<エコソリューションズ社の伝統と事業>
● 創業者の思いとともにあるエコソリューションズ社
昨年、パナソニックは創業100年を迎えました。創業者の松下幸之助は「人々のくらしの向上と社会の発展に貢献する」との思いのもと、福島区の大開町に松下電気器具製作所を設立しました。今でいうベンチャー企業です。そして、テレビや冷蔵庫、洗濯機などの家電で、私たちのくらしを大きく変えました。私たちのくらしの変遷は、松下の製品と共にあったと言っても過言ではありません。
また、幸之助が100年前に発明し くらしを変えた配線器具の一つに「二股ソケット」があります。今もエコソリューションズ社が手がけており、年間10万個売れています。配線器具分野でのエコソリューションズ社のシェアですが、日本では80%以上と断トツ1位、世界でも2位のシェアを誇っています。創業者の思いと技術を脈々と引き継いでいるのがエコソリューションズ社といえます。エコソリューションズ社は売上 約2兆円のカンパニーで、今年の4月1日にはエコソリューションズ社からライフソリューションズ社へとカンパニー名を改め新たなスタートをきります。
現在、エコソリューションズ社には、住宅をはじめ、電車、ホテル、オフィス、工場などの照明や配線器具、HEMSなどに関わる「電設資材」、キッチンやバス、トイレ、ドア、床材などの「住設建材」、「建築」、「自転車」、「介護」の5つの事業カテゴリーがあります。
東京スカイツリーのLED照明は当社の「電設資材」事業部門が手がけています。「建築」では、パナホームを100%子会社化し、現在はパナソニックホームズとして展開しており、また非住宅系の建設を強化するためにゼネコンの「松村組」を傘下とし、住宅だけでなく、まちづくり、公共施設を手がけることができるようになりました。
「自転車」は、電動自転車に使用するモーターユニットを手がけており、このデバイスを活用して海外にてビジネスを展開しています。最近では、シェアサイクルがトレンドとなっており、この分野へも参入し始めています。
「介護」は、ベッドや入浴用の介護製品などを手がけています。自動で車イスになる介護用ベッドを開発し、2018年にはグッドデザイン賞を受賞しました。さらに、サービス付き高齢者住宅、デイケア、有料老人ホームなども展開しています。
このようにエコソリューションズ社は、「A Better Lifeを家、街、社会へ広げる」ことをミッションとして、単に部材や素材を扱うのではなく、家、街、社会という一つひとつのジャンルに対してはもちろん、これらがつながる、24時間 人がくらす、あらゆる場面でソリューションを提供しています。そこにあるのは「豊かなくらし、社会を実現する」という幸之助から受け継いだ熱い思いに他なりません。
<次の100年に向けて、今という時代を読み解く>
● 日本でくらすということ。
皆さんもよくご承知の通り、日本の人口は2008年以降減少しており、この現象はこれからも進むと予測されています。GDPの成長も同様です。この現状を見る度に、「日本でくらすということ」について真剣に考えなくてはならない時代が来たと感じます。
今という時代を、技術進化の面から考えてみましょう。第一次産業革命が興り、電力による大量生産に始まり、エレクトロニクス、デジタル化を経て、今、第四次産業革命の時代を迎えているといわれます。第四次産業革命の時代とは、IoT であらゆるものをつなぎ、AIを活用して、今までできなかったことが簡単にできるようになる時代です。
● 所有からシェアリングへ。変化するくらしと価値観。
このような時代になり、私たちのくらしの中でも変化が生まれています。それは「所有からシェアリング」です。さまざまなモノを所有するのでは無く、モノを最小限に減らし、「必要なものはシェアする」という考え方が浸透しつつあります。形あるモノだけに限らず、移動やスキルや空間もシェアするシェアリングエコノミーの時代に変化しつつあります。
「所有からシェアリング」にくらしが変化したことで、メーカーは大きな打撃を受けています。ご存じの通り、自動車の所有者は減り、CDを買って聴くということも終焉を迎えています。これまでのように、一生懸命にモノをつくって売るだけでは、生き残れない時代が来たのです。
例えば アメリカのコンピュータソフト制作会社であるアドビシステムズは、プロダクトから月額制によるサービス販売に転身しました。また、空調機器、照明機器、キュービクルを単体で販売していたある電材代理店は、これらの商材をすべてセットにして、施工から月額制によるメンテナンスを販売する仕組みを立ち上げ成果を挙げています。
● 平成の30年間を読み解く。
今年5月で平成の時代が終わります。この30年間は、どんな時代であったのかを振り返ってみます。平成元年、世界の時価総額ランキング50社のうち32社は日本の企業が占め、松下電器は18位にランクインしていました。ところが平成30年では、日本企業はトヨタが35位にランクインしているだけで他はすべて海外の企業となっています。
日本の企業は、エレクトロニクスの世界に突入した当初は勝っていましたが、インターネットの世界になってボロ負けしているのです。これからの時代を考えると、新たな価値を創造しなければ生き残ることは難しくなります。日本企業は転換期を迎えているといえるのです。
<次の100年に向けての取り組み>
● パナソニックは「くらしアップデート業」に
松下電工、そしてエコソリューションズ社はこの100年間、配線器具、住宅用照明に代表されるモノをつくり、販売してきました。しかしこれからは複数のモノをつなぎ(システム化・IoT化)、買っていただいてゴールではなく、販売後もお客様とつながり、利用する価値を提案し続けることで(エンジニアリングビジネス化、モノからコトへ)、新たな価値を生んでゆく時代です。これをパナソニック 社長の津賀は「パナソニックが目指すのはくらしアップデート業」と表現しています。
エコソリューションズ社は、家庭の中ではHomeXと称するAIやIoTを活用した くらしのプラットフォームで、そして街づくりでは、ゼネコンの松村組との連携体制を活用し、この実現を進めて参ります。
● 新しい時代を生き抜くためのグローバルイノベーション
エコソリューションズ社は世界127か国・地域で販売をしております。そしてグローバルに建築ソリューション事業を推進するため、中国では現地有力パートナーと協業し、例えば昆明都市開発事業(コンセプト:百年健康都市)への参画、BIM(Building Information Modeling)とよばれる新しい設計技術を活用し、WELL認証(WELL Building Standard)とよばれる健康的で住みやすい空間を創る、くらし空間システム開発事業などにも参画し、グローバル化を推進しております。
● 新しい時代をつくる働き方
最後に新しい時代に即した働き方についても紹介したいと思います。エコソリューションズ社では取引先と会う予定がない日は、ここに示すような自由な服装で出勤することを基本としております。まるで休日のようなカジュアルな服装をした社長、役員、社員が、オフィスで仕事をする風景が当たり前になっています。服装だけでなく、オフィス内はフリーアドレスで、固定した席はありません。皆で集まって知恵を出し合えるスペースもあります。
新しい時代に向けて、このような環境で自由な発想を育み、垣根を越えた取り組みを実現する力に変えて、クロスバリューイノベーションを起こし、人々のくらしや社会に貢献し続けてゆきたいと考えています。
講演概要は以上ですが質疑応答では、北野社長が卒業された経営工学科の教授でもあった辻学長そして参加者から多くの質問があり、笑いも生まれる和やかな雰囲気の中、懇親会へと続きました。
質疑応答でのお話によりますと、北野さんが入社、配属された事業部門は、5年ほどでつぶれてしまったそうです。当時は未だ28歳だったそうですが、多くの上司がいなくなった中、企画課長として社内調整や残務処理など最前面に立って苦労されたようですが、逆にこの経験がその後の会社生活の原点となっているとのことです。
その後もいろいろとあり、数えると12回ほどの転機があり、事業立て直しに送り込まれることも多くあったとか。ただ、困難から逃げずに立ち向かった結果として社長の今があると、ユーモアも交えながら話されていました。また歴史上の人物としては、さまざまの苦難を乗り越えた、越後長岡藩の家老「河合継之助」に教えられることが多いとのことでした。
淡々とエコソリューションズ社のビジネスについてお話しされましたが、そのはしばしに北野さんの、事業と事業を通しての社会への貢献に対する熱い思い、そして行動力の一端をうかがい知る講演となりました。
<参加した方の感想/工学研究科 灰塚 興さん>
北野社長のご講演では、大変貴重なお話を聞くことができました。これまでは特定のモノを個人が所有することを前提にビジネスが構築されてきたが、情報化に伴う暮らしの変化とともに、特定のモノやコトを複数の人でシェアすることを前提にビジネスが構築される時代だという話が印象に残りました。また、改めて、IoTとAI技術で日本の暮らしをより良くすることが、過去100年間で人の暮らしを変える製品を提供してきたパナソニックの新たな役割だということを受け止めました。
また、大きな目標を実現するために、苦難が続いても決して逃げ出すことなく、問題に対して気負いせずに淡々と解決していくという北野社長の精神を規範に、社会人として成長していきたいと感じました。
ご講演の後は、OB・OGの方とお話もでき、非常に有意義な時間を過ごすことができました。
【取材日:2019年2月13日】※所属は取材当時