2021年7月16日(金)I-siteなんばにある「まちライブラリー@大阪府立大学」でアカデミックカフェが開催されました。カタリストは、大阪府立大学大学院 工学研究科の作田 敦(さくだ あつし)准教授。テーマは「全固体電池って何? ―安全・長寿命を実現する材料の化学」です。
現在の充電式電池の主流は、モバイルバッテリーや電気自動車などに使用されているリチウムイオン電池です。電圧とエネルギー密度が高くて高性能ですが、バッテリー内部の電解液が可燃性であるため、安全面において問題を抱えています。そんなリチウムイオン電池の課題を解決するため、実用化が期待されているのが全固体電池。その名の通り、電池の中身が液体から固体になった充電式電池で、リチウムイオン電池の一種です。
まずは電池の原理から。化学反応により発電する電池を「化学電池」と呼び、乾電池のように充電できない電池を「一次電池」、充電できるものは「二次電池」といいます。一般的に電池は「正極(プラス)」「負極(マイナス)」と「電解液」(水に溶けると電気を通す)により構成されています。化学反応により発生した電子とイオンの移動によって電気エネルギーが作られます。
二次電池の仲間であるリチウムイオン電池の基本原理も同様で、電解液内のリチウムイオンが正極と負極を行き来することでエネルギーを貯め、使用することができます。正極と負極の間にはセパレーターがあり、電解液を保持し正極と負極の間のイオン伝導性を確保し、過熱や発火を防ぎます。電極に用いられる材料はさまざまですが、リチウムが使用されるのには理由があります。リチウムは金属の中でも軽くて、イオン化傾向が大きく高い起電力を保有するため、小さくて力強いのです。
全固体電池の構造は、根本的な安全性を改善すべく、有機系電解液の代わりに固体電解質を使います。安全機構の簡素化による高出力化、高エネルギー密度化。また可動イオンがリチウムイオンだけなので、副反応が生じにくいため長寿命化などのメリットが挙げられます。
全固体電池は、世界各国でしのぎを削る研究・開発分野です。2014年から2018年の全固体電池に関する国際特許出願の54%が日本の企業や大学。なかでも全固体電池開発においてトップを走っているのがトヨタ自動車。何年も前に全固体電池車の試作に成功しています。また固体電解質のサプライヤーとして、三井金属鉱業や出光興産が硫化物系固体電解質の量産技術開発に取り組んでいます。
全固体電池における開発状況について。小型電池に関しては、本格事業化に向けてサンプル供給。大型電池は実証実験で全固体電池の優位性を確認済。2021から2025年の実用化に向けて生産技術を開発中です。
今回のアカデミックカフェは、日常生活にも深く関わる電池がテーマということで、参加者の皆さんは、作田先生の丁寧な説明に聴き入っていました。終了後には配布テキストを片手に質問する方も!それだけ期待値が高く注目されている全固体電池の研究・開発。私たちの暮らしを変える次世代電池の実用化が、今から待ち遠しいですね。
作田先生が所属する大阪府立大学 全固体電池研究所(21世紀科学研究センター内)では、全固体電池の実用化に向けてさまざまな研究が進められており、世界を牽引しています。2020年6月には、全固体電池の高エネルギー密度化に有用な正極材量の開発に成功し、バルク型の全固体電池において、酸素還元を利用した大容量充放電を世界で初めて実証しました。
●全固体電池実用化の鍵となる革新的な正極材料を開発――低融性のリチウム塩を用いた非晶質化によって酸素の酸化還元を伴う大容量充放電を実証(プレスリリース)
https://www.osakafu-u.ac.jp/press-release/pr20200622/
※アカデミックカフェは、新型コロナウイルス感染拡大の影響を考慮して、ソーシャルディスタンスを施した座席の配置を行い開催しました。参加者には、体調や生活に関するアンケート記入をお願いし、入口での検温・消毒など予防対策を徹底しました。
<作田先生が寄贈された本>
『ビタミンF』(新潮社/重松 清 著)
https://www.shinchosha.co.jp/book/134915/
『告白』(双葉社/湊 かなえ 著)
https://www.futabasha.co.jp/booksdb/book/bookview/978-4-575-51344-8.html?c=40117&o=&
『冷たい密室と博士たち』(講談社文庫/森 博嗣 著)
https://bookclub.kodansha.co.jp/product?item=0000198388
『もし高校野球の女子マネージャーがドラッカーの『マネジメント』を読んだら』(ダイヤモンド社/岩崎 夏海 著)
https://www.diamond.co.jp/book/9784478012031.html
『森のなかの海』(上・下)(光文社文庫/宮本 輝 著)
https://www.kobunsha.com/shelf/book/isbn/9784334737405
【取材日:2021年7月16日】 ※所属は取材当時。