2015年「FABEX(ファベックス)関西2015」(主催:日本食糧新聞社)の主催者特別企画として2015粉もんアイデアメニューグランプリが行われ、応募総数132点の中から本学地域保健学域総合リハビリテーション学類栄養療法学専攻3年生の荒井秋恵さんの作品「にこにこ和チヂミ」がグランプリ、「栗かぼちゃと豆乳のわらび餅」がファイナル作品賞を受賞しました。
今回、Michi Take編集メンバーの松田さんと湯川さんが羽曳野キャンパスで学ぶ荒井さんを直撃取材し、グランプリを受賞したメニューの開発や府大に編入したいきさつ等お話を伺いました。
グランプリ受賞の詳細は下記の府大Webサイト記事をご参照ください。
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本学学生が「2015粉もんアイデアメニューグランプリ」でグランプリを受賞
<粉もんアイデアメニューグランプリについて>
-グランプリ受賞おめでとうございます!さっそくですが、メニューを考えたり作るにあたって一番大変だったこと、一番楽しかったことはありますか?
楽しかったことは、今回のグランプリでは上位に入ると商品化の可能性があったので、そうなれば糖尿病で食事療法を受けている患者さんが手に取ってくれるかもしれない、「食事療法をもっと美味しく楽しいものにしたい!」という自分の想いに近づけるかもしれないと感じたことです。
大変だったことは特になかったのですが、応募しようと思いながらも課題に追われているうちに締め切りの2日前になっていて・・・ それから急いでメニューを考えて作ったので、改良する時間もなく、焦った思い出があります。
「生活習慣病の有無を問わず老若男女誰もが共に楽しめるメニューをめざされた」ということですが、チヂミのタレは味が濃く塩分等が気になります。調味料などはどう工夫されたのですか?
味噌や生姜を使って生地に味をつけ、梅、鰹節など和の食材を使い、2種類のチヂミを作りました。もともとの生地に風味をつけることで、塩分の濃いタレを使わなくても召し上がっていただけるよう工夫しました。お好みで、ポン酢や柚子胡椒を添えます。遅めの夕食にも、子どもの朝ごはんやおやつにもおすすめできるような、野菜たっぷりで、栄養バランスの整ったものをめざしました。
グランプリではオリジナル性に優れた“粉もん”メニューを募集していました。粉を使ったメニューは沢山あると思いますが、どうしてチヂミ、わらび餅にしようと思われたのですか?
みなさんが驚くようなメニューにしたいと思ったからです。“粉もん”でイメージするお好み焼などは、ふわふわでソースが美味しければ良いという感じがして変化や意外性が無いと思い、人の心に留まるようにチヂミとわらび餅を選びました。
受賞したときの第一声はなんでしたか?また、一番初めに誰に伝えましたか?
受賞結果発表の時は、強豪揃いで自信がなかったこともあり、とても驚きました。会場には担当教授・母・友人が来て見守ってくださっていて、応募する時に相談にのってくれたり、毎日さまざまなことを教えてくれたりと、日頃から支えてくださっている方々に「ありがとう」と伝えました。自分のことのように喜んでくれている友達の姿を見て、母が涙して喜んでくれたことが何より嬉しかったです。
一般の人にとって“美味しい”と“ヘルシー”の両立はとても難しいと思うのですが、私たちはどう両立していけばいいのでしょうか?
それは私にとっても難しい課題です(笑)それを考えて突き詰めるのが栄養学を学んでいる私の役目ですね!
<糖尿病への関わりについて>
編入学されたとお聞きしていますが、一度社会に出て再び大学で学ぶには、一種の覚悟が必要だったと思います。どのように編入を決意したのでしょうか?
仕事を辞めて学び直すことや親に学費の負担をかけることへの不安もあり、もちろん覚悟が要りました。しかし、それ以上に看護師として糖尿病治療に携わっているとき、栄養に関する知識や情報が必要だな、と強く感じるようになり、管理栄養士の資格を取ろうと思うようになったのは私にとっては必然だったかもしれません。
そもそも私が糖尿病の治療に強く関心を持つようになったのは、看護の勉強をしていた大学で、糖尿病患者さんは厳しい食事管理や運動を強いられるため治療中断する方が多い、という現状を知り「医学が発展している現代にあっても、患者さん自身の毎日毎食の絶え間ない努力が必須とされ、患者さん自身が健康になりたいという気持ちがあっても治療が続かない病気があるなんて…」と驚き、糖尿病患者さんのためにできることを探したい!と強く思ったからです。また、その時教わった教授も人の話を上手く引き出してサポートできる看護師としても人間としても素敵な方で、その先生の影響もありました。
看護師として働くようになって数年間は、自分の理想とする糖尿病看護の実践が難しい状況で、看護師を辞めたいとさえ思う日々が続きましたが、勤務先を大学病院から糖尿病専門のクリニックに変えた時、これだ!と思える治療・看護に出会えました。そのクリニックでは、患者さんを親身にサポートする多くの管理栄養士を間近で見て刺激を受けました。食事療法を支援していくには生半可な知識ではいけないと感じ、再び学ぶことを考えるようになったのです。
もう一度大学で学ぶことについて、初めは迷いや周囲からの反対もあったので、食事療法の提案の幅を広げるために、まずは働きながら「野菜ソムリエ」や「フードコーディネーター」という資格を取ってみたのですが、なかなか自信にはつながりませんでした。医学的根拠に基づいた前向きな食事療法を提案し、患者さんや社会に貢献できる知識・資格・自信を身につけたいと思い、栄養を一から学ぶ覚悟を決めました。勤務していたクリニックで看護師を続けながら通うことのできる、大阪府立大学の存在を知ったことが決断の決め手になりました。現在は、看護師として週末と長期休暇時に勤務しながら学生生活を送っています。
将来的にどのように糖尿病と関わっていこうと考えていますか?
先々のことなので具体的なことは未定ですが、大学卒業後は、糖尿病専門クリニックに戻って看護師兼管理栄養士として働きたいと考えています。また、健康的かつ美味しい外食や中食のレシピ・献立を社会に提案する仕事や、学校・産業保健師や栄養教諭として、生活習慣病予防のための情報を発信する食育の仕事にも携わりたいと考えています。管理栄養士・栄養教諭の知識・資格を手にすることで、糖尿病の食事療法を多方面から支援できる可能性が広がることにワクワクしています。糖尿病患者さんの急増や食事療法の継続が難しい現状の背景には、仕事の忙しさや、病気や加齢に伴う身体の不自由さ、経済的な理由などを抱える患者さんにとって「健康的かつ美味しいかつ安価」な食事を入手することが意外と難しく、健康的とは言い難い外食や中食に頼らざるを得ない、生活習慣病予防・治療を続けたくても続けにくい現代社会の食環境にも一因があると痛感していて、外食・中食・給食現場の専門家の方々の力もお借りしながら、自分の知識や熱意を通じて、患者さん任せの糖尿病治療ではなく患者さんに歩み寄る社会・医療、誰もが健康的な食を選択・入手できるような「バリアフリー」な食環境を作れたら良いなと思っています。そのためにも、今回のようなコンテストなどの機会や人とのご縁をこれからも大切にしていきたいです。
<取材を終えて>
■松田景太(大学院工学研究科 物質・化学系専攻 博士前期課程2年)
荒井さんの糖尿病治療に関する想いはとても強く、はっきりと言葉にして皆に伝える姿に感動しました。ここまで人に想いを伝えることができる人だったからこそ、編入という決意ができたし、グランプリを受賞できたのだと思います。
本取材を通して、自らの想いを言葉で伝えることの大切さを感じることができました。
■湯川早紀(地域保健学域 総合リハビリテーション学類 栄養療法学専攻2年)
荒井さんとは同じ専攻ということもあり、私が、1年生の時に授業で同じ実験の班になったことがあります。その時から、とても優しく朗らかな方だなと感じていましたが、今回の取材で、優しさと強い信念を持っていらっしゃることが分かりました。「昨日より進んでいない自分が嫌で(笑)」と話され、常に成長を望む姿が非常に印象的で、私も見習いたいと感じました。
【取材日:2016年1月28日】※所属・学年は取材当時