高度な研究推進能力をグローバルな産業牽引力に転化させ、国際的舞台でリーダーシップを発揮する。そんな夢を追求する学生を産学が協同してサポートするのが、SiMSプログラム(システム発想型物質科学リーダー養成学位プログラム)です。
本リーディングプログラムでは「ことづくり」の発想から深い物質科学の素養を生かすことができ、階層融合的な研究戦略を想起できる「システム発想型」物質科学リーダーを養成することを目的とします。
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これまで築き上げた自身の経験や研究活動を礎として、更なるステップアップを図りたい学生、新たな世界に踏み出し、グローバル社会を牽引したいと考える学生を産学が連携してサポートするSiMSプログラム。2020年3月にそのプログラムを修了した二期生による座談会を開催。
SiMSプログラムに応募したきっかけから、プログラムを受講して感じたメリット、望みのキャリアパスを得て新たなステージを前にした心情までざっくばらんに語り合った同期3人によるトークは、学生生活を送るあなたへのエールにもなるはず。司会は3人にとっての恩師である藤村 紀文教授が務めてくださいました。
<参加学生>※あいうえお順
●乙山 美紗恵(おとやま みさえ)
大阪府立大学大学院 工学研究科 物質・化学系専攻 応用化学分野 D3
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●長野 将吾(ながの しょうご)
大阪府立大学大学院 工学研究科 機械系専攻 機械工学分野 D3
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●松下 裕司(まつした ゆうじ)
大阪府立大学大学院 工学研究科 電子・数物系専攻 電子物理工学分野 D3
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<司会>
●藤村 紀文(ふじむら のりふみ)
大阪府立大学 工学研究科 教授
SiMSプログラムコーディネーター
藤村
まずSiMSがどのような人材を育成すべく設計されたプログラムなのかお話します。
これまで博士後期課程(ドクター)の大学生は、指導教員が成績優秀者で研究が集うにしっかりと取り組むことのできるどちらかというと真面目な学生に進学を勧めて、指導教員の専門領域のプロフェッショナルを育成し、将来、その学生の多くはアカデミア(大学や研究所)に残ってその分野の研究を続けるというキャリアパスが大多数でした。
でもこれではいけないと私たちは考え、15年前に当時の学長と相談しました。ドクターの学生たちを、産業界での輝かしいキャリアパス取得へと導くプログラムを大学が考えようということでした。
メルケル首相が理論物理学の博士であることはよく知られています。ドイツの歴史上初めてとなる女性首相は、4期16年の任期が2021年で終わります。政界引退を決めて影が薄くなっていた状況とは打って変わり、新型コロナ危機に直面し、積極的にメッセージを発信しています。
民主主義下で国民に犠牲を強いるには「可能な限り説明を尽くす」と語り、危機的な状況や他に選択肢がないことを丁寧に語っています。法律がないからなどと逃げずに、論理的に国民を説得するリーダーシップは感動さえ覚えます。
まさに、見えない相手、答えのない状況における論理的思考と新たな戦略と発想、そして究極の選択における説明責任を果たす姿は博士首相の真骨頂です。自然科学を相手にする博士研究者が社会を牽引するということ、現在のこの困難な状況で本当にこの活動の必要性を確信しています。
「勉強や研究は好きじゃないけどベンチャーをやりたい!」「人と違うことを自分の力で達成したい」といった考えを持った学生が、ドクターに進んでくれるようなフェーズチェンジが起こればいいなというのが私たちの望みです。
SiMSプログラムでは、そういう人たちが自分を磨くために必要なコンテンツを用意しました。多くの人たちと人脈を築き、それを自身が目指す将来を手にするために、多様な場で多様な人たちと協力してそれぞれに合ったカリキュラムをデザインし、コースワークを推進する環境を提供しました。元企業幹部メンターが、カリキュラム設計だけでなく研究内容やインターンシップ、海外留学などのサポートができる体制であることもSiMSの特徴です。
ーSiMSプログラムに応募したきっかけは?
藤村
では、SiMSプログラムに応募したきっかけ、ドクターに進もうと思ったきっかけを教えてください。双方がリンクしていなくてもいいです。
長野
漠然と博士課程進学後のキャリアに不安があり、学部で就職活動をしていた時、ユニークで目立った存在の博士課程の先輩たちを身近に見ていたのですが、こういう人に自分がなれれば就職は大丈夫なのかなと考え、博士課程への進学を決めました。
SiMSを選んだ理由は、民間企業の面白さと、ドクターとしての研究の両方が学べるプログラムがあったから。進学について親を説得する時、SiMSが民間企業へのキャリアパスを大切にしたプログラムだということが、決め手になったように思います。
乙山
博士課程に進学した理由は、研究が好きだったから。それが4年生の時です。SiMSを選んだのは、今求められているドクターになれるというのが自分の中で響いていて、それが一番の理由です。
でも親を説得するのは大変でした。急に「女の子は高学歴でなくてもいいよ」と言われ、それなら「変えてやりたい!」と思い進学しました。あと修士課程1年から入れるというのが結構大きなポイントです。修士課程1年時にドクター進学を決めたなら、そのキャリアパスを考えるのは早い方がいいと思います。
長野
僕は4年生の時、あまりわからない状態でSiMSに飛び込んだのが良かったと思っています。たぶん修士課程1年まで考えていたら、いろいろ状況を分析しすぎて冷静に修士で就職してしまっていたかもしれないです。
藤村
そういう余裕が必要ですよね。2年間研究ばかり取り組むのではなく、ドクターに行くことを含めて5年間で自分の中で考えを巡らせ、普通ではできないことに挑戦できることができるのがSiMSの良さです。
松下
ドクターに進学しようと思ったきっかけは、自分の研究に大きな可能性を感じたこと。もしこのまま6年くらい続けると、世の中に変化を促す大きな成果を生めるかもしれないと思い、ドクターに興味を持ち始めました。研究室での先輩にドクターの方がたくさんいらっしゃったので、ドクターに行くことへの障壁はありませんでした。
SiMSに入った理由は3つあります。まずは金銭面、それに研究、最後に海外留学です。海外研究に関しては、SiMSでは必修ですので、そういう強制力があるのも大きかったです。研究室ローテーションと留学は強制でよかったと思っています。これがオプションだったら行かなかった人が結構多かったように思います。
ーSiMSプログラムが研究テーマに影響したこと
藤村
ではSiMSの活動した中で、みんなの場合は、自分の中で主専攻の研究テーマが変わっていったと思います。そういうことも含めて、SiMSの演習やイベントが自分の様々な資質の涵養にどのように役に立ったか、自分の研究テーマにどう跳ね返ってきたかということを視野に入れながらお話ください。
長野
将来は新規事業を創出することに携わりたいのですが、それはリーディングに入ったおかげだと思っています。「戦略的システム思考演習」という授業を通して、自分の研究や専門性と、社会とのつながりをどのように描けば良いか、考える機会を得ることができました。
松下
研究が大きく変わった転換点は留学です。自分の研究分野で一番有名な研究室に3ヶ月間所属しました。当時自分の研究は、例えばある物性値を追い求めさえすれば良いという研究思考でした。
でもそうではなく、実際に使用する上での重要性まで踏み込まないといけないのだと、研究室に所属するメンバーたちとのディスカッションを通して感じました。それがあったから、自分の博士論文も充実したものになりましたし、それがSiMSを通して得た一番のフィードバックだと思います。
乙山
リーディングのカリキュラムの中で、必修の留学や研究に対するモティベーションが、自分の研究にかなり影響しました。普段自分が取り組まない解析の技術を学ぶことは、自分の主専攻のことを深く突き詰めるには必要な事でしたし、そこで取り扱った材料をドクター論文のテーマに反映することができたので、研究テーマにも大きく影響しました。
次に、授業が自分のキャリアパスに影響したことについて。SiMSの授業で企業インターンシップに行けるのですが、大学と企業では研究の進め方が全然違うことがわかりました。またアメリカ留学の際には、現地の大学には大学発ベンチャーがたくさんあることも知りました。これら経験したことを踏まえると、大学と企業、双方のギャップが日本ではまだ結構あるのだと身に染みました。
そのギャップを埋めていく「橋渡し研究」がイノベーションを生むなかで結構大事なのかなと思います。自分にとって、そこが貢献できる所だと思っています。SiMSでの授業を受けたことで、企業や社会でどう貢献するか考えながら研究ができるように、意識が変わりました。
藤村
大切なのは、この後、変わっても良いと思うことができること。自分でベンチャーしてもいいし、国研から大学に移ってきてもいいし、企業に行ってもいい。それが自由に選べる。博士の学位を持っている人はなんとでもなるから。ぜひ今後どんどん上昇して欲しいと思います。
ー思い描いたキャリアパスの変化
藤村
ドクターを卒業して就職も決まって三者三様。当初自分が想像していたキャリアパスと変わったのか、変わっていないのか。それとこのキャリアパスをどういう風に自分で思い描いて、就職先を決めたのか教えてください。
長野
思い描いていたのは、やはり専門性が活かせる分野ということ。元々はデータ分析職に興味があったので、専門家が多くいるIT系の企業に行くだろうと思っていました。でもSiMSでの活動を通して、元々うまくデータを活用できていない分野に行く方が、自分が5年間やってきた活動に近くて面白そうだと考えたので、自動車部品メーカーでデータ分析に携わろうと思い就職しました。
ハードウェアからソフトウェアに転身する業界の構造上、新しいもの、新しいアイデアを求めている分野だと思うので、自分も手を挙げながらSiMSで頑張ったように、自分がプロジェクトリーダーとして、社内で新しい事業を興こせるようになりたいです。
松下
キャリアパスについてですが、自分の中では修士課程1、2年の頃は企業就職するのだろうなと漠然と考えていました。そのような状態で博士課程1年を過ごしていましたが、スロベニアへの留学がきっかけで考え方が変わりました。他のポスドクの人たちとディスカッションする中で、自分の意見をアピールし、取り組んできた実験を反映させて進めることができ、意外と自分でも通用するのだと感じました。
それと自国のために頑張っているスロベニア人たちとの出会いから、日本も頑張らないといけないなと感じました。そのためには企業に就職して日本のために頑張る。自分に求められているのはそれだと思いました。その上で、自分のニッチな研究分野を企業で取り組むのも1つの選択肢だったのですが、もっと違うこともしてみたいと思い、電気、精密機器メーカーに就職しました。
会社の中に身を置き、自分のアイデアが採用されると面白いことができるかもしれない。そういうことが自由にできそうな社風だと、いろんな人から聞いていたので同社を選びました。
乙山
最初入った頃は、企業に就職してものづくりをすると思っていました。でもインターンシップや海外の大学での経験を通して、橋渡し研究に携わりたいと思い、今の進路である産総研に決めました。電池の研究をしていますが、SiMSに入ったことでその応用先は多岐に及ぶことに気付かされました。
そのおかげで、どのような電池が求められているのかをよく考えて研究できるようになったと思います。それを具体化するのがこれからの目標です。自分の開発した電池で未来を変えていきたいです。
藤村
女性の立場として研究のトップとして、産学の橋渡しをするというのは、すごく大事ですね。今の女性の立場ってどう思いますか? 昔とはだいぶ変わっていると思うけど。
乙山
いい方向に変わっていると思います。あと最近いろんな方とお話させていただいていて、「自分の娘も乙山さんのようになって欲しい」と言っていただくことがあって(笑)。
一同 笑
乙山
それが嬉しくて(笑)。お母さん世代もリケジョを認めてくださって。女性が理系に進んだり、代表になったりすることが認められていく社会になっていく。自分がその一助になっていれば、私はすごく嬉しい。やってきてよかったと思います。
ーどうなっている? 30年後の自分
藤村
君たちは、これから30年はアクティブに何かができ、何かを生み出せるわけです。今の時点でいいから、将来こうなっていたい、ということがあれば教えてください。30年後にこの記事を読んでびっくりするような、思い切ったことを言っておいてください(笑)。
長野
常に自分が一番やりたいことや、やるべきことをずっと続けさせてもらえる人生がいいなと思っています。自分が一番やりたいことに取り組めている状況が、一番価値を生み出し社会の役に立つと僕は考えています。年齢が上がるにつれて好きなことをさせてもらえるために要求されるハードルも上がると思いますが、30年後もそのままいきたいなと思っています。
藤村
何をしたいと思っていても、それに必要なアイテムはもう持っているよね。自分がやりたいことをやるにあたって必要な基本的な素養は一応全部持っている。だから何でもできると思います。
松下
幸せそうだなという人を見ると、自分の夢とかを語って、その夢に向かって真っ直ぐに進んでいる人なのです。藤村先生を見ていてもそう思います。それができるような人になりたいです。
乙山
5年後を中心に考えていたんですけど、5年後は「令和を代表する若手研究者の象徴になる」です。ちょっとずつステップアップして「これこそが今の研究者か」と言われたいです。これまでいろんな人に助けられて、今の自分が成り立っているので、30年後は教育をしたい。世の中に還元したいと自分自身は考えていると思います。あと将来、「電池の女神」と呼ばれるようになりたいです(笑)。
ー必要なのはチャレンジ精神
藤村
これまでの経験値で話してもらえればと思いますが、どういうタイプの学生がSiMSプログラムに向いていると思う?
長野
これは賛否両論あると思いますが、好きなことしかできないような学生がSiMSに向いていると個人的には思います。好きなことしかやらないので成績が悪く、修士や博士に進学する考えがない人が多いのが残念ですがSiM生にも学部時代の成績が良くない人はいっぱいいます。
「やりたいことを実現するために、これも大事だったんだ!」とわかると、今まで好きではなかったことも頑張れる。やりたいことに対しては爆発的に集中するタイプですね。
松下
チャレンジができる人というのは軸としてあります。「こうやったらいいのでは?」と勝手にやるというか、些細なことでも気軽にチャレンジできる人。あとは、ちょっとした勇気と決断、そこは大事だと思います。
乙山
前向きで、好きなことに全力を傾けて注げられる人はやっていける。大学で自発的に学ぶ上において、そういうことを大事にしたいと思いながら過ごしている人は、実はみんなSiMSプログラムに参加して成し遂げられる素養があると思います。
ーSiMSの扉は誰にでも開かれる!
藤村
では後輩たちにメッセージを。後輩たちが「自分もドクターコースやSiMSに行きたいな」と希望を持ってもらえるような言葉を贈ってください。
長野
進学前は周囲に反対されたこともありましたが、SiMSでの学びはとても楽しかったので、SiMSに進んで正解だと思っています。周囲に反対された時は悩みましたが「SiMSプログラムは出来たばっかりだし反対意見は参考程度に聞こう」という気持ちでいました。
今自分が進学を検討するなら、SiMS修了生・SiMS在校生・SiMSではない博士課程修了生・SiMSではない博士課程生など、色んなパターンの先輩から話を聞くことができると思います。色んな意見を聞いて最終的には自分で決断すると良いと思います。
松下
僕は学部の頃、ラグビー部に所属していたので、部員たちからすると「研究一本で進学するなんてありえない」と言われたこともあります。部活でよく怪我をしていたので、ある先生は僕のことを影で「骨折くん」と呼んでいたらしいです(笑)。僕は「そんな骨折くんがなぜドクターに?」と言われたくらいの人です。
それでも博士を取得できたので、これから挑戦しようと考える人がいるとしたら、そんなに深く考えずに踏み出して欲しい。自分がドクターに向いているかどうかではなく、行きたいかどうかが一番。担当教員やいろんな先生方、SiMS事務局、親や友だち…いろんな人と話し合って決めて欲しい。修士課程、学士課程と比べると大変さも桁違いですが、達成感は段違いに大きいです。
藤村
2人とも「行きたいと思ったら、行けばいい」ということですよね。結局「何か社会で活躍したいという気持ちが強い人」と「人と違うことをやってみたいという気持ちが強い人」がドクターやSiMSへの興味を持ってくれる人なのかなと思いますけど、そういう意味では自分が持つ素養の中の何がドクターやSiMSに行くことを掻き立てたの?自己顕示欲なのか、リーダーシップなのか。
長野
僕の場合は、あまのじゃくではないですけど「人と違うことをすると得をする」と考えています。例えば僕は学部高学年や大学院では専門の勉強をしたいと考えていたのでTOEICの勉強は学部1年生の最初にやりました。その頃周りの友達は「大学院も就活もまだ先だからまだやらないほうがいい」と言っていましたが、1年生のうちにTOEICの勉強を終わらせると、留学プログラムの選考等の公募で通過しやすいんですよね。
選考する側も同じ点数なら若い学生に行かせたいでしょうし。他の人がTOEICの勉強をしている時期には,別の活動にリソースを割いて経験を積んでいるので色んな機会が僕に回ってきました。SiMSも僕達が2期生で「手を挙げれば何でもやらせてもらえそうでお得かな」と思いました笑
藤村
松下君の場合、素養としては負けん気?
松下
そうですね(笑)。SiMSのメンターさんから話を聞いていると、ドクターを取得して社会に出るとメリットが大きいなと思ったのが一番です。素養としては、活躍したい気持ちがあったから、だと思います。研究に対してでも、何でもいいから単純に面白いなとワクワクできる人が、才能があると思います。
藤村
では、電池の女神に締めてもらいましょう(笑)。
乙山
素養としては、私自身は臆病ですが、目立ちたがり屋なんです。臆病だから事前準備は欠かせません。後輩へのメッセージは、みんなが修士で卒業する時代に全然違うことをするというのは、すごい怖いことだと思うんですけど、他の人と違うことをするのはめちゃめちゃかっこいい。
大学に入って、失敗しても許されるのは若い時だけ。最後の最後、学生のうちにドクターまで行ってしまうのはチャレンジングでいいと思います。
藤村
今日は皆さんありがとうございました。これからも頑張ってください。
一同
ありがとうございました!
【取材日:2020年3月4日】※所属は取材当時