大阪府立大学地域保健学域は、看護学類、総合リハビリテーション学類、教育福祉学類の3つの学類を設置しています。

学部時代には、看護職、理学療法士、作業療法士、管理栄養士、社会福祉職や教員などの専門職を個別に育成していましたが、2012年にその養成に関わる学問領域を学域・学類として統合・再編し、「人が健やかに生きる」ことに影響を及ぼす現代の諸問題を総合的にとらえて分析し、それぞれの専門領域の視点を交じり合わせながら学びを深めていくシステムを作りました。

高齢化、少子化、地域での人と人のつながりが薄れていく無縁社会、貧富などの差が広がる格差問題、家族の中での暴力など、現代の日本社会には対人支援領域に関わる複雑な課題が本当にたくさんあり、今や待ったなしの状況。そのような時代だからこそ、多様な領域の専門職と連携・協働しながら、この複雑な課題の分析にあたり、複合的な視野で人を支援できる力を持った専門職を育成することが重要です。

このような連携・協働の力は、「チーム・コンピテンシー」と呼ばれ、イギリスやアメリカではその力を養う「多職種間連携教育」が進んでいます。これらは英語でInter-professional Educationと呼ばれ、IPE という略語で日本でも知られつつあります。しかし、日本でのIPEの実践は充分とは言えません。大学における専門職養成課程での多職種間連携教育を実践する大学はまだまだ少なく、関西地域では積極的に取り組む大学は大阪府立大学以外他にありません。

地域保健学域では、発足当初より看護、リハビリテーション、社会福祉、教育の各領域を一つ一つばらばらに考えるのではなく、それらを「人間支援科学」という広い枠組みで捉え、その人間支援の基盤を学ぶ「生命倫理学」、「コミュニケーション論」、「ケアリング論」、そして、各領域が有効に連携・協働し合う力を養う「人間支援科学論」「コラボレーション論」の5科目を「学域共通科目」として設置しています。

3学類の学生が一同に集まって共通の課題を議論し、それぞれの専門領域の視点を合わせていく学びです。

取材したこの日は2年生前期の集中講義として「人間支援科学論」が羽曳野キャンパスで開講されました。看護、理学療法、作業療法、栄養、社会福祉、保育、教育の専門領域を学ぶ学生が一緒に講義を聞き、各専門領域が散らばるようにグルーピングし、グループワークを通じて、お互いの領域を知り合い、基本的な連携・協働の必要性を学んでいきます。

2年生の後期には、さらに多職種連携・協働について理論的に学び、その具体的な方法を習得するグループワークも行う「コラボレーション論」なども予定されています。

◆過去のコラボレーション論の様子

 

◆講義に参加した学生から寄せられた声

「良い支援のためには、患者に関わる医療従事者だけではなく、周囲の環境も巻き込んだ支援をすることが大事だと気づいた。」(看護学類2年)

「多職種の話し合いの中で、専門知識だけでなく、人としての強さ、優しさも必要だろうと思った。そういう医療従事者になりたいと思った。」(総合リハビリテーション2年)

「今回の授業を通じて、人間支援をする際には、いろいろな分野の人々が協働すればするほど多面的にアプローチができて支援の可能性が広がりより良い支援ができること(中略)を改めて感じました。」(教育福祉学類2年)

こういった学びを深めることで、職種間の多様性を尊重でき、臨床データ等の情報の評価・分析能力を備え、エビデンス(科学的根拠)に基づく高度な医療・福祉を提供できる地域社会構成のリーダーを育成すると、奥田邦晴学域長は語ります。

これからの社会の「人を支援する」領域においては、深い専門性だけではなく、連携・協働力(チーム・コンピテンシー)を持った専門職が必要とされています。活発な研究活動とそれを背景とした高度の専門教育、そして多職種と有効に連携・協働する力(チーム・コンピテンシー)を養成する専門教育、この二つの学びを共に行っていることが、地域保健学域の大きな強みです。

【取材日:2017年4月7日】 ※所属は取材当時